階段の渡り廊下を下っていくと、そこには、東北の淡い緑の木々に覆われた小さな浴室があるのです。
浴室の入り口に、こんな暖簾が掛けらているのも東北の味わいです。しずかなしずかな山のいで湯。入浴客もまばらだけれど、知らない人同士が、浴室に入る時には「お邪魔します」、出る時には「お先に」と声を掛け合うような、そんなお風呂。さすがに中の様子の写真を上げるのは遠慮しておきますが、小さくてもあたたかいお風呂です。
ここは岩手県陸前高田市。氷上(ひかみ)山の麓にしずかに佇む「霊泉 玉乃湯」。
このあたりは昔から玉山と呼ばれてきた場所。玉山の玉とは水晶のことなのだとか。お風呂にのんびりつかっているとなるほどなあと納得できます。湯船にあふれるお湯も、お風呂で一緒になった人とぽつりぽつり話す会話も、まるで水晶のよう。ぽかぽか温まりながら、体もこころも透き通っていくように思えるのです。
とにかく渋い玉乃湯なのですが、聞いて驚いたことがありました。その昔、玉山は東北有数の金山で、奈良の大仏を彩っていた金も、あの平泉の金色堂の黄金も、玉山で産出されたものなのです。豊臣秀吉が伊達政宗から、この金山の採掘権を取り上げたという話まで伝わるほど。ということは、マルコポーロが『東方見聞録』に「東方に国あり、その名ジパングという。その国で特に驚くべきことは金の多いことである。その金は掘れども尽きず。」と記したその掘っても掘っても尽きることのない金こそ、この玉山の金のことだったのです。
知らなかったなあ。日本の金山発祥の地とまで言われる玉山なのです。
いまでは陸前高田で一番のショッピングゾーンのおもむきがある竹駒の集落から玉乃湯に上ってく道沿いには精錬所跡、検問所跡、そして博打岩といった旧跡、そして千人坑、和右ェ門坑、尺八坑といった金鉱の跡も残されています。
現在の玉山にかつての栄華の姿を見ることはできません。ただ、水晶のように透き通った、美しい玉乃湯のお湯が流れるばかり。でも、黄金よりも何よりも、もしかしたら、この山のいで湯こそが、ジパングの宝なのかもしれません。
霊泉玉乃湯は陸前高田市にあります。町なかから車で15分ほどの場所。ぜひ一度、このしずかなお湯につかりにいらしてください。お風呂に入ったら、お客さん同士のご挨拶を忘れずに。
霊泉玉乃湯
岩手県陸前高田市竹駒町字上壺104-8
霊泉玉乃湯
〒029-2203 岩手県陸前高田市竹駒町字上壺104-8
TEL&FAX 0192-55-6866
毎月、第2・第4火曜日が休館日です。
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