民話のふるさと遠野には龍が住む神社がある。
遠野市の西、小友(おとも)集落の巌龍神社。赤い欄干の橋を渡った先にそびえる不動岩には、確かに龍の姿。伝承によると昇り龍と降り龍が住まうとされる。
岩の高さは54メートル。天を突く岩の岩肌の龍の姿は、まるで天と地を行き来しているようにも見えてくる。
遠野の旧跡の例にもれず、巌龍神社の創建時期は定かではないが、古文書には小友村常楽寺開祖の無門和尚が不動明王を勧請して開いた巌龍山大聖寺がはじまりで、羽黒山の修験者が別当職をつとめたと伝えられているらしい。古文書の記録どおりだとすると、巌龍神社の歴史は室町時代まで遡ることができる。
この神社では2月28日に小友の裸参りが行われる。この祭りの起源も明らかではないというが、腹にサラシを巻き半股に草鞋を履いた男たちが、神社と町はずれの庚申塔の間約300mを三往復する奇祭として有名だ。また、以前には山伏が読経しながら不動岩を登る宗教行事も行われていたのだとか。
龍が住まう不動岩から周囲を見渡すと、まるで日本の原風景を思わせる美しい自然あふれる土地だということがよく分かる。岩手日報が大正時代に行った岩手県内三景、昭和25年に実施した日本百景にも選ばれ、古くから四季折々楽しめる景勝地として愛されてきたというのも頷ける。
不動岩は神社も祭りも始まりは定かでないながら、祈りと祀りが人々の暮らしにとって大切なものだということを教えてくれる。人々と神仏、あるいは大自然が交感する伝統が受け継がれてきたことは間違いない。
東日本大震災では、壊滅的な被害を受けた沿岸部を支援するベースキャンプ的な役割を果たした遠野市。荷沢峠を越えて陸前高田市や大船渡市へ向かう街道沿いに住む巌龍神社の龍が、震災直後の、そして震災後今日に至る人々の活動とこころの動きを、水神様として見守ってきたこともまた、間違いないだろう。
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