一昨日、仕事が終わって自宅に帰ってきた時だった。アパートの玄関前のアプローチを歩いていると、一匹の黒い昆虫がひっくり返っていた。見つけた瞬間は「ゴキブリ」かと思ったが、よく見てみると「ノコギリクワガタ」であった。
30年ほど前になるが、小学生の大半は京都府のはずれにある町で過ごした。そこにはミヤマクワガタはごろごろいたものの、ノコギリクワガタは大変珍しく、滅多に捕まえることができない貴重なクワガタであった。
夏休みになると、夜、近所の街灯の下を巡回したり、朝のラジオ体操前に秘密のクヌギの木(と言っても遊び仲間の多くが知っていたのだけれど)に行って、幹やその割れ目に潜んでいるクワガタを探した。捕まえたなかにノコギリクワガタがいた日にはもう嬉しくて友人に自慢したものだった。
ミヤマクワガタの減少
貴重だと思っていたノコギリクワガタだったが、京都府のはずれの町から横浜へと引っ越すと、横浜ではミヤマクワガタの方が希少であることを知り驚いた。
歳を重ねるにつれ、昆虫に対しての関心が減っていったものの、その後、千葉、静岡へと引越しをした先でも、やはりミヤマクワガタのほうが珍しいという話は聞いていた。
見つけたノコギリクワガタは写真を撮った後に逃がしたのだが、いったいノコギリクワガタとミヤマクワガタはどちらが珍しいのだろうかとふと思った。
そこで「ノコギリクワガタ ミヤマクワガタ」とキーワードを入力してインターネットで検索してみると、気になる結果が表示された。
それは「ミヤマクワガタがノコギリクワガタとの争いに敗れて急減している」という毎日新聞の記事であった。記事によると、クワガタの調査をしている専門家がノコギリクワガタとミヤマクワガタを戦わせてみた結果、119戦中79対40の大差でノコギリクワガタに軍配が上がったと言う。
ノコギリクワガタの勝因は、ミヤマクワガタの攻撃方法が、相手を背中からはさんで投げる「上手投げ」の1種類しかないのに対して、ノコギリクワガタは「上手投げ」に加えて、腹側からはさんで投げる「下手投げ」の2種類の攻撃方法を持っていることにあるそうだ。
そして、このような力関係のなか、宅地開発などにより減ったエサ場で2種類のクワガタが出会うことが増え、ミヤマクワガタがノコギリクワガタに負けて減少しているのではないかという推測が記事に書かれている。
専門家は2つの地点で2種類のクワガタの数を2002年から調べている。それによると、調査開始から2006年ころまではミヤマクワガタがノコギリクワガタの1.5倍いたという。しかし、年々減少して、2011年以降はミヤマクワガタをほぼ見かけなくなったそうである。
このほか、温暖化が進んだことにより、涼しい場所を好むミヤマクワガタが減り、比較的暑さに強いノコギリクワガタが増えていると推測する別の専門家もいる。
いずれせよ、ミヤマクワガタが減少しているのは間違いないようである。
小学生の頃、憧れを持っていたノコギリクワガタに対して、簡単に取れたミヤマクワガタ。その希少性と美しい姿に惹かれてノコギリクワガタの方が好きだった。しかし、急減していると話を聞いてしまうと、急にミヤマクワガタのことが気になってしまう。
ほかのクワガタやカブトムシも減少している?
減少しているのはミヤマクワガタだけでなく、そのほかのクワガタやカブトムシも昔より見かけなくなったという話も聞く。
また、大きさも小ぶりになっていると感じるのは私だけだろうか。特にカブトムシはこの傾向が顕著で、ここ数年見たもののほとんどが以前には見かけなかったような一回り小さいカブトムシばかりであった。
街灯や樹木に集まった大きなクワガタやカブトムシを子供たちが捕まえる。そんな夏場の風物詩を10年後、20年後も見ていたいと夏の終わりに感じている。
Text & Photo:sKenji
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