町に太鼓が鳴り響く。夏日の落ちた空に鳴り響く。陸前高田の夏祭り「うごく七夕」。いよいよお囃子の練習がはじまった。
予定の開始時刻に先立って、6時前から鳴り出した太鼓。それが呼び太鼓となって、夕暮れの町から若者たちが集まってくる。
練習の最初は中学生を中心に小学生たちも加わった子ども組。子どもたちは祭り当日昼の部の主役だ。練習初日だというのに太鼓の響きはずどんと肚に響く。毎年毎年のことだから体にしみているのだろう。学年が上がっていくたびに、だんだん頼もしくなっていく。
練習場所の公民館は5年4カ月前の津波で浸水した。しまっていた太鼓も水没、公民館の裏手の倉庫の中にあった山車も津波を被った。震災の年の七夕で山車を出せたのは高田の町全体で3基だけ。津波に浸かりながら山車を復活させて参加したのは唯一ここ大石の祭り組だった。
山車が浸かった状態で七夕がやれるのか。しかし、浸かりはしたが流されたわけではない。山車が残った以上、やらねばならない。代表の斉藤正彦さんは言う。
「つないでいくためには続けるしかないでしょ。続けることしか考えませんでしたよ」と。
太鼓と笛、そして七夕山車は確かに若い世代に引き継がれつつある。
大人たちも負けてはいない。練習の締めは大人組。太鼓が破れるのではないか。笛が割けるのではないかというくらい力強いお囃子が続く。
空に音色が響く。変わり果てたるこの町に、変わらぬ音色が響きわたる。変わらぬ音色が心を揺する。
お囃子が聞こえるといよいよって感じだね。日の暮れ切った空の下で笑顔が交わされる。でも笑顔が交わされただけではない。祭りの当日、少しでも進化した自分の音を奏でたいと、笛の運指や太鼓のバチさばきを動画におさめる姿があちこちにあった。
その思いを知ってほしい。
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