水の惑星と言われる地球。地球の表面の約3分の2は水に覆われていることはよく知られているものの、飲み水や農業用水などに利用できる淡水はごくわずかであることはそれほど知られていないかもしれない。
地球上に利用できる水資源がどの程度あるかというと、わずか0.01%と言われている。地球上にある水の約97.5%が海水であり、淡水は約2.5%と考えられている。その淡水も南極などの極地の氷河や地下水などが99%以上を占め、人間が利用しやすい河川や湖沼の水はわずか0.01%しかないそうである。
その貴重な水資源を巡って争いがさらに増加することが懸念されており、世界銀行のイスマイル・セラゲルディン元副総裁は次のように述べている。
「20世紀は石油を巡って戦争や紛争が起こったが、21世紀は水紛争の世紀になるだろう」
深刻な世界の水資源
水資源が不足する要因として「人口増加」、「地球温暖化」、「水源地の環境悪化」、「産業発展による水需給の拡大」などがあげられている。水資源の枯渇は推測だけではなく、現実問題として発生している。そのなかで衝撃的な事例の1つがアラル海の減少である。アラル海はウズベキスタンとカザフスタンにまたがる世界第4位の面積を誇った湖であった。しかし、今、消失の危機が迫っている。
かつて世界で4番目に大きな湖だった「アラル海」が過去14年で縮小を続け、有害な砂をまき散らす広大な砂漠と化している。
(中略)
NASAによると、アラル海には1960年代までアムダリヤ川とシルダリヤ川の2つの川が注ぎ込み、雪解け水や雨水が流れ込んでいた。しかし旧ソ連が60年代、農業用水を確保するため、この2つの川の流れを変え、水を運河に流入させた。
この影響でアラル海は縮小を始め、塩分濃度が上昇。肥料や化学物質で汚染された湖底が露呈した。この土壌が風に吹かれて周辺の耕作地に広がったため、耕作用にさらに多くの水が必要になったという。
水位の低下に伴いこの地域の気候も変化した。気温の変化を和らげてくれる水がなくなったため、冬は一層寒く、夏は一層暑くなったとNASAは解説している。
アラル海へ流れ込む河川の周辺では、外貨獲得のために旧ソ連時代に綿花栽培が始められた。その栽培に必要な水を確保した結果、湖の減少へつながったそうである。かつて水を豊富にたたえていたアラル海が砂漠化してしまったことを伝えるNHKの映像がある。
現在、アラル海のほかにも中央アフリカのチャド湖やアメリカのソルトン湖なども開発による消滅の危機に接しているそうである。
日本は水が豊富な国?
日本は世界のなかでも水に恵まれた国であると考えている人は多いかもしれない。しかし、必ずしも私たちが考えているほど豊かであると言い切れないかもしれない。なぜならば、日本の年平均降水量は1,718mmで世界平均の約2倍あるものの、人口が多いために一人当たりの年降水総量は世界平均の約4分の1しかないからである。
世界平均の約4分の1とはいえ、水不足を感じることがそれほどないように思えるのは、おそらくダムなどに貯められた水と仮想水(バーチャルウォーター)のおかげかもしれない。
仮想水とは、輸入している農作物などを生産する際に必要な水のことである。家畜や農産物を作るためには多くの水を要する。例えば、白米を1kg作るのに1リットル入りペットボトルで3,600本分、牛肉は1kgを生産するために20,700本分の水が必要であるという。1日あたり最低限必要と言われている3000カロリー分の食料を作るために必要な水の量は約3,500リットルとも言われている。日本の食料自給率はカロリーベースで約40%となっている。輸入している食料や工業製品を作る際に必要な仮想水は、日本国内で使用される生活用水、工業用水、農業用水をあわせた年間の総取水量と同程度の量であると言われている。仮に世界的な食料危機になり、自国で全て食料などを生産するとなると相当な水が必要になってくる。
さらに深刻化が懸念される水資源と摩擦
年間一人当たり必要な水資源の量について、次のように言われている。
農業,工業,エネルギー及び環境に要する水資源量は年間一人当たり1,700㎥とされ,利用可能な水の量が1,700㎥を下回る場合は「水ストレスの下にある」状態,1,000㎥を下回る場合は「水不足」の状態,500㎥を下回る場合は「絶対的な水不足」の状況を表すると考えられている
現在、43ヶ国で約7億人が「水ストレス下」にあると言われているが、実は地球上全体にある淡水で見た場合、水の不足はないとも言われている。それでも、水不足が発生しているのは、水の存在する場所が偏っているためであるという。
例えば、水資源として利用できる淡水の約4分の1はバイカル湖にあると言われている。アマゾン川は世界の河川の流量の約16%を占めていると考えられており、水を持つ国と持たざる国に別れている。2080年にはさらに18億人が必要な水を利用できない状態になる可能性もあり、今後さらに水資源量の格差がひらき、争いにつながることが指摘されている。
現在でもアラル海、インダス川、ナイル川などを始め、世界各地で水を巡る争いが起きている。アジアにおいてもメコン川の上流に位置する中国がダムを建設して下流域の諸国と摩擦があるなか、今度はラオスがダム建設の計画しており、関係国の反発を受けている。
節水以外の水資源の節約
2012年のデータによると、綿花を栽培によりアラル海が消失したウズベキスタンは世界第三位の綿花輸出国である。綿花の輸入は中国が世界最大となっており約40%を占めている。中国は綿花を輸入しているものの、当然、服などに加工して世界中に輸出しているのは想像に難くない。そして、私たちもその恩恵を受けている。
「水資源の節約」というと、まず節水が想い浮かぶ。たしかに風呂、トイレ、炊事などに使われる水の量は多い。しかし、水資源の節約と一見関係のないように思える、普段食べている食事や衣服などにも水資源は間接的に絡んでいる。
増える水の需要を満たすためには、農業などにおいての効率的な水の使用や水を持つ国と持たざる国のグローバルな協力関係が必要であると言われている。
原油はなくても人は生きていけるが、水がなしでは生きていくことはできない。「水紛争の世紀」とも指摘される今世紀。人類の英知と友好関係によって水を巡る紛争がおきないことを祈りたい。
砂漠化してしまったアラル海。
参考WEBサイト
Text:sKenji
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