――なるほど!とても深い視座ですね。岩井さんは子育て中でもありますが、コロナ禍のさまざまなシーンでの分断の中で、未来の子どもたちのために今何をすべきとお考えですか?
うちには上が3歳、下が0歳の子がいます。20年後の世界は想像できません。分断自体は前からあったもの。それが最近クローズアップされるようになったのは、インターネットが普及して比較をしやすくなったこともある。昔はすごいお金持ちの人がいてもそれは自分とは別世界の話と冷静さを保っていられたわけですが、ネットの普及でもっと生々しい部分が垣間見えるようになって良くも悪くも「あの人たちも人間なんだ」が見えてきた。
せめて自分の至近にある生活を大事にしていくしかない。もちろん分断は社会問題として解決すべきですが、自分の遠いところを見るのではなく、近い所の生活を着実にやっていく。それが一人ひとりにとって大事なことで、生活の満足度があがれば違和感は薄れるのではないでしょうか。私個人としては至近の生活としっかり向き合って、あまり情報に踊らされ過ぎないようにしたい。至近の人との関係。至近で起きていること。それをしっかり見て、少しでも生活をよりよくできるようにしていく。その繰り返しでしょうね。
――きょうはラッキーなことに直接お目に掛かれました。毎日の生活を大切に過ごす価値観も人それぞれなのだとわかったコロナ禍でした。この先、世の中が変わったらいいなと思うことはどんなことですか?
元通りにはならないというのを感じていて、元通りがベストだとも思わない。2019年の状況に完全に戻すのが良いか?と言えば、そうではない。人類単位ですごく大きな経験をして、そこから学んでより良い方向へ向かわねばならない。「ニューノーマル」って最近言いますけれど、以前は「接すること、向き合うこと、近づくこと」がとても尊ばれていましたし、それはすごく大事なことですが、一方でそこに苦しみを覚えている人もいる。それが今回いろんな場面でわかったと思うんです。
リモートワークにより会社では、嫌な上司と顔を合わせなくて済むから鬱病が減った…と産業医の先生が話されていました。通勤時間が減って子どもと向き合う時間も増えました。今までやるべきだ、やったほうがいい、とされてきたことが、全部根底から「そうでもないぞ」と問い直された期間でした。一辺倒ではないというのがわかったのも事実なので、それをすっかり忘れて2019年の状況に戻しましょうというのは、あまりにも進歩がない。私が一番いいと思うのは、そこを踏まえた上での「触れ合うこと、近づくこと」が必ずしも善ではなく、人と場合によって違うものであることを世の中がわかるといいなと思います。
――遠方でもつなげて話ができるリモートの良さを体感できました。コロナ禍を経て進歩できたことを踏まえ選択肢が増えたことをむしろ喜ぶべきでしょうね。
打ち合わせや取材もやりやすくなったと思います。日程や時間の融通もきかせられるようになったのは大きい。今までは断るしかなかったことが、リモートの出現によって断らずにできるようになったので。選択肢が増えたのは、人類の進歩です。通勤する人、リモートワークの人、それぞれの希望や立場でやっていくのがこれからの社会だと思います。
――この先はどんな作品を書く、というのはもう決まっていますか?
今年は連載が4本始まります。ポエトリーみたいな現代を舞台にした短編集も書きますし、ちょっとSFっぽいのも。時代を遡るような戦前もの小説、などプロットを作って進めています。あと今年中にもう2冊本が出ます。来年は3冊決まっています。これまで1年に1冊、2冊出していましたが忸怩たる思いでしたので、これからはペースを落とさずに書いていきたい。時代を引き寄せたいです。
編集後記
――ありがとうございました!久しぶりの対面取材で、大ファンの岩井さんに直接お話を伺えて幸せでした。問いかけに対し、的確な言葉でお答えくださる真摯な姿勢。私も小説執筆を始めて2年。「その年齢でしか書けないことを書くべきで、若ければいいというものではない」という言葉にズシンと励まされました。岩井さんのお子さんが成人する頃、日本はどうなっているのかな。心が豊かになる取材時間でした。これからの作品も全部買って読みます!
2022年5月取材・文/マザール あべみちこ
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