早くも田植えが始まった東北北部。それでも、昨年撮影した写真の日付と見比べると、今年は若干遅いみたいだ。
鮮やかな緑色の苗が植えられた田んぼと、水が張られて空や雲を映す田んぼが市松模様に並び、空にはツバメが飛び交う。そんな初夏ならではの風景の中でちょっと違和感を覚えてしまうことがあった。それは田んぼを歩き回るカモメ。
※ 正確にはカモメではなくカモメの仲間のウミネコで、目つきは鋭く、鳴き声もけたたましい。東北沿岸にはウミネコのほか、セグロカモメ、カモメ(カモメ属カモメ)など何種類ものカモメの仲間が生息するが、年間通して見られるのはウミネコだけなのだとか(他は渡り鳥)。陸前高田市の広田半島の沖合に浮かぶ椿島はウミネコの繁殖地としても知られている。
せっかく水が張られているんだし、カモメなんだからさ、せめて水に浮かんでみるとかできないのか、と心の中で注文をつけてみたりもしたのだが、彼らは鋭い眼でこっちを睨み返しては、やはり田んぼの中をのそのそと歩き回る。ほとんど腹まで水に浸かっていても泳ぎはせずに歩いている。歩き回っては、時々田んぼの中にクチバシを突っ込んでいる。
写真の場所は海から1キロメートルほど。スーパーの駐車場脇の田んぼ。7年前の津波でこの辺は完全に水没した。そんな田んぼだからか、用水の取り入れ口の近くを見ると、土ではなく砂が溜まっていたりもする。
だからといって、海鳥である彼らがここで歩き回って餌をつつくのは、ここが7年前に海に吞み込まれた場所だからということではない。
なぜなら、この場所から直線距離で20キロメートル以上、川沿いの国道のキロポスト表示で換算して30キロメートルをゆうに越すような山奥の田んぼでも、彼らを見かけることが珍しくないからだ。
地元の人の話では、「あいつら、オタマジャクシを喰ってるみたいなんだ。最近じゃ農薬を減らしてる田んぼが多いから、食尽せないくらいオタマジャクシがいるもんな」とのこと。カモメがオタマジャクシとはちょっとイメージがくるってしまうが、とにかくこの時期、カモメが田んぼに集る理由は合点できた。
なるほど彼らには翼がある。翼があるからには、30キロ先の谷間の田んぼに飛んでいくことなど大したことではないのかもしれない。それに、イワシを喰おうがオタマジャクシを食べようが、もしかしてミミズをつついたりしてみようがカモメの勝手である。カモメは空の青と海の青との間を飛び交うものだなんて、人間の先入観で決めつけてはならないのだと、WILDLIFEの掟を教えられたのであった。
白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ
若山牧水 歌集「海の声」より
好きな歌なんだけどな。
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