宮沢賢治に「イギリス海岸」という作品があるのをご存知ですか。夏休みの15日間の農場実習の間に、教師であった宮沢賢治が生徒たちを連れて水遊びをしたり、化石を探したりして過ごした北上川での思い出を綴った物語です。
イギリス海岸という名前は、渇水期に川底に現れる泥岩層が乾いて白く見える様子を、イギリス・ドーバー海峡の白亜の崖に見立てて、宮沢賢治が呼ぶようになったのだと言われています。
上流域の治水工事が進んで川の流れが大きく増減することが少なくなった今日では、賢治たちが遊んだ川床は水の中です。それでも、水の流れとともに川風がゆったりと通り過ぎて行く川岸は、歩いていてとても気持ちのいいものです。
ドッテテドッテテ
イギリス海岸近くの河原には駐車スペースが3カ所あって、一番近くは本当に川床のすぐ近くで便利のよい場所なのですが、一番離れた場所から歩くのもなかなか素敵です。
だって、こんなにきれいな川沿いに歩いていけるんですから。そして――
チェーンの付けられた車止めには、ドッテテドッテテ――
そう「月夜のでんしんばしら」です。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなし
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。」
楽しくなっちゃう散歩道なんです。
このルートからイギリス海岸を目指すには支流を渡らなければなりません。それも
こーんな飛び石で。楽しそうでしょ。
飛び石そのものはしっかりしているし、歩幅に合っているのですが、この日は水量が多くて、石の間を流れていく濁った水がぐるぐる渦巻いて、目が回ってしまいそう。ちょっとスリルがありました。
飛び石を渡って、ドッテテドッテテのでんしんばしらがいた岸を振り返ると、規模は小さいけれどドーバー海峡のチャート(白亜)の崖、といってもよさそうな景色。
岸辺で釣り竿を出している人と比べると大きさがわかってしまいますね。たしかにスケールはぜんぜん違うけど、賢治たちがイギリス海岸って呼びたかった気持ちが分かるような…。ドッテテドッテテ。
そこは第三期と呼ばれる地質時代の終わり頃
北上川の本流沿いに川下の方に歩いて行くと、ふつうの民家なのにお休み処の「くるみの森」を発見。お茶っこしてけえ、ってことでしたがあいにくの留守。無料のお茶のサービスの他、賢治に「なりきりセット」で記念撮影することもできるそうですよ。あ~留守だったのが残念でなりません。
そしてここにも――
ドッテテドッテテ…
イギリス海岸の岸辺では、賢治についてのパネル展示もされていて。
川床が現れた時の写真とか、
手書きの原稿の写しとか、いろいろ展示されています。花巻の人たちがいまでも賢治のことが大好きなんだということが、ストレートに伝わってくるような場所でした。
それに実際そこを海岸と呼ぶことは、無法なことではなかったのです。なぜならそこは第三紀と呼ばれる地質時代の終り頃ころ、たしかにたびたび海の渚なぎさだったからでした。その証拠には、第一にその泥岩は、東の北上山地のへりから、西の中央分水嶺ぶんすゐれいの麓ふもとまで、一枚の板のやうになってずうっとひろがって居ました。
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