早朝の津波被災地に鳴り響いたサイレン
「サイレンの音に驚いた」
そんな声がたくさん聞かれました。津波到来中です。潮位変動は少ないながら、遠地地震の場合はさまざまな場所で反射した波が合わさって、高い津波になるケースがあるようです。くれぐれもご注意ください。
1960年のチリ津波で大きな被害を受けた岩手県大船渡市でも、津波注意報のサイレンが早朝の町に鳴り響いたそうです。それでも知り合いの話では、会社には通常通り出勤するとのことでした。
全国的に見ても、今回の津波は「たいして高くない」という受け止め方をされているように感じます。しかし、津波は地形によって襲いかかる高さが大きく異なってきます。また検潮所などの測定地点以外の場所で、より大きな津波になっているケースもあります。今回の津波で被害が出ないことを祈るとともに、この津波が、津波の恐怖や自然災害に備える気持ちを薄めることに繋がらないように願います。
9月18日深夜1時の気象庁発表
今回の地震で気象庁は、太平洋のほぼ真ん中にあるハワイの津波の状況を見た上で、警報等の情報を発信する方針をとりました。その結果、具体的な情報が出されたのは日本時間では深夜になってしまいました。
午前1時に発表された内容は、
津波注意報を18日03時頃に発表する予定です
要するにさらなる先延ばしです。18日早朝に津波の第一波が到来すると予想されている中で、たとえば漁業関係者や港湾関係者は気象庁の発表に注目していたはず。もしも避難などの大掛かりな措置が必要になった場合には、夜を徹して船舶や設備のケアや人員の安全確保が予定されていたことでしょう。時間を必要とする準備もあったはず。しかし、気象庁は17日夕方にはハワイの状況を見てといい、18日午前1時には午前3時にと、具体的な情報提供を先延ばしするばかり。
さらに驚くべきことに、午前1時の発表は、続けてこのように記載されていたのです。
発表する予定の津波予報区は次のとおりです
そこには北海道から本州・伊豆諸島・四国・九州・沖縄・大東島など、太平洋沿岸のすべての地域が記されていたのです。
「津波注意報を発表する予定の津波予報区」って何?
なぜ午前1時の時点で「注意報を発表する予定の」地域に注意報を発表しなかったのでしょうか。なぜ発表する予定などという妙ちきりんな発表になったのか。
ここに気象庁の存立にかかわる深刻な問題があります。
気象庁というと天気予報をする機関という印象があるかもしれませんが、民間の気象予報士などが天気予報をできるようになった時(平成5年月の気象業務法改正)、気象庁は災害情報に特化した機関として生まれ変わりました。台風や集中豪雨、地震、津波、噴火など国民の安全に関わる情報は気象庁だけが発信できるのです。
当時、気象台長の数人にインタビューする機会がありましたが、皆さん口をそろえていたのは、人命や財産を守るための情報発信に集中して力を注ぐということでした。民間の気象予報士などに仕事を奪われるといった意識など微塵もなく、非常に意気高いものを感じました。言葉は悪いですが、予報屋から脱皮することができたという矜持のようなものがありました。
ところが、いまや気象庁の発表は、2010年のチリ地震津波もしかり、東日本大震災における津波警報の発令が後追いになったこともしかり、御嶽山の噴火を予想できなかったこと、箱根火山の噴火を後追いで認めざるを得なかったこともまたしかり。
警報や注意報を出すことで、もしも空振りした時に生じてしまう「経済的損失」や政府や自治体、国民からの批判を先回りして慮っていることがビシビシと伝わってきます。
つまり、100回に1回起きるディザスターへの備えをアナウンスし、人々の安全を担保するという本来の使命を忘れ、惨事にならないかもしれない100回に99回の方に意識が行ってしまっているということです。
可能性はゼロではない。でも大災害にならない蓋然性の方が高い。「津波注意報を発表する予定の津波予報区」という表現は、そんな意識の現れに他なりません。
もっと言うなら、潮位変動程度で終わっても、被害が発生する規模の津波になってしまっても、どちらのケースでも言い逃れできる言い方をしているということです。
他所の国のことを言っても仕方がありませんが、アメリカの津波警報センターは、「この津波予想について、より正確に変更する可能性はある」と断りを入れた上で、津波到来の12時間以上前から「日本には0.3メートルから1メートルの津波が発生する可能性がある」と発表していました。
どうして日本の気象庁はそうできないのか。いったい何を慮っているのか。おもんばかるとは「思い計る」ということです。気象庁が計るべきものは、世の中の反応、たとえば火山噴火の警戒レベルが高いと観光が立ち行かないとかいうことではなく、津波であれ火山活動であれ自然現象の危険性以外にありません。津波は、そこに人がいるからといって避けて襲来するものではないでしょう。人がいようが、町があろうが、そこにどんな暮らしがあろうが、お構いなしに襲いかかってくるものです。だからこそ、その危険を報じる機関が必要なのです。気象庁は自然災害に関して警報を発することを許された国内では唯一の組織なのです。自然現象を計るべき機関が人の顔色をおもんばかっているようではお話にならない。
今回の「津波注意報を発表する予定の津波予報区」という発表は、気象庁自身にとってきわめて危機的かつ、気象庁の病状の重篤さを示すものなのです。
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