棄てるものは「羞恥心」!桃岩荘に泊まる。その4(愛とロマンとそれ以外の何か編)【旅レポ】

tanoshimasan

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「愛とロマンの8時間コース」に挑む

礼文島に特別高い山があるワケではないが、しかし侮ってはいけない。礼文島には、山の如く上り下りを繰り返し、ひたすら歩く「愛とロマンの8時間コース」というものがあるのだ。

愛とロマンの8時間コース
愛とロマンの8時間コース
礼文島の稜線を眺める

礼文島の稜線を眺める

愛とロマンの8時間コースとは、「礼文島を8時間かけて満喫してしまう縦断ハイキングコース」のこと※1である。「花の浮島」と呼ばれる礼文島は、低い標高ながら緯度が高いこともあり、200種類にもおよぶ高山植物が咲く島として知られている。その風景を8時間かけて楽しもうという、礼文島ではすっかり有名となったハイキングコースだが、その発祥はご存知!我らが桃岩荘である。このコースは桃岩荘の名物と化しており、参加希望者がいる限り、基本的には毎日開催。宿泊者複数人でチームを組み、島内最北のスコトン岬から桃岩荘を目指すのだ!

名前の由来は

「最初は名前も知らない男女の旅人が、同じコースを協力し合いながら進むことで、次第に友情や愛が芽生え、ロマンティックな時間となる」

という意味が込められているらしい。常連のおっちゃんには「道中にはちょっとした崖があってね。そこを男の子が先に渡って女の子に手を差し出してあげるんだよ。」と、教えてもらった。

旅先は「恋愛に陥りやすい」なんて言うとはいえ、さすがに出会って8時間そこらでイチャつき始められたら、それはそれでどうかと思うが・・・。しかし、桃岩荘の長い歴史の中では、このコースを通じて知り合ったのち、愛を育んでめでたく結ばれた「桃岩カップル」も存在するらしい。なるほど、きっかけとしてはアリかも知れない。

桃岩時間5時、出発

「桃岩荘を訪れたからには、愛とロマンの8時間コースを体験せずには帰れないよ。」

既に参加したお客さんが口を揃えてそう言うので、当然参加することに。出発前日の夜、高いテンションで終えたミーティング※2のあと、「愛とロマンの8時間コース」に参加するメンバーが、ヘルパーさんに招集を掛けられた。コースに関する説明と注意を受けるためだ。万が一の連絡先やコース確認用の地図など手渡され、「今回は参加人数が多い」という理由で2チームに分けられた。

 桃岩荘の朝は早い。桃岩時間で5時頃(日本時間4時30分頃)、まるでテレビの寝起きドッキリみたいなテンションで、ヘルパーさんがお越しに来てくれた。

「おはようございまーす」

朝はかなり早いのだが、前日の夜も桃岩時間で22時(日本時間21時30分)消灯だったので、実は意外とよく寝ている。とは言え、毎日この生活を続けているヘルパーさんのたくましさに思わず感服してしまう。それが仕事と言えばそれまでだけど・・・。

さて、起床の30分後には、早速「愛とロマンの8時間コース」出発である。

「完走するぞぅ!イェーーイ!」

さっきの心配をよそにヘルパーさんはやたらと元気だった。いやーすごい。こうして一行はテンションを挙げてマイクロバスに乗り込む。礼文島南部の桃岩荘から最北のスコトン岬まで送られるのだ。

水は多めに持っていくべきだった・・・

景色は間違いなく綺麗だ。濃淡くっきりとした緑と青が離島感を表し、彩り鮮やかな花や高山植物が華やかさを加える。同じ離島でも、南の島では見ることの出来ない景色だろう。

「それでは先に出発するのが・・・桃チーム?あ、桃は後か・・・。それではアホチーム、いってらっしゃい!」

ヘルパーさんに見送られて出発だ。参加者を半分に分けた『桃チーム』と、岩チーム!・・・と思いきや、なぜか『アホチーム』という、ヘルパーさんのお約束のボケに巻き込まれ、僕はアホチームに。しかもリーダーに選ばれてしまった。

うーん。

高木がほとんどないおかげで島の稜線が綺麗に見られるが、その分海風をもろに受けてか風が強い。それでも景色自体は爽やかで、一気に目が覚めてきた気がする。

若いメンバーのためか、序盤は比較的調子よく進んだ。道中はそれとなく自己紹介や、「なぜ礼文島に来たか」という会話を交わしつつ、いつの間にか和やかな雰囲気に。コース序盤は自販機も多く歩道も整っていた。

「案外ラクだな・・・。」


(8時間後)


ぜんぜん自販機あらへん・・・しかも暑いし・・・。おかしい。礼文島に来る前、先に立ち寄った稚内はもっと気温が低かった。8月も下旬に差し掛かっており、最高気温も20度前後だったように思う。寒くあってほしいわけではなかったが、ちょっと思っていた以上に暑い。

ペットボトルの水分は早々に減ってしまっていた。桃岩荘でもらった弁当の量が想像以上に多く※3、思わずたくさん飲んでしまったのだ。いっそ最後の一滴までさっさと飲んでしまいたかったが、そこはなんとか我慢。和やかだったメンバーもいつの間にか足どりが重くなる。

少なくとも我らアホチームに、愛を感じている余裕は無かった。傾いていく太陽、いつの間にか見えなくなった桃チームの姿、軽装備ながら全身に疲れが溜まり、困憊していた。

「愛とか・・・」

息を切らした仲間の女の子が、ポツッとつぶやいた。

汗と涙で(?)完走!

ゴール直前!桃岩荘は目の前

ゴール直前!桃岩荘は目の前

更に2時間ほど歩いたか、ようやく礼文林道を抜け、車道が見えてきた。ラクだったのは序盤だけ、長らく整備されていない遊歩道を歩いていたが、ようやく、人の生活のにおいを感じるエリアに戻ってきた。ここまでくると逆に楽しい、逆に走れる、逆に声も出る、逆に元気だ。

すっかり、桃岩荘特有のナチュラルハイなテンションが染みついていた。「腰が痛い」とか言っていたはずのメンバーの姉ちゃんが何かに吹っ切れたように走り出す。朝はひと言も喋らなかったクールな兄ちゃんが「よっしゃあああ」と叫ぶ。

桃岩荘が見えてきた。どうやら歌って出迎えてくれるようだ。この桃岩荘らしいベタなおもてなしも普通に嬉しい。そうして「愛とロマンの8時間コース」を無事完走した。疲れたぁー・・・。




常連客と思われるおっちゃんが話しかけてきた。

「どう、愛とロマンはあった?」

女の子が答える。

「愛とロマンっていうより、汗と涙の11時間コースでした。」

日が傾きつつある。急がねば
日が傾きつつある。急がねば
長かった礼文林道を抜けようやく車道!ちょっと感動
長かった礼文林道を抜けようやく車道!ちょっと感動
ゴール直前、偶然通りかかったブルーサンダー号エース
ゴール直前、偶然通りかかったブルーサンダー号エース

~~~ 桃岩用語 ~~~

※1 愛とロマンの8時間コースとは、「礼文島を8時間かけて満喫してしまう縦断ハイキングコース」のこと
 → ちなみに8時間コースという名前だが、実際は10~11時間かかるようである。
   文中でも触れるが、道中は自販機がほとんどないので、水分は予め大目に
   用意しておくことが望ましい。また、ほぼまる一日要するため、礼文島にて
   最低2泊はしなければ参加できない。
   また、日本最北の離島のため、本州では高山地帯でしか見ることが出来ない
   植物も、礼文島でなら容易に見られることから人気は高い。
   しかし、同時にたった490mで、高木が生育しない「森林限界」に入るため、
   安易な気持ちで臨むと痛い目に遭う可能性もあるので注意が必要。

※2 高いテンションで終えたミーティング
 → その3で触れた、桃岩荘名物の歌って踊るミーティング

※3 桃岩荘でもらった弁当の量が想像以上に多く
 → 桃岩荘名物、「愛とロマンの8時間コース」参加者向けのお弁当「圧縮弁当」
   のこと。
   特に道中は食料を買うような場所がないので、必須アイテムである。
   なお、圧縮弁当という名前は
   「ごはんをありえないほどギッチリ詰め込んでいること」(ヘルパー氏談)
   に由来する。
   ご飯の上にはおにぎりの具になりそうなものが複数種、敷き詰められている。

【シリーズ】棄てるものは「羞恥心」!桃岩荘に泊まる。

桃岩荘シリーズの記事一覧です!

 その1 (生ける化石は異空間編)【旅レポ】
potaru.com
 その2(案外落ち着ける場所もある編)【旅レポ】
potaru.com
 その3(真骨頂・ミーティング編)【旅レポ】
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