旅の思い出と舌の記憶

tanoshimasan

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(2012.11.06更新)

グルメ気取りとラーメン

 せっかくの旅先なら美味しいものを食べたいと思うのが人の常。どれだけ旅をしようと、旅先で食べた料理は意外と覚えていたりしないでしょうか。そして、おそらく誰しもに、「忘れられない味」というものがあるはずです。もちろん、僕にもあります。それは旅先の北海道で食べた、とあるラーメンでした。 いきなりですが、僕はラーメンだけはなかなか心から美味しいと言いません。ほかの料理に関してはそうでもなく、わりとすぐに「美味しい!」なんて言います(実際に美味しいとも思う)。 ただ、ラーメンだけはどれを食べてもなかなか美味しいと思わないのです。 インスタントラーメンを食べることもあります。「インスタントだ」と思えば、インスタントラーメンも美味しいとすら思います。ただ、「○○の名店」だとか「TVで引っ張りだこの」、「■■に載りました」なんていうお店。そのハードルの高さに期待すると、いつも物足りなく感じてしまうのです。

 多少グルメ気取りな性格は否めませんが、それほど味にうるさいつもりはありません。たまたま美味しいラーメンにあたってないだけ(?)。うーん。ちょっとした悩みです。

 日刊楽島コラム
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JR北海道、北浜駅

 「単純に好みの問題でしょ」なんて声が聞こえてきそうです。たしかにそれもあると思いますし、実際によく言われます。ただ、こんな僕にも唯一、思い出に残っているラーメンがあるんです。 そのラーメンには、北海道へ旅をしていた学生時代に出会いました。JR北海道釧網本線、網走駅から東へ4駅の北浜(きたはま)駅。眼前にオホーツク海が広がる「日本で最も海に近い駅」にその思い出の味があります。

 北海道の鉄道と言えば、モータリゼーションの波にやられ、汽車(電車)は1日に数えるほどしか来ない駅もたくさんあります。北浜駅もご多分にもれず、汽車の往来に限れば寂しさを感じずにはいられません。そんな駅にぽつんとあるのが、北浜駅の駅舎をそのまま喫茶店に改装した「軽食&喫茶 停車場」です。

 一見するとただ、寂しい駅。ですが、まず駅舎内に入ってみるとその考えを改めさせられます。木造の駅舎にびっしりと貼られた名刺、シール、きっぷの数々。余ったスペースを探す方が困難で、名刺やきっぷも古い順に変色が進んでいるのです。これだけで、寂しい駅という第一印象は撤回。ただの駅ではないことがわかります。 その待合室の横の扉。これが「軽食&喫茶 停車場」への入り口です。

(続く)(2012.11.05更新)

「軽食&喫茶 停車場」

 「軽食&喫茶 停車場」の中に入ると、温かい空気に包まれます。北海道はやはり寒いイメージがありますが、それだけに建物の中に漂うじんわりとした温かさがありがたいものです。 メニュー表には30種類をこえるドリンクがずらっ。これも印象的でした。僕は無難にコーヒーを頼みましたが、もし通えるなら全部制覇したいなぁ・・・と思うくらい。他にもカレーにピラフにパスタにランチセット。喫茶店らしいメニューが多いですが、品数が豊富なんです。

 これだけでも、「気合の入った喫茶店だなぁ」と感じるわけですが、これはラーメンのお話です。僕が目を奪われたのはカレーやピラフやパスタとは少し毛色の違う、“ラーメン”でした。しかもドリンクやカレーは種類が豊富なのに対して、ラーメンはたったの2種類しかないのです。 しかもしかも、その2種類がオホーツクラーメン(カニ、ホタテ、エビ、イクラ、サケ入り)と、カニラーメン(カニのむき身入り)という、なんともパンチの聞いた名前!これだけで無性に気になるってなもんです。

 北海道ということで、みそラーメンとか塩ラーメンという名前ならわかりますが、この名前はなんでしょうか。完全に具材勝負のこの2品に、僕は店主の並々ならぬ気合を(勝手に)感じずにはいられませんでした。あらゆるメニューの中でも、この2品が光って見えたのです。 注文すると同時に、店内の窓から到着した汽車が見えました。降りたお客さんは数えるほどですが、全員がそのままこの「停車場」に入ります。汽車の本数は上下線共に2時間に1本あるかないか。駅前は国道とは言え、車すらまばらです。それでも店内はあっという間にいっぱいになっていました。

 そうこうしていると、僕の注文したオホーツクラーメン(カニ、ホタテ、エビ、イクラ、サケ入り)が登場。「魚介が贅沢だから美味い?」いやいや、たしかに具は最高なんだけど、それを引き立てるスープですよ。塩味ベースの薄味のスープにコシのある麺が!・・・と、訴えても良いのですが、ラーメンを分析して語るほどの人間じゃないのでここは割愛します。 ただ、その美味さに本格的に身悶えしたのは、後にも先にもあの時しかありません。

(具体的には1人で食べに来ているのに、店内で「んんーー!」と感嘆の声を発しました・・・。)

うまいラーメン募集中です。生意気な舌ですが。

 1時間ほどかけて食べ終わり、さらにゆっくりしていると、ようやく13時台の汽車がやってきました。僕はそれに乗り込んで、さらに別の目的地へ。同時にさっきまで店内にいたお客さんもそのまま汽車へ乗りこみます。中には、1本前の汽車で北浜駅に途中下車、食事を済ませてまた汽車へ。なんて人も。 なぜだか、こんな何気ない光景もいちいち覚えていたりするんです。

 20数年という短い人生ではありますが、何よりも覚えているラーメンです。久しく北海道へは行っていません。行ってませんが、舌の記憶はなかなかのもので、以降、食するラーメンに対して厳しくなってしまったようです。多少美化もされているかも知れません。まるで昔の恋人のことをいつまでも忘れられない頑なな奴かとさえ思います(?)。それでも、旅の思い出としては「まぁアリかな」と思うのです。 うまいラーメン募集中です。生意気な舌ですが。

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