【東北の風の道】「おかえり」を言いたい(第3号)

iRyota25

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夏休み、遠い町に行った友達が帰省してくる季節。日本中の田舎町で「おかえり」の声が交わされる季節。

「おかえりなさい」「元気だった?」

第3回となる東北の風の道、そんな言葉がたくさん聞かれる場面をお伝えします。

おかえりポストくん

直線距離でも2400km。しかし実際には何万kmの旅の末に流れ着いたのか。誰にも知り得ない長い長い旅の末に、東北の南三陸町から日本最南端近い西表島に流れ着いたポストが、南三陸町歌津の伊里前仮設商店街にある観光協会に展示されている。

太平洋の海流に乗ってハワイ沖をぐるりと回って西表島にたどり着いたのか、あるいはもっと遠く、アメリカ西海岸近くまで流れていった後、赤道の北を西に流れる貿易風にのって日本列島の南端にまで旅してきたのか。

南の島の砂浜に2年近くの歳月の末に流れ着いたポスト。歌津の町のセブンイレブン前に設置されていて、津波で姿を消してしまっていたポスト。

展示されている観光協会の前には、このポストをモチーフにした顔出し看板が掲げられている。

「おかえりポストくん」

帰ってきてほしい思いと、「おかえりなさい」といいたい気持ちが表現された、やさしいやさしい看板だ。

長須賀つながりビーチの海開き

海開きを伝えるサイトに記されていたオープン初日の記事は、「9:00〜」という実にあっさりした内容。オープニングセレモニーでもやるのではないかと思っていたのだが、大々的に何かをやったということではなかったらしい。

だけど、長須賀のビーチにあったのは、日本中のさまざまなビーチで目にするのと同じような、日常的な海の光景。ちらっと写真を見てみますか?

どこにでもありそうなビーチの光景が目の前にある幸福感。

たったの150m、と人は言うかもしれないけれど、そのビーチが今年も復活した喜びを写真集としてお伝えします。

海は知っている「長須賀つながりビーチの海開き」
 海は知っている「長須賀つながりビーチの海開き」
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人口25%の町。「おかえり」が切実な町

先日、まちづくりについての勉強会に参加したとき、講師がパワーポイントで五角形と四角形を示しながら教えてくれた。五角形のそれぞれの頂点をひとりの人とした時、五人の人が互いに関わるパターンはいくつあるか。

答は10通り。五角形のそれぞれの辺の数と、五角形の内側に描かれる星形の辺の数の合計だ。

ところが、五人からひとり欠けて、四人が互いに関わるパターンがいくつになるかというと、四角形の各辺と対角線を合わせた6通り。たったひとりが欠けることで、関わりのパターンは約半分に減ってしまう。

東日本大震災はもちろん、大きな自然災害に見舞われた日本中の地域で人口減少が進んでいる。東北地方では震災後に1割とか2割も暮らす人が減ってしまった土地が少なくない。人が減るということは、それだけ関わりのパターンも減っていくということ。しかもその減り方は、人数が減るのよりもさらに大きく減少する。

震災前に比べて人口が約4分の1にまで減ってしまった町がある。紺青の海と豊かな山に囲まれたその町で、いったいどんなことが起きているのか。

その土地で起きていることは、やがて日本中が直面すること。決して他人事ではないことを知ってほしい。「おかえり」と言いたい切実な気持ちを知ってほしい。

商売で一番大切なのは「ひと」がいること
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漁港が舞台の「海の運動会」

漁港のまわりには漁港以外に何もない。津波は国道まで達し、立っていた家のほとんどが失われた。漁村に暮らしてきた人々は、高台の集団移転先に建てたハウスメーカーによる設計施工の小綺麗な新築に引っ越している。

ここは南三陸町田の浦。東北の、津波被害を受けた小さな漁村によく見られる風景。しかし、この場所には他に見られないステキなお祭りがある。その名も海の運動会。

「8/7(日)海の大運動会in田の浦!!」より
「8/7(日)海の大運動会in田の浦!!」より

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 8/7(日)海の大運動会in田の浦!!
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震災後継続して支援活動を行ってきた滋賀県立大学の先生や学生たちと、地元の人たちが一緒になって作り上げてきた、夏の新しい風物詩。

今年も海の玉入れ、ウニ採り競争、海上徒競走、ホヤつめ大会、海の綱渡りなど魅力的なプログラムがずらり。

これまでお盆シーズンに開催されることが多かった海の運動会だが、今年は8月7日(日曜日)の開催予定。見るだけなら無料。町外からの参加者は参加費3,000円(お土産つき・中学生以下無料)が掛かるが、こんな楽しそうなお祭り、参加しない手はない!

しかも終了後には懇親会(バーベキュー)も開催される。

海好き、アドベンチャー好き、そして被災地を応援したい皆さん、ぜひご参加を!

変わり果てたるこの町に響きわたる太鼓と笛の音色

この音が聞こえてくると、いよいよ夏だなって感じだね。

まるで呼び太鼓のように響き渡った太鼓の音に連れられるように集まってきた人たちが、口々にそうあいさつする。陸前高田の夏を華やかに盛り上げる七夕祭り。うごく七夕のお囃子の練習がはじまった。

陸前高田の七夕祭りは、人と人との出会いの祭り。そして、初盆の家にとってはお盆のお迎えの日でもある。七夕は亡くなった人たちを迎える祭り。七夕は生きている人、亡くなった人を問わず再会の時を彩る祭り。

陸前高田の七夕は、全国の七夕祭りの元祖と言ってもいいくらい、長い歴史をもっている。けんか七夕とうごく七夕が開催される8月7日に向けて、町は祭りを中心に動いていく。「おかえり」を言うその瞬間のために。

【お囃子の練習スタート】祭りの音色がこの町の空に響く
 【お囃子の練習スタート】祭りの音色がこの町の空に響く
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住田町夏祭り7月30日に開催

陸前高田市と大船渡市のお隣の町、岩手県気仙郡住田町。東日本大震災では被災地への支援活動のベースとして多くのボランティアを受け入れた土地。被災地の人々のために地場産業である林業を生かした仮設住宅を提供してきた町。この町の夏祭りが7月30日(土曜日)に開催された。

古い町並みに提灯が吊るされた幻想的な雰囲気の中で行われた道中踊りには、住田町で継続して被災地支援活動を行っているトヨタグループのボランティアも参加。町の人たちと一緒に鮮やかな舞いを披露していた(練習は前日だけだったという話も)。

祭りには江戸時代からの伝統を誇る「五葉山火縄銃鉄砲隊」も登場。気仙川の河原で見事な火縄銃の射撃を披露した。

五葉山火縄銃鉄砲隊の一斉射撃。背景はライトアップされた土蔵。住田は蔵の町としても有名だ
五葉山火縄銃鉄砲隊の一斉射撃。背景はライトアップされた土蔵。住田は蔵の町としても有名だ

五葉山火縄銃鉄砲隊の射撃は、敵を撃つものではなく、邪気を払い、人々の幸福と安寧を祈念するものなのだという。筒先から込めるのは人を殺すための弾丸ではなく、誠のこころ。

山あいの町に、時代を越えた幽玄な時が流れた。

盛岡さんさ踊りは8月1日〜4日

盛岡の町を祭り一色に染上げるさんさ踊り。今年も開催は8月1日から4日までの4日間。踊りの美しさ、太鼓やお囃子の音に包まれていると、自然と体が動き出してしまう。

写真は昨年、宮古市で踊るミスさんさ
写真は昨年、宮古市で踊るミスさんさ

ならいの国の笑顔の祭り、盛岡さんさ踊りへぜひ!

 盛岡さんさ踊り 公式ホームページ
www.sansaodori.jp  

ふるさとの味を年間とおして

三陸海岸沿岸部、おいしいワカメが穫れる場所ではワカメのしゃぶしゃぶは早春の人気料理。熱いだし汁にとれ立ての生ワカメをしゃぶしゃぶっとくぐらせる。茶色いワカメが色鮮やかなエメラルドグリーンに変わった瞬間を逃さずに、つけ汁につけて豪快に頂く。

都会にはワカメという食材を脇役のように思っている人が少なくないかもしれないが、産地の人たちはこの海藻のおいしさをよく知っている。とくに、東北の海辺に生まれ育ち、今は遠い町に行った友達は、その味わいをとても懐かしいものと感じるに違いないだろう。

本来なら生ワカメが穫れる早春から5月初め頃までしか食べられなかったワカメのしゃぶしゃぶが、年間とおして味わうことができるようになった。陸前高田の4人の料理人たちが1年の年月をかけて開発した「陸前高田ホタテとワカメの炙りしゃぶしゃぶ御膳」によって。

陸前高田の「前浜」というべき広田湾は、おいしいホタテとワカメの産地として知られてきた。震災で大きな被害を受けたものの、現在では漁獲も復活してきた。加えて地元企業の努力で、生ワカメを風味を保ったまま冷凍保存する技術が開発されたことで、刺身、炙り焼きなどのホタテと、ワカメしゃぶしゃぶをメインとしたおもてなしグルメが生み出されたのだ。

夏は観光のシーズン。そして帰省と出会いの季節。陸前高田を訪れたら、ぜひ「陸前高田ホタテとワカメの炙りしゃぶしゃぶ御膳」にチャレンジを。お隣のテーブルには、甘いホタテと絶妙なワカメしゃぶしゃぶの味わいに、ふるさとを再認識している人がいるかもしれない。

「陸前高田ホタテとワカメの炙りしゃぶしゃぶ御膳」に込められた誇りとこだわり
 「陸前高田ホタテとワカメの炙りしゃぶしゃぶ御膳」に込められた誇りとこだわり
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東北の風の道

「東北の風」と書いて「ならい」と読むことを教えてもらった。ならいとは冬の冷たい強風を意味する古い言葉とのこと。

東日本大震災の津波が遡り、海が見えないくらい内陸の土地にも大きな被害を及ぼした陸前高田市、気仙川の河川敷に2本のケヤキの木が立っている。1本は完全に枯死してしまったが、もう1本は半分枯れながらも、体半分で緑の葉を茂らせている。このケヤキの木に「ならいの道」を教わった。

たとえどんなに冷たい風にさらされても、たとえ友を失ってしまっても、体を削られるほどの苦しみを受けても、よみがえろうと生の力をたぎらせる。そんな東北の風(ならい)に立ち向かう人たちのことを、一歩ずつ、少しずつでも理解していきたい。

【東北の風の道】震災から5年4カ月(第1号)
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【東北の風の道】まつり・つどい・いのり(第2号)
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