郷土料理。素朴で目立たず、だけど、うまい。地域おこしのために誕生する「ご当地グルメ」とはちょっと違う。昔から存在して、どこの家庭でも作られる料理。
鶏飯(けいはん)
具材に込められた個々の味、どんぶりの中で調和する
九州の南の玄関口、鹿児島港から船で南へ11時間。沖縄本島を含めるならば、国内で3番目に大きな島である奄美大島。訪れたならば必ず食べたい料理が鶏飯(けいはん)です。 その見た目の華やかさは、どことなく豪華さを感じさせてくれますが、味はとにかく素朴。薄く裂かれた鶏胸肉を中心に、錦糸玉子や椎茸にパパイヤの漬物、そのほか色とりどりの具材たちをご飯の上に乗せ、薄味の鶏ガラスープを掛けて食べる。決して濃い味わいではないものの、具材のひとつひとつに込められた深みある味が、どんぶりの中で見事に調和されます。
例えば、椎茸ひとつとっても、干し椎茸を水戻ししたあと甘辛く煮ます。パパイヤの漬物も作り手によって大いに味が違ってきます。そこに乗る、微量の甘いクコの実やほのかに香るみかんの皮がこれまた良いアクセント。最後に薄味のスープが注がれ、個々の具材の濃淡のある味を楽しみながら、スープの熱でアツアツのご飯をほおばります。これがなんとも最高。見た目はお茶漬け、イメージはビビンバ、味は何にも例えがたい鶏飯ならではの素朴な味わいと言ったところでしょうか。 しかし素朴だからこそ味への追求は奥深く、料理人の中には、鶏のエサや育て方、そのひとつひとつまで味の違いに反映させます。
「おもてなし」の心が生んだ逸品
その歴史は江戸時代、奄美の島々が薩摩藩の支配下にあったころに遡ります。奄美の人々は訪れる薩摩の役人をもてなすため、鶏飯をふるまうようになったとか。別名として「殿様料理」という名前が付けられていたほどですから、素材を選ぶ段階から手間ヒマを掛けていたことが伺えます。これが鶏飯のおもてなし料理としての基盤となりました。
それは歴史が流れても変わらず、1968年(昭和43年)の4月に訪れた皇太子様(当時・明仁親王)が、その美味しさに思わずおかわりされたという話は、奄美では有名です。最近では農林水産省が選定した『農山漁村の郷土料理百選』において、鶏飯は全国2位の票数を得ました。その美味しさに、多くの人々の舌が唸らされているのです! 今でこそ各所に認められ、全国の郷土料理の中でも目立つ存在となりましたが、古くから家庭料理としても親しまれてきた鶏飯。実はどの家庭でも食べられている庶民の味なのです。一方で「おもてなし」の料理としての歴史も持つわけですから、外から訪れた人へ出しても恥ずかしくないほどの美味しさだったのでしょう!!
鶏飯の作り方
あくまで作り方の一例です。レシピは家庭でも作れそうな、比較的シンプルな作り方を紹介していますが、鶏ガラスープを取る、クコの実を取り寄せる、パパイヤの漬物を作ってみる・・・などなど、我流で奥深くこだわってみるのも面白い!?
※鶏ガラスープの素を使用する場合
・水・・・550cc 鶏ガラスープの素・・・小さじ2 酒・・・小さじ2 みりん・・・小さじ2 薄口しょうゆ・・・小さじ1 塩・・・1~2つまみ程度
手順
1.鶏肉のぶつ切りを2時間程度、アクを取りながら弱火で煮る。塩のほか、酒、薄口しょうゆで味を調える。
(スープの素を使用する場合は沸騰させた水に上記の材料を投入して調える。)
2.干し椎茸を水で戻して薄切りにし、戻し汁と一緒に甘辛く煮る。(分量外)
3.漬物、みかんの皮、錦糸玉子など、好みの大きさに切っておく。
4.スープを取り終えた(もしくは別で湯がいた)鶏肉は手で細かく裂く。
5.ご飯、具、スープと盛り付ける。
6.好みの具材を好みの分量ご飯に乗せて食べる。
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