伊予灘沖を震源地とする地震で考えたこと

iRyota25

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 「フィリピン海プレート」気象庁気象研究所 | 研究官 弘瀬冬樹さんのページ
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それに対して、今回の伊予灘の地震の震源は付近では、フィリピン海プレート上面を示す等高線が密になり、プレートが沈み込む角度が大きくなっています。

フィリピン海プレートが陸側プレートと接している面の深さは、図から読み取ると深さ50km~60km。震源の深さは78kmと計算されているので、今回の伊予灘の地震はプレート境界面で発生した地震ではないと考えるのが妥当でしょう。

しかも、地震発生のメカニズムが、プレート境界地震で顕著な「圧縮」ではなく「引っ張り」だったことも、南海トラフ地震との関連を否定する材料になったようです。

3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生する2日前、2011年3月9日にM7.3の地震が三陸沖で発生したのを覚えていますか?

最大震度は5弱。津波注意報も発令され、大船渡や鮎川浜では津波を観測。震源地は2日後の巨大地震にも近く、その後の研究で「前震」だったと言われるようになった地震でした。

似ているとは言いません。地震の研究者が「直接の関連を考えていない」と言っているのです。素人が口をはさむことではないでしょう。ただ、考えてしまうのです。2011年3月9日の地震の直後、11日の巨大地震を予測した人が果たしていたでしょうか。

地震を起こすと予想されるプレートで、やや大きめの地震が発生するたびに「巨大地震が来るのでは!」と騒ぎ立てるのはナンセンスです。でも、さらに大きな地震が来ることなどありえないと決めてかかるのも危険なことだと思います。

地震の研究者の本を読んでいてよく出てくるのがこんな言葉です。地震の研究は進むだろうが、地震が起きる地中深くのその現場まで下りて行って、この目で地震発生を確かめることは、けっして人間にはできない――。

騒ぐのではなく、冷静に準備を進めておきましょう。災害を減らすための備え、いざという時のための心の準備。

ありえないと決めつけたあげくの「まさか!」なんて経験してほしくないですから。

文●井上良太

 気象庁気象研究所 地震火山研究部
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 Fuyuki Hirose's HP | 気象庁気象研究所 | 研究官 弘瀬冬樹さんのページ
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気象庁気象研究所研究官、弘瀬冬樹さんによる「フィリピン海スラブ上面のコンター」のテキストと注釈。

フィリピン海プレート

関東から九州南部までのフィリピン海プレートの形状を示しています.
トモグラフィー,地震活動,メカニズム解,人工地震探査,レシーバー関数解析による情報に基づいて各研究者が推定したプレート形状を統合しました.

西南日本1, 3, 9,関東地方4,伊豆の北部延長領域10のフィリピン海スラブ等深線を統合しました. 緑領域は関東地震13,東海地域のアスペリティ7,東海・東南海・南海地震の想定震源域2, 15をそれぞれ示します. 青領域はスロースリップ域5, 6, 8, 11, 12を示します. 矢印は陸のプレート(ユーラシアおよびアムールプレート)に対するフィリピン海プレートの沈み込みベクトル14. 三角は火山.

[引用文献]
1. Baba, T., Y. Tanioka, P. R. Cummins, and K. Uhira (2002), The slip distribution of the 1946 Nankai earthquake estimated from tsunami inversion using a new plate model, Phys. Earth Planet. Inter., 132, 59-73.
2. 中央防災会議 (2001), 「東海地震に関する専門調査会」報告書, http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/20011218/siryou2-2.pdf, (参照2006-11-15).
3. Hirose, F., J. Nakajima, and A. Hasegawa (2008), Three-dimensional seismic velocity structure and configuration of the Philippine Sea slab in southwestern Japan estimated by double-difference tomography, J. Geophys. Res., 113, B09315, doi:10.1029/2007JB005274.
4. 弘瀬冬樹・中島淳一・長谷川 昭 (2008), Double-Difference Tomography法による関東地方の3次元地震波速度構造およびフィリピン海プレートの形状の推定, 地震2, 60, 123-138.
5. Hirose, H., K. Hirahara, F. Kimata, N. Fujii, and S. Miyazaki (1999), A slow thrust slip event following the two 1996 Hyuganada earthquakes beneath the Bungo Channel, southwest Japan, Geophys. Res. Lett., 26, 3237-3240.
6. 広瀬一聖・川崎一郎・岡田義光・鷺谷 威・田村良明 (2000), 1989年12月東京湾サイレント・アースクェイクの可能性, 地震, 53, 11-23.

「フィリピン海プレート」気象庁気象研究所 | 研究官 弘瀬冬樹さんのページ

7. Matsumura, S. (1997), Focal zone of a future Tokai earthquake inferred from the seismicity pattern around the plate interface, Tectonophys., 273, 271-291.
8. Miyazaki, S., P. Segall, J. J. McGuire, T. Kato, and Y. Hatanaka (2006), Spatial and temporal evolution of stress and slip rate during the 2000 Tokai slow earthquake, J. Geophys. Res., 111, B03409, doi:10.1029/2004JB003426.
9. Nakajima, J., and A. Hasegawa (2007), Subduction of the Philippine Sea plate beneath southwestern Japan: Slab geometry and its relationship to arc magmatism, J. Geophys. Res., 112, B08306, doi:10.1029/2006JB004770.
10. Nakajima, J., F. Hirose, and A. Hasegawa (2009), Seismotectonics beneath the Tokyo metropolitan area, Japan: Effect of slab-slab contact and overlap on seismicity, J. Geophys. Res., 114, B08309, doi:10.1029/2008JB006101.
11. Ozawa, S., S. Miyazaki, Y. Hatanaka, T. Imakiire, M. Kaidzu, and M. Murakimi (2003), Characteristic silent earthquakes in the eastern part of the Boso peninsula, Central Japan, Geophys. Res. Lett., 30, 1283, doi: 10.1029/2002GL016665.
12. Sagiya, T (2004), Interplate coupling in the Kanto district, Central Japan, and the Boso peninsula silent earthquake in May 1996, Pure Appl. Geophys., 161, 2327-2342.
13. Wald, D. J., and P. G. Somerville (1995), Variable-slip rupture model of the great 1923 Kanto, Japan, earthquake: Geodetic and body-waveform analysis, Bull. Seism. Soc. Am., 85, 159-177.
14. Wei, D., and T. Seno (1998), Determination of the Amurian plate motion, in "Mantle dynamics and plate interactions in East Asia", Geodynamics. Series, 27, ed. by M. F. J. Flower, S. L. Chung, C. H. Lo, and T. Y. Lee, pp. 337-346, AGU, Washington D. C.
15. 地震調査研究推進本部地震調査委員会 (2001), 南海トラフの地震の長期評価について, http://www.jishin.go.jp/main/chousa/01sep_nankai/index.htm, (参照2006-11-15).

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