「地層処分」とは核のゴミの最終処分の話です

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お昼休みに近所にあるパブリックな施設に行って夏祭りのチラシを探していたら、お目当てのものは見つからず、代わりに「いま改めて考え量地層処分」というA4版2ツ折りのパンフを見つけた。まるで手にとってもらわないようにするかのような、地味~な表紙のパンフレットだ。(印刷費用は通常のカラー印刷と同じだけ掛けられている)

いきなり「地層処分」って言われても、これが「日本版のオンカロ」の話だと分かる人の方が少ないんだろうなと思いながら中面を見てみると、ニュースで盛んに報じられてきた「これまでは公募で候補地を探してきたが募集がないので、これからは国が前面に出て推進」ということがゴリゴリした言いまわしでガッチリ記されていた。愕然とする他ないその内容についてザックリとご案内。

中面の冒頭でいきなり<使用済み燃料を再処理し、取り出したウランやプルトニウムを再利用しつつ、廃棄物の量を抑える「核燃料サイクル」を推進する方針です>と記されているではないか。いつそんな方針になったのか、ということ以前に再処理も核燃料サイクルも日本ではまだ軌道にのっていないし、核燃料サイクルで減らせる廃棄物の量など微々たるものでしかない。却って処理の過程で多くの核のゴミが生み出されてしまいかねない。

続いて「ガラス固化体」「長期にわたって自然現象等の悪影響を受けにくい安定した場所」という説明が掲載されたその上で、「国が前面に立って、最終処分の実現に向けた取り組みを進めます」と宣言しているわけだ。

つまり公募では埒が明かなかったから、国が指名するということ。指名された方はたまったもんじゃない。「ハイ、わかりました」と簡単に言えるような話ではない。

しかし、もしも断ったりすると「無責任だ」とか「公共の福祉に反する」などと厳しく非難されることになるかもしれない。何万年にも及ぶ保存期間中の危険性を訴えたりしようものなら、例によって「レッテル貼りだ!」と権力側から一方的に糾弾されてしまう情景まで目に浮かぶ。

そもそも処分不能な核のゴミが出ることなどほぼ60年前、東海発電所の建設を始める時点から分かっていたのに、核のゴミをサイクルして「準国産エネルギー」にするなどという夢みたいなことを語り続けた挙句に、「やっぱ燃料サイクルはとっても難しいみたい。だけど実現に向けて頑張りま~す」と言っているのが「いまココ」的現状。原発をスタートさせて、何十年も続けてきて、さらに夢みたいなことも言い続けてきた国や電力会社こそが無責任。今になって、公募がないから指名しますとは!

そもそも核のゴミは10万年から100万年も閉じ込めておかなければならないとされるもの。そんな遠い将来の子孫たちに対して、「前面に立つ」と言う国は、いったいどのような形で責任をとるつもりなのだろうか。

せいぜい数十年しか生きていないだろう現存世代に対してでさえ、ひとたび事故が発生すれば企業も国も責任のとりようがないことはすでに明らかになっている。

これこそ無責任の極みではないか。

「いま補償金をもらえるのなら、50年後の子孫に何かあっても構わない(実際にはとてもネットに書けないほど酷い表現だったが)」ということを言った発電所地元の人がいたが、このパンフの内容にはまったく同じおぞましさがある。

 特定の地域に関心を持ってもらうだけでは、処分地選定はうまく進みません。地層処分の必要性や安全性について国民に理解いただき、その結果、選定調査を実施する地域に対する敬意と感謝の念が広く共有される。そうした状況を目指して、全国的な情報提供や対話活動などを展開していきます。

いま改めて考えよう地層処分 | 経済産業省 資源エネルギー庁

指名された地域に対する「敬意」と「感謝」が必要なのだそうだ。噴飯物とはこのことではないか。指名された地域の反対を封じ込めるための共犯者になることを、指定されなかった地域に求めているのである。さらに、ここにはまったく未来の人類に対するセンスが感じられない。遠い未来の子孫に対する犯罪についてまで、共犯者になることを現存世代に強要しているのだ。

さらに、言うに事欠いて、地層処分を行わないことこそ「将来世代に負担を先送り」することだとぶちまけている有り様だ。(これも最近よくある手だ。具体性のない言葉で反対論に先回りしてフタをするパターン。何を言っても議論が噛み合わないようにするための仕込み)

大量のゴミが出来てしまったのは事実なので仕方ない面はあるものの、なぜ地層処分しかないと決めつけて掛かるのか。なぜ全量再処理と言っているのか。その裏に「プルトニウム」や「核兵器」というキーワードが透けて見えるのは気のせいだろうか。

かなりびっくりさせられるパンフレットだが、資源エネルギー庁がPDFとしてもアップしているので、詳しくはこちらをご覧ください(まったく同じものですが)。

 いま改めて考えよう地層処分 | 経済産業省 資源エネルギー庁
chisoushobun.jp  
 全国シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分」 経済産業省・資源エネルギー庁、原子力発電環境整備機構(NUMO)
www.chisou-sympo.jp  

別の論点 1:地層処分と原発再稼働

どうせ今でも大量の核のゴミがあるんだからとか、処分方法を国が決めたんだからということは、原発再稼働を是とする理由にはならない。

原子炉を運転すれば、処理しなければならない核のゴミは当然増える。現在のゴミでさえどうしていいか苦慮しているのに、さらに増やすことが「正しい」という考え方は論理として破綻している。

別の論点 2:核変換の研究は免罪符にならない

事故続きのもんじゅの扱いも絡めて、核のゴミの放射性核種を人為的に核種変換させようという研究開発が始まっている。放射性核種は時間とともに放射線を出して崩壊し、別の元素に変化していく。この変化を加速させようという研究だ。

実現すればストロンチウム-90のような毒性の高い放射性核種の崩壊を選択的に加速させて、核のゴミの保管期間を短縮できるとも言われている。

しかし、理論として「可能性がある」とされている段階に過ぎず、楽観的な見方でも成果が出るまでに30年はかかるとされている。実現するかどうかも分からない技術を当てにして、原発を再稼働し核のゴミを増やしていくことは、第二の核燃料サイクルの夢(悪夢)にほかならない。

日本には科学や技術と言われると、冷静さを失って手放しで歓迎したがる人が少なくないので(だからこそ、10万年後の子孫をも煩わせる核発電なんてものが行われてしまったわけだから)、この手の夢を語る話にはくれぐれも用心しなければならない。

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