震災を経験して(3)「とんびの兄ちゃんは生きていた!」

onagawa986

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とんびで大渋滞!

朝の通勤ルート、女川から石巻市の魚町へ入り日和大橋へ向かうと、原因不明の渋滞につかまった。

女川から石巻市への道は必ず北上川を越えなければならない。
橋は海側から順番に「日和大橋」「内海橋」「石巻大橋」「開北橋」それに南境に新しく作られた北部バイパスの「曽波神大橋」の5か所。
ひとつの橋で事故が起きるとすぐさま渋滞が起き、しびれをきらした車が隣の橋へ次々と流れ、更に渋滞が広がっていく。
しょっちゅうある事、「会社に間に合うかな?」ため息をつきながらダンナに話しかける。
もうこうなったらイライラしても仕方が無い、のんびり構えた。

「前のワンボックスさ~車体がこの色なんだからエンブレムにゴールドは合わねぇよな?」
「うん、これだったらシルバーの方がしっくりくるね!」

車好きなダンナは、普段から「あのホイルは高いんだ」だの「俺だったらこのエアロは無しだな!」だの、よそ様の車に難癖つけながら運転している。
その日も前の車のボディカラーとナンバーフレーム、エンブレムの色が合わない!変だ!と持論を展開している・・・
私は「よそ様が良くてそのようにしてんだからどうでもいいべや!」っておもうのだが、たまには話にのってあげる。

しだいに日和大橋に近付き、渋滞の発生源が見えてきた。
車は交互に通行して何かを避けて橋を渡っている。
「あっ!とんびだ!」
その日の渋滞の正体はなんと「とんび」
しかも1羽はすでに死んでいるようで橋の真ん中に横たわっている、生きたもう1羽が傍に寄り添い動かないために通行の妨げになっていた。
親子か?それとも夫婦なのか?
動かなくなった仲間に「どうしたの?起きて?」とでも語りかけているかのようなとんびが可哀そうで邪険にはできず、みんななんとか避けて通行していての大渋滞だった。

「かわいそう、どうしよう脇に避けてあげよっか?」
「いや、手を出したら片割れがつっついてきそうでない?」

近くで見るとかなりの大きさ、どうしようかと悩んでいると・・・

バタン!

前に居た似合わない色のエンブレムの車の兄ちゃんが車から降りたではないか!
すると生きたとんびを両手でひょいっと持ち上げ歩道へ静かに置き、続けて亡骸も同じ場所へそっと置いてあげていた・・・

キョトンとするとんび。

でもこれで安全な場所で最後のお別れが出来る・・・

滞った車が快調に流れ出す。
兄ちゃんは車に乗り込むと日和大橋を勢いよく登り出した。
次の瞬間ダンナと二人で大絶叫!
「すっげー!!!かっけぇー!!!!!(カッコイイ)」
「イイ人だ!めちゃめちゃイイ人だ!車カッコ悪いなんてもう言わん!ゆるす!あの色のエンブレムも!兄ちゃんかっけぇから許す!!」(←なぜおまえの許しが必要なんだ?(笑))

途中で大曲浜へ颯爽と曲がっていったのを見届け、なんとも清々しい気持ちで会社へと車を飛ばした。なんとかギリギリセーフ、とんびの兄ちゃんのおかげだ!

名前も知らないけど無事だったんだろうか?

それから朝の通勤時にちょくちょく見かけるようになった「とんびの兄ちゃん」
まさかそう呼ばれてるとは本人は夢にも思わないだろうけど・・・
「おっ!とんびの兄ちゃんだ!」私たち夫婦にとってのヒーローなのだ。

それから数か月後に大震災は起きた。
一番海に近いルートを通勤に利用していた。
車で通れるようになった魚町を走り、身震いがした。
木の家の缶詰をかたどった巨大なタンクが横たわってる。
松の並木はどこへ行ったのやら。
あそこの家、ついこの前建てたばっかりだったのに。

「とんびの兄ちゃん無事かな?」
「魚町から出てきて大曲浜へ通勤してたみたいだがらな、どっちも危険だよな」

名前も知らないとんびの兄ちゃん、無事だっただろうか?
確かめる術がない。

あのエンブレムは・・・!

震災の後、出かける際のルートは出来るだけ海から離れた道を選んぶようになったのは自然な流れだった。
その日はダンナと二人で買い物へ出掛けた。
実家で避難生活をしていて、持ち物はみんな流されてしまって、必要に迫られた生活用品を少しでも安く手に入れようと100円ショップへ向かった。

そこで前へ割り込んだ見覚えのある車・・・ボディカラーにミスマッチなエンブレム・・・
「とんびの兄ちゃんだ!!」

そりゃあ喜びましたとも!このワンボックスの色に似合わない色のエンブレムとナンバーフレーム、間違いない!とんびの兄ちゃんは生きていた!車も流されずに残っていたんだ!

慣れない避難生活で疲れ切っていた私たち夫婦に、この上ない喜びを与えてくれたとんびの兄ちゃん。
名前も顔もわからないけど、無事でいてくれて本当に嬉しい!
「達者で頑張れよ~!」

あの日に一度見かけたっきり、それからあの車に出会うことは無い。
でもとんびの兄ちゃんはきっとどこかで頑張っているはず。

缶詰ペイントの巨大タンクの彼方に日和大橋のスロープ
缶詰ペイントの巨大タンクの彼方に日和大橋のスロープ
日和大橋を西に越えると、仙台湾の砂浜が広がる
日和大橋を西に越えると、仙台湾の砂浜が広がる
振り返っても青い海。津波で砂浜は浸食されたけれど
振り返っても青い海。津波で砂浜は浸食されたけれど

ちなみに日和大橋からの眺めを見てみたい方は「星守る犬」(主演:西田敏行)をご覧になってみてください。
2010年夏に撮影され、被災前の沿岸各地を見ることができる上、日和大橋を渡るシーンもあります。
私は女川に嫁いでから10年間、女川~東松島の通勤でこの景色を毎日みていました。
日和大橋のてっぺんからはもくもくと煙を上げる日本製紙の工場、そしてどこまでも広がるキラキラ眩しい海、石巻から東松島へと美しく弧を描いた松林の海岸線が。
たまに航空自衛隊松島基地のブルーインパルスの曲芸飛行とコラボしてそれはそれはステキな眺めでした。

那須野公美

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