その瞳に気づいた瞬間、ハートを射抜かれてしまいました。
こんなこと、生まれて初めての経験でした。
だって、こんなに素敵な表情。
純朴なのにひょうきんで、それでいてとても骨太な感じ……
彼がいるのは岩手県北上市。イーハトーブの国で彼は翼を休めています。
彼の名前は「キ228」。戸籍上の本名は「国鉄キ100形貨車 228号」といいます。貨車という名がつけられていますが単線用の雪カキ車です。雪カキ車なのに貨車と分類されていたのは、彼自身は動力を持っていなくて、後ろから蒸気機関車で押してもらって働く車両だったから。
まるでロボットの顎みたいに見える、頑丈そうな三角形で、雪を左右に押しのけて線路を雪カキするのです。
胴体の真ん中辺り、左右に開く羽根のような部分があるの、わかるでしょう。車両先端の三角で左右に押しのけた雪を、さらに線路から遠くへ雪カキするための装置です。動力がないのに羽根状の装置をフラップさせることができるのは、圧縮空気の力。屋根の上には圧縮した空気を詰めたボンベが6本積まれています。上の写真の右後ろにちらっと蒸気機関車の姿も見えてます。
説明パネルを引用しましょう。
単線用雪カキ車
このラッセル車(キ 100形式 228号)は、1948年から1976年にかけて、国鉄北上線(和賀仙人~相野々)の除雪作業に活躍したものです。
無動力車で、機関車からの圧縮空気で排雪板を両側に1.5~2m広げて除雪しました。
今は、性能のよい機種にかわり、この機種は使用されていません。
総長 11.39m 総重量 31.1t
「キ 100形式 228号」の説明パネル | 北上市立公園展勝地
最後の一行がグサッときます。だけど、戦後すぐからオイルショックの時代まで、つまり戦後の経済成長の時代を通して、キ228は北上線の豪雪区間約33kmを結ぶため、毎年毎年、積雪期には毎日のように重たい雪と格闘し続けてきたのです。(SLの通常運転は全国で1970年から71年にかけて終了しているので、その最後も見届けたことになりますし、数年間はディーゼルに押してもらったことにもなります)
現役を引退して、「みちのく三大桜名所」として有名な「北上市立公園展勝地」で第二の人生を楽しんでいるキ228。彼が歩んだ歴史を知ってしまったいま、ますます愛着が湧いてきます。すっと通った鼻筋がますますハンサムに見えてきます。
キ228の絵本や物語がもしもあったなら、きっと「きかんしゃやえもん」や「トーマス」など、数ある機関車が主人公の物語と並ぶ名作になったに違いありません。
旅好き、鉄道好きの方はもちろん、それほどでない方でもぜひ、つぶらでチャーミングな瞳のキ228に会いにきてほしいと思います。
11月もすでに第4週、東北各地から初雪のたよりが届き始めました。盛岡からは今週初めに、昨晩は大船渡や仙台からも霙まじりの雨の中にちらほら雪も見えたという話が聞かれました。
東北の冬はさまざまな物語の時間がしずかに流れていく季節。あたたかい人のぬくもりや、地域ならではのお祭り、雪のおかげで変化していく風景など、たくさんの出会いが待っています。キ228が線路をラッセルする姿を見られないのは残念ですが、ぜひ展勝地まで、彼に会いに行ってみてください。雪の桜並木を、そのつぶらな瞳で見つめながら、きっと遠い日の思い出話をたあんとたあんと聞かせてくれることでしょうから。
キ228はここにいます(北上市立公園展勝地)
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