【シリーズ・この人に聞く!第64回】「むくわれない生き方」を変える精神科医 香山 リカさん

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がんばれば必ず成功が待っている。高い目標をもてば自身も向上する。もっと上へ上へ...と目指してきた日本で息苦しく生きている人が多いことも事実。香山さんは競争社会でうまれた歪みで苦しむ人へ「目標や夢に達成できなかった結果を受け入れ、より自分らしい道に進むことは決して挫折でも敗北でもない」と説く。精神科医として患者へ寄り添う一方、大学で教授として教壇に立つ香山先生へ、震災後の心の持ち方を聞いてみました。

香山 リカ(かやま りか)

1960年7月1日北海道札幌市生まれ。東京医科大学卒。学生時代より雑誌等に寄稿。その後も臨床経験を生かして、各メディアで社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍し、現代人の“心の病”について洞察を続けている。専門は精神病理学だが、テレビゲームなどのサブカルチャーにも関心を持つ。
北海道新聞(ふわっとライフ)、中日新聞(香山リカのハート・ナビ)、毎日新聞(ココロの万華鏡)、山陽新聞(時評)、オーディション(スターのココロ)、SFマガジン(SENCE OF REALITY)、アルコムワールド (語学に効く心理学)、月刊日本語(ブックレビュー)
精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授

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がんばらなくていい、という寄り添い方

――香山先生の著書を何冊か拝読しています。たまたま今、私が体調を崩しているせいもあるのかもしれませんが、元気な頃にはスルーしていた言葉をたくさん見つけられて心に沁みました。折しも3.11に大震災があって今、この国には体調を崩している人が溢れています。この現状をどう感じられますか。

「むくわれない生き方」を変える本(朝日新聞出版)

「むくわれない生き方」を変える本(朝日新聞出版)

日本はこれまで「努力すれば結果が必ず出る」という成功神話が掲げられて、皆それに向かって進んできました。何でも自分の意思でコントロールし、日進月歩できる。そうできないのは意思が弱いからだ、という無言のプレッシャーもあったように思います。どんな人でも、意外なほど体の状態や調子に支配されていて、感情や思考もそれに伴ってユラユラと変動します。体調が悪い時は休んでいいんです。いい時もあれば、悪い時もある。人は常に一定ではなく、そういうバイオリズムで生きていると思います。不調はあってはいけない、という前提で考えないことも大切です。

――香山先生はこれまで不調と、どう付き合って乗り越えてこられたんでしょう?

私はものすごく快調ということも不調というのもなく、ずっと低空飛行で生きているんですね。でも、そういう人がいてもいいんじゃないかと。やらなければならないことはいつも先延ばしにしていますから、いろんな方に迷惑を掛けています。

――震災以降、被災地へ向けたボランティア活動をする人が増えています。先日、雑誌で香山先生のコラムに「何もしなくてもいい。今、目の前のことを精一杯こなして生きることで十分だ」という話が載っていました。私も含めて今すぐ被災地へ飛んで行きたくても行けない人は、なんだか罪悪感に駆られて過ごしている。誰かと比較して生きなくていいんだよ、というメッセージを常に発せられていますが、それはとても深い意味があったのだと励まされます。

患者さんの診察をしていても、比較して落ち込んで来られる方が多いんです。例えば主婦のAさんは「私も仕事がしたかった。何も仕事をして対価を得ていない私なんかダメなんだ」という悩み。一方で仕事一筋できたBさんには「仕事はしてきたけれど結婚して子供を育てることがまっとうな生き方だったのでは」という悩み。また仕事も育児もどちらもしているCさんは「どちらも中途半端だ」という悩み。どれが優れているとか、むくわれているということでもない。それぞれ自分が知らぬ間に選んで手にしたもので、悩みが生まれている。今の生活に自分が望んでいるものが詰まっていると考えて、無いモノねだりを再点検することで今を大事にしたほうがいいですよね。

高度経済成長期に育ったテレビと漫画大好きな少女

――先生は北海道でお育ちになられたということで、どんな幼少期を過ごされましたか?

幼稚園時代(右)。自然に囲まれて育った。

幼稚園時代(右)。自然に囲まれて育った。

自然の中で過ごすのが好きで、のんびりしていましたね。時代は高度経済成長期でした。テレビやアニメも始まり、たて続けに創刊されたマンガ雑誌も大好きでした。習い事はピアノ、お習字などお友達がやっていることは一通りやらせてもらいました。

――何でもお出来になりそうですが、習い事で続いたことや好きなことを発見したことはありましたか?

ピアノが好きで、自分では得意と思っていました。でもある時、先生が旦那さんの転勤で移転されてしまい、後任の先生に習うことになりました。そうしたら基礎がまったくできていないことがわかった。前の先生は褒め上手だったんですね。そんなこともあって小学校時代にピアノは辞めてしまいました。何も得意でなかった。運動もできませんし、学校では器楽演奏するブラスバンドクラブ。新聞部に入って校内新聞を作っていました。

――ご家庭でお母様お父様は、教育方針がおありでしたか?

特になかったですね。やりたいことはやらせてもらいました。「○○をやりなさい」と指示されることがなかったので、勉強しなさいと言われたこともありません。当時はよその家庭も皆そうだと思っていましたが、大きくなってから振り返ると『もうちょっと期待してくれてもよかったのになぁ~』と思うことはありますね。

――今の子どもたちを見て感じることはありますか?例えばゲーム機器は昔ありませんでしたから、時間の過ごし方が違いましたよね。

ゲームは無かったけれど、私は漫画もテレビも大好きでした。目の前の現実が好きな子もいれば、現実ではないバーチャルな世界が好きな子もいる。それは今も昔も変わらずにいるけれど、それ自体が悪いこととは思いません。子どもが変わったわけではないと思うんですね。昔は「社会に対する信頼感」があった。「知らない人に道を聞かれたら親切に教えましょう」と教えられたと思いますが、今は「知らない人に話しかけられたら絶対答えてはいけない」と教わります。不信感を抱かざるを得ない状況が、とても気の毒ですね。

混迷する社会をどう生きるか

――被災地の子どもたちにこれから必要なことは、どんなことだと思われますか?

素顔の香山先生は年齢不詳、華奢でかわいらしい。

素顔の香山先生は年齢不詳、華奢でかわいらしい。

今大変なことが起きているけれど、これから大人たちも協力していい方向へ進んでいこうとしているから、先が今よりもっと悪くなるのではなく、希望をもって生きていこう。そんな「未来に対する信頼感」を与えてあげたい。これから大変なことと同じくらい楽しいことも待っているから心配しないで、大丈夫……と未来を信じられる力を与えること。そして大人がそういうことを約束してあげることが大事だと思います。

――そうですね。そのために学校での通常授業だけでなく音楽やスポーツなど楽しい!うれしい!と感動できるような体験があるといいですね。

今は学校で勉強するどころではないかもしれない。でも学校にくれば友達に会えるとか、この教科書は今学期で勉強が終わるとか、来年になったら学年が上がって教室が変わるとか……そういう未来がある程度読めて、自分にも先に続く未来があると思えることこそ大切。「明日はどうなるかわからない」ではなく、「明日はこれを勉強しよう、あの子と会おう」とハッキリ目に見えて希望がある場が、学校なのだと感じています。被災地では全校が一緒に遊ぶようにしたり、行事を多くして皆で一緒に体験することを意識したり、そういう取り組みが今後は増えていくと思います。大人のケアも大事ですが、子ども同士のつながりで励まされたり、力になったりすることがあるのでは。

――本来の学校のよさを取り戻すために、子どもたちと共につくりあげていってほしいです。これから復興への道のりは長い長い時間が掛かると思います。香山先生はこれから私たちがどのように生きてゆくべきだとお考えですか?

被災した宮城県へ2度訪問しました。現地はテレビでも映像が流れている通り酷い状態です。何もかもなくなっている。復興といっても元通りになることではないし、世界にモノいう経済大国になることでもない。日本は震災前から「無縁社会」が問題視されていて、人との関係性の薄さを指摘されていました。高齢者の孤独死や子どもの虐待など、この問題の延長にあります。物質的、経済的に豊かでなくても皆が心通いあえるような生き方をしたいですね。この震災を機に、大人から「日本はもう一度あたたかい心を取り戻してやり直していける。支えあう社会を再構築していく」と自信をもって子どもへ伝えてほしい。

――大人から希望をもつ、子どもたちへ希望を与える。そういう姿勢が大事なんですね。では最後に、その希望を失わないために何かアドバイスをお願いします。

被災された方も、被災していなくても未曾有の災害をテレビやネットでおびただしい情報に触れて心にダメージを負っている人は多いです。ショックが何らかのトラウマとなってしまう。深刻な後遺症を残さないようにするために、初期の段階でまず休息すること。カウンセリングよりも、まずは安全な場所で体をゆっくりさせて十分に睡眠と食事を摂る。「何も考えずに休む」という手当てがされれば、激烈な体験が尾を引いて長く心の重荷になることも少なくなる。「復興だ!」「新たな出発だ!」と気負い過ぎず、ゆっくりとそれぞれが再生への道のりを歩みだすのがよいような気がします。仕事も残業せずに早めに切り上げる。休みは近所で散歩して森林浴。そんなリハビリ期間が、日本中の人にとって希望をもつために必要なのかもしれません。

編集後記

――ありがとうございました! 著書の一冊にサインをお願いしたら、サラサラっと添えてくださった一言「心は広く軽く」という言葉が沁みました。元気だけが取り柄だった私も震災少し前から抗えないほどの不調が襲いかかり暴力的に悪化。コントロールできると思っていたことがまったくできずに苦しい時間を過ごしました。でも、おかげで「意思とは無関係でコントロールできないこと」が世の中には多数あるということを今さらながら思い知った次第です。体が弱ってから、これまで以上にいろいろな本を読み漁るようになりましたが、香山先生の本はどれも弱っている心と体に寄り添ってくれます。完全休養はできませんが、スピード落としてちんたら仕事をしているうちに早3ヵ月、だいぶ軽くなってきました。しんどくなったら、また先生の著書を一冊買い足して読んでみます。

取材・文/マザール あべみちこ

活動インフォメーション

私はのんびり生きてきた。
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2011⁄4⁄27発行
香山 リカ 著  扶桑社
定価 1,296円(税込)
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2011⁄4⁄20発行
香山 リカ 著  講談社
定価 799円(税込)
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世の中の意見が“私”と違うとき読む本―自分らしく考える
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香山 リカ 著  幻冬舎
2011⁄4発行
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現代社会で、自分の意見を持ち、ふりまわされずに生きていく第一歩は、「少数派になるのを恐れない」「わからないときには判断を保留する」「変節を恐れない」ことだ。世の中で意見が分かれる悩ましい問題を題材に、自分なりの正解の導き方をアドバイスする思考のトレーニング。

「むくわれない生き方」を変える本
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2011⁄3⁄30発行
香山 リカ 著  朝日新聞出版
定価 1,296円(税込)
「こんなに頑張っているのに…」「どうして私だけ…」そんな気持ちがすっと楽になります。新しい生き方の提案。

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