2013年8月8日16時50分頃、僕は大阪・河内長野市にある祖母の家へ向かうため、大阪・堺市、堺泉北有料道路の側道を車で走っていた。
車のラジオから流れる高校野球中継を聴き流しつつ、同乗の母と談笑していると、印象的なあの音が鳴り響いた。
「緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください」
その後、「予想されるマグニチュードは7.8」と伝えるアナウンサー。同時に僕と母のアイフォンが、聞いたことのない音をあげて速報を伝えた。何とも言えない緊張感。きっと、全国で多くの人が身構えたのではないだろうか。
結論から言えば、結果的には誤報だった今回の地震速報。しかし、今回の体験で来たるべき災害に対しての課題が見えた気もした。それらについてまとめてみたい。
2013年8月8日16時50分頃、緊急地震速報当時
●速報を受けてから把握するまで
「震源は奈良です。近畿、東海、四国、中国、北陸、甲信、関東、伊豆諸島、
新潟、九州地方の方々は、強い揺れに警戒してください」
と、アナウンサーは冷静に伝えた。驚いたのはその範囲。近畿地方が震源である
のはともかく、関東、伊豆諸島から九州地方までが警戒すべき範囲ということは、
日本の半分近くが警戒しなくてはならない地域である。3.11、もしくはそれ以上の
規模の地震もありえるということだ。僕は「いよいよ南海地震がきたか」と覚悟
した。
その上、速報当時に走っていた大阪・堺市は、震源地とされる奈良にも近い。内
心はかなり焦った。しかしその一方で、急な速報に頭がついて行かず、どうすれば
良いかもわからない。
変な話だが、焦る気持ちと、切り替わらない気持ちが同居していたように思う。
●とりあえずスーパーの駐車場へ退避した
有料道路の高架下の側道で信号待ちをしてい
た僕。嫌な予感がよぎった。関西人の僕は
阪神大震災の被災者でもあるが、当時の震災
の被害を示す写真として有名な「真横に倒壊
した高速道路」の印象が強烈に残っている
からだ。
ちょうど、側道沿いには広い駐車場付きの
お店が多かったので、近くのスーパーの駐車
場へ移動した。
しかし興味深かったのは、信号が青になったとともに、ほとんどの車がごく普通に
走り始めた点。速報から30秒ほど経ち、恐らくほとんどのドライバーが緊急地震
速報を把握していたと思うのだが、僕のようにいったん止まって待とうとする車は
ほとんどなかった。
●携帯、ラジオから続報を待つ
スーパーの駐車場に車を止め、アイフォンを見てみると、「緊急地震速報 奈良で
地震発生。強い揺れに備えて下さい(気象庁)」(原文まま)とある。これを見て
「あぁ、一応実際に揺れたんだな」と思った。(※)
ただ、僕がいた場所は、いつまでたっても揺れを感じない。車の運転で揺れに気付
かなかったのか、それとも大した揺れでは無かったのか。ラジオも4~5分は警戒を
呼び掛けていたが、それ以上の話題にはならない。アイフォンだっていつものよう
にサクサク動くが、Yahoo!のトップに緊急地震速報が表示されているのみだった。
そして徐々に「大丈夫なのかな?」と、緊張が解け始めた矢先、先ほどの緊急地震
速報が誤報だったというニュースが流れた。
(※)実際には16時56分和歌山県北部でM2.3の地震が発生したのみ。
震度1以上の地震は観測されておらず、当然奈良も揺れていない。
駐車場へ退避
まとめ1.本来、どうすべきだったのか?
今回、僕は車を運転していたが、本来、車の運転時に緊急地震速報が出た場合、どうすべきだったのか。
気象庁のホームページによると、
自動車運転中は
あわててスピードを落とさないでください。
ハザードランプを点灯し、まわりの車に注意を促してください。
急ブレーキはかけず、緩やかに速度をおとしてください。
大きな揺れを感じたら、道路の左側に停止してください。
とあった。まとめるなら「ゆっくり止まれ」ということだろう。
僕の場合は信号待ちだったので、そのまま近くのスーパーの広い駐車場へ退避した。この動きが正しかったのかどうかは自己評価しかねるが、自身を振り返ればそうとう焦っていたと思う。ハザードランプを点灯させるべきことも知っていたが、当時はそこまで気が回らなかった。
まとめ2.意外と止まれない?
しかしもっと気になったのは、信号が青に変わると、ほとんどの車がふたたびごく普通に走り始めた点だ。道路の左側に停止する車も無ければ、ハザードランプを点灯させている車も一切無かった。(少なくとも僕の周囲の車は)
仮に本当に揺れたなら、また状況は違っていたのかも知れないが、おそらくほとんどのドライバーが緊急地震速報を把握しつつ、そのまま運転を続けたと思われる。どうすることもできなかった人が多い印象を受けた。
僕の場合は、たまたま近くに駐車場があったので退避したが、もし仮に走行中だったとすれば、適切な判断もできないまま走り続けたと思う。
少し話は逸れるが、阪神甲子園球場で行われていた高校野球も、一時中断することなく試合が続けられたことがニュースになっていた。おそらくスタンドに詰めかけていた4万人前後の観衆の携帯電話が一斉に鳴っただろう。いくら阪神甲子園球場が万全の耐震構造だと言われていても、不安を感じた人は多いはずだ。
後ほどYouTubeで当時の試合の映像を見たが、緊急地震速報が報じられる中、いつものようにブラスバンドの応援が鳴り響き、球児たちがプレーする姿には、何とも言えない違和感を覚えた。緊急時、何をするにしても、意外と止まれないのかもしれない。
とは言え、もし本当に地震が起こっていた場合、道路にせよ、高校野球にせよ、どうなっていたのだろうか。それを想像すると、やはり、動きながら慌てるよりも、ゆっくり止まって対処する方が良いと思えた。
高校野球中継での緊急地震速報 ~ 2013年 夏の甲子園 ~
YouTube
まとめ3.良い予行練習だった
緊急地震速報から数分後、それが誤報だったというニュースがその日の夜まで何度も続いた。「海底地震計のトラブルが原因」だそうだ。当然繰り返してはならない誤報だとは思うが、個人的には誤報で良かったと思う。
僕は日ごろほとんど運転をしないので、速報時の対処法も、頭では把握していながら、適切に出来たとは言い難い。運転中、どうすれば良いか分からず戸惑った人もきっと多かったはずだ。
上述の阪神甲子園球場においては、今回の件を振り返り「緊急地震速報が出たら試合中断」と正式に決まった。
今回の誤報で混乱した人も多いと思われる。それだけに、こういう言い方は不適切かも知れないが、良い予行練習になったのではないだろうか。当然、地震は起こってほしくない。しかし、いつかは必ず起こるものだ。
きっと、今回の誤報で何通りもの“対応”があっただろう。その対応は適切だったか。本当に地震が起きていても生き延びることができていたか。
他の地域ではどうだったのだろうか。
来たるべき災害に備え、気持ち新たに対策を練る人が増えることを願いたい。
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