雪が少なめだった今年の東北地方。「どこそこにタラの芽が出てるよ」とか、スーパーの鮮魚コーナーに「春告魚」として知られるメバルが1匹68円で並ぶようになったりとか、このまま春に突入かと思いきや——
とんでもないのです。
しっとりとした空気に淡い小雨が交じるような夜だったのが、朝にはまだ暗いうちからガリガリー、ザザザザーと雪掻きの音。慌てて飛び出してみれば、駐車場といわず建物の周辺といわず、それ相応の積雪。
雪国では除雪作業に参加するのは必須の義務なのはご想像のとおり。
通常、雪掻きといえば、スノースコップとか、スノーラッセルといった道具を使うわけですが、やっかいなのは住宅の敷地周囲、仮設住宅でも通路となっているアスファルト舗装の脇にある砕石とか玉砂利とかの部分に積もった雪をどうするか。
スコップやラッセルでガガーっと除雪してもいいのかもしれないけれど、住宅地の周辺の砕石や玉砂利は、雪に隠れてはいても庭の一部だったりもするし、乱暴にガガガーっと除雪するわけにはいかないのですよ。
といって、よくある竹の枝を束ねた竹箒で雪を払えばいいのではと思われがちですが、これが全くうまくないのです。竹箒は雪を払うには弱い。力を入れてググッとやれば多少は除雪することもできるけど、力を入れすぎると玉砂利までバババンと吹っ飛ばしてしまう。
民宿なんかに泊まらせていただいている際、少しでもお手伝いしようと竹箒で雪を払っていて、やんなくてもいいからとお叱りを受けたこと数知れず。とはいえ実働的にはもちろんのこと、雰囲気的にも雪掻きに参加しないわけにもいかず——
そんな時に教えてもらったのが、木の枝で造られたこの箒。竹より固く、といって適度なしなやかさを持っていて、砕石や玉砂利の上の雪を払うのには最適の逸品。
これ、使ってみなくちゃ分からないかもしれない。でも絶品なのです。本当に雪掻きにはこれしかないってくらいのスゴモノです。
スノーシーズンになると東北のホームセンターでは雪掻きグッズのコーナーが設けられるのですが、必ず竹箒も5、6種類出されている。安いもの高いもの、中には雪専用とか謳われた超高価な竹箒もお目見えする。だけどその使い勝手は、この手作り枝箒の足元にも及ばない。
民宿のご亭主の話によると、雪の季節の直前に山に入って、最適な枝をたんまり採ってきて、一冬分の箒を造られているのだとか。造った箒はどうすか?
「そんなの、知り合いから『今年の分はどうだ』なんて催促されるからね。みんな分けてやってるのさ」とのこと。
枝を集めて造ったこの箒、その原材料が何なのか、製作者のご主人に何度も聞いてみたのだが、「箒の木」とか「すすの木」とか「すぼの木」とかって答が返ってくるばかり。ネットで見ると同じく岩手県の山田町で造られているものの原材料は「かすぼり」と表記されているものの、かすぼりで検索してもろくなページがヒットしない。
ネット全盛のご時世にあって、ネットなんかじゃ分からねえことがたくさんある! これぞ人間の力とかすごさというものなのでは!
そしてその枝箒は原材料こそ不明ではあるもの、実物は現に存在していて、そうしてそのかすぼりだかすぼの木だかの枝箒は、この地域の雪掻きには欠かせないものでありつづけている。
地元には、地元の環境にぴったり合ったものがあって、そいつを使って地元の環境に最適な道具をほこっとつくり出してくれる人たちがいる。その素晴らしさ。
これって、とてつもなく現代的なお話しではないかな。
いやホント、一度でいいから経験していただきたいと思う。このかすぼりだかすぼの木だかの枝箒で砕石の上の雪を払ったときの快感と、通常の竹箒(1本千円以上の高級品でも同じだから)で払ったときの残念な感じ。
都会とか田舎とか、どんな仕事に就いているかとか(ちなみに、わたしに枝の箒を知らしめてくれた民宿のおじさんは、石油パイプラインの建設技師として中東に長く滞在していた方らしい)、ありきたりな出自の情報とかプロフィールとか抜きにして付き合う中で、なんかすごいことに突然出会えたりする。
人こそ宝の山なのだ。
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