WILDLIFE in TOHOKU「タケノコ食べたのだ~れだ?」

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春はタケノコ、ようよう草木萌え初めし山路、先っぽ緑にて、しゅんしゅん伸びゆきたる、いとおかし

早咲きと遅咲きの桜の花が、ほとんどタイムラグなく次々に咲いて目を楽しませてくれる東北の春。タケノコの世界でも同様で、早春の孟宗竹、晩春の真竹、さらにはネマガリタケやクマザサなど多種多様なタケノコが4月から5月にかけてあちこちでにょきにょき、しゅんしゅん。

陸前高田市の本丸公園の高台の北面には竹林があって、「高台3」と呼ばれる新しく造成された場所に続くルートは、ほとんどケモノ道か杣道のような細道ながら、近所の人たちのお散歩コースにもなっている。

竹林の縁をめぐる細道だから、桜がようやく終わったこの季節ともなると、道端のいたるところからタケノコが顔をのぞかせる。とくに、雨上がりの朝なんかは、先端の小さな緑の葉っぱようなものに露を溜めたままグングン伸びていく。その様は愛らしくも感じられるほど。

ところが、その道を歩いてみたら道端のタケノコが荒らされていた。

それも、先端から10センチメートルばかり齧って止めるという不思議な食べ痕。だれが食べたか知らないが、柔らかい姫皮の部分だけを食すとは、なかなか通な荒らしっぷりなのであった。

というわけで、タケノコ食べたのがだれなのか、ちょいと推理してみよう。

イノシシ?

徒歩圏内にキツネが棲んでいたり、クルマで15分も上った林道ではクマに出くわすことがあったりするほど自然豊かな岩手県の沿岸南部。陸前高田市には野ネズミ、ウサギ、シカ、カモシカなど、タケノコを食べる野生動物がいるが、仄聞したところイノシシはいない模様。いないと断言はできないが、農家の人が畑や田んぼに張り巡らせる電気仕掛けの柵(電気牧柵、略してデンボク)は、明らかにシカが対象だ。イノシシ対策なら地面から高さ2、30センチメートルくらいに設置するものだが、岩手県南部でのデンボク設置のレギュレーションは、高さ30センチメートルくらいから1.5メートルにかけてビリビリ線を3、4本架け渡す複数段式。

シカを対象としたデンボク(左・岩手県)とイノシシを対象としたデンボク(右・福島県)。イノシシ用は地上10cmと25cmくらいの二段式。鼻でクンクンしながら歩き回るイノシシ用に設置場所は低い。シカ用とは設置方法がかなり違う
シカを対象としたデンボク(左・岩手県)とイノシシを対象としたデンボク(右・福島県)。イノシシ用は地上10cmと25cmくらいの二段式。鼻でクンクンしながら歩き回るイノシシ用に設置場所は低い。シカ用とは設置方法がかなり違う

こんな備えだから、もしも農作物に被害を加えるほどにはイノシシがたくさん棲んでいたとしたら、畑も田んぼも荒れ放題だろう。つまり、この近所にはイノシシはほとんどいないと判断してよさそうだ。

さらに、イノシシはタケノコが大好物で、人間が鍬を使って根っこから掘り出すのと動揺に、タケノコの周りの土をほじくり返して根こそぎ食べてしまうという。

よって、イノシシ説は却下となる。

野ネズミ?

冬場には野ネズミが庭木の根元を齧ることがあるらしい。よって、タケノコ食べたのが野ネズミという可能性も否定はできない。とはいえ、尻尾を除く体長が10センチメートルほどしかない野ネズミが、わざわざタケノコの先端までよじ登って食べるというのもおかしな話。フクロウやヘビなどの天敵の存在を意識しながら生きている野ネズミだから、仮にタケノコを食べるとしても横からガリガリ齧るんじゃなかろうか。

よって、野ネズミ説はいったん保留。

野ウサギ

ウサギは警戒心が強いからめったにお目にかかることはないが、それでもチラッとだけ見かけたりはする。雪が降ると特徴的な足跡(後足の前足よりも前に着地する)はよく目にする。よって、ピーターだかベンジャミンだかのラビットがタケノコを食べた可能性もある。

ぼく個人は野ウサギがどんな食痕を残すのかよく知らないのだが、調べてみるとウサギは鋭い前歯でガリガリ齧るので、畑の作物であれ樹木であれ、その食べ痕は荒々しい感じになるのだという。小さなノミで削ったみたいになるということだろう。

このタケノコの食痕を見てみると、柔らかくて美味しい姫皮の部分が、サクッと一口で食べられているように見える。とてもウサギがガリガリ齧ったようには見えない。

よって、野ウサギ説は却下。タケノコがサクッと一口で食べられているという理由から、同様に野ネズミ説も却下。

ではシカかカモシカか?

となると、残るはクマかシカかカモシカかということになる。クマは陸前高田の山には生息しているがさすがにまちなか近くの公園まで出張して来るとは思えないし、思いたくもない。それにクマはタケノコが大好物だから、こんなお上品な食べ方はしない。

消去法ながら、タケノコの美味しい姫皮だけを食べたのはシカ、ということになる。消去法とは言うものの、まず確実にシカだと断定していいだろう。

陸前高田のまち周辺にはシカがたくさん棲んでいる。山を切り開いて建てられた9階建ての復興住宅の中層階に住んでいる人が、夜中に玄関ドアを開けたら向いの山にキラリと光る目がいくつも……。真っ昼間でも窓を開けたらシカと目が合ったとか、国道でシカと衝突した(国道でだ!)とか、祭りの準備中に背後に気配を感じて振り返ったら大きなシカがのっしのっし歩いていったとか、とにかくシカはとても身近なのだ。

シカは冬には木の皮を食べることもあるが、それは食べ物が乏しい冬だからで、柔らかい食べ物がある時期にわざわざ樹皮を食べることはない。春になるとアオキなどの芽が被害に遭う。シカの食害としてよく知られているのが、杉や桧の苗木の頂上部だけをムシャっと食べてしまうことだが、先っちょをサクッと食べるというのは、まさにこのタケノコと同じだ。

さらにいうと、シカは齧るときには下の歯を使って削り取るようにするとのことだが、タケノコの食痕はまさにそんな感じ。

タケノコの先っちょから食べはじめて、鼻先を突っ込みながら齧っていったのだが、もうこれ以上鼻先が入りませんというところで止めにした、なんて想像してみると、タケノコを楽しむシカの様子が目に浮かぶではないか。

おもしろいことに、この散歩道に生えたタケノコのうち、齧られていたのは竹が道を覆い隠すくらいに茂っているところだけ。造成工事が行われているまちに向かって開けた場所まで来ると、立派なタケノコが食べられもせずにすくすくと伸びていた。警戒心が強いシカだからこそなのだろう。

タケノコたべたのはたぶんシカ、ということでいいと思うのだが、ひとつ不確定なものが残る。

それはカモシカの可能性もあるということだ。陸前高田のまちなか近くにはたいそうな数のシカが棲んでいるのはご紹介したとおりだが、本来はシカよりさらに山奥に棲むとされるカモシカもいることは、このまちで暮らす人にとっては常識だ。「昨日シカを見たんだ」なんて話すと、「どっちの?」と聞かれるくらいだ。どっちのとはもちろん、ニホンジカかカモシカかという意味だ。

名前には「シカ」がついているが、カモシカはウシ科カモシカ属。シカ科シカ属のニホンジカとは縁遠い。とはいえ、習性は似ていないともいえなそうな気がする(陸前高田ではシカとほぼ同じような場所に生息しているわけだから)。しかし、シカとカモシカの食痕を区別する方法をぼくは知らない。

よって、暫定的ながら推理の結果はこうなる。
「タケノコ食べたのだ〜れだ?」
「シカかカモシカかですね、たぶん」

真竹のタケノコの出始め
真竹のタケノコの出始め

【以下蛇足】

ちなみにタケノコ(竹)の花言葉は「節度」「節制」なのだとか。たしかに、シカかカモシカの食痕は、サクッとひと齧りしただけの慎み深さ。しかし、食べ物はちゃんと残さず食べるべきだと思う。さらについでながら、タケノコ(竹)は1月2日の誕生花でもあるそうな。タケノコの美味しい季節の誕生花ではないのですな。

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