こういうことは気づいた時にすぐに記事にすれば良かったと後悔しているのだが、今朝(6月30日)、4時過ぎに飼い猫に叩き起こされた。遠く箱根山の方を見ると、地元の子らがふざけて「もっこし山」と呼ぶ箱根の駒ヶ岳の向こうから、かすかに小さな噴煙のような雲が見えた。箱根からは25kmくらい離れているので、野焼きの煙か蜃気楼かくらいの小さく微かなシメジみたいな雲を噴煙だと言い切ることはできなかった。
しかし、本日(やはり6月30日)12時30分に気象庁が小規模噴火を認め、噴火警戒レベルを3に引き上げるずっと以前から、ネット上には噴火ではないかという声が多数寄せられていた。
たとえば「真実を探すブログ」に掲載された、箱根<宮城野>の午前4時59分の上の映像、まさに私が見たのもこれだったのかもしれない(方向的には反対側からだが)。
前日「降下物は土砂」と発表した気象庁に非難続々
前日の29日、大湧谷の北約1.2キロを走っていた気象庁の車の窓に、火山灰のような粒子が付着。気象庁は降下物を分析の結果、火山灰ではなく、新たな噴気孔によって飛ばされた土砂だと発表していた。
ニュース映像で見ると、鹿児島市内などで桜島噴火の際に見られる火山灰にも良く似ていた(さらに白っぽく見えた)のだが、ネットでは夜のうちから気象庁発表に対する疑義が続出。地質学者で群馬大学教育学部教授の早川由紀夫さんは、自身のTwitterにこう記している。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 23h23 hours ago
「12時45分頃に機動観測班が大涌谷の北約1.2キロメートルの上湯場付近で確認した降下物は、この噴気孔からの土砂の噴き上げによるものと推定され、この現象は噴火ではないと考えています。」
土砂の噴き上げは噴火でないと気象庁は考えるんだそうだ。驚いた。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 23h23 hours ago
きょう気象庁は圧力に屈して、噴火を見ても噴火でないと言った。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 23h23 hours ago
気象庁は、越えてはならない橋を渡って向こう岸に行ってしまったとみられる。箱根山を大涌谷周辺に言い換えた段階では、橋からこっち側にまだ戻ってこれただろうが。もう戻れない。
早川さんのTweetに、地元の人たちのTweetが続く。「今も降ってるじゃん。」「指で捏ねてみますと、硫黄臭と鉄の匂いがします。」
早川教授のTwitterは必見。この数日の箱根火山を巡る行政側の対応がどういうものだったかがよく分かる。
6月30日午前、三島
気象庁の「噴火ではありません」発表から半日、箱根から20km近くも離れた三島でも揺れが頻発していた。7階建てで特に地震に揺れやすいオフィスなのだが、「あれ、また揺れてんじゃない?」とか、地震情報を見て「5分か10分おきに地震が起きてるみたいだね」とか言い合っていた。
「昨日のって噴火じゃないってことだけど本当かな?」
「土石流の土砂を噴気が吹き飛ばしたっていう説明だったけど」
「それじゃあ、去年の御岳とどこがどう違うんだろう?」
などと話しながら、上の早川博士の指摘に気がついた。気象庁は噴出物の種類(火山灰や火山礫など火山生成物であるかどうか)、噴出の形式(水蒸気による噴出かマグマ噴火による噴出か)を問わず、「噴出場所から水平若しくは垂直距離概ね100~300m の範囲を超すものを噴火」としてきたのだ。
これは知らなかったなあ、なんて感心している場合ではない。昨日の報道で、気象庁は大湧谷の北約1.2キロを走っていた気象庁の車の窓に、火山灰のような粒子が付着していたことを発見していたわけだ。発見した時点で即噴火の判断となるべきところが、丸一日たってようやく「小規模な噴火が発生したと考えられる」なのである。
気象庁は台風、集中豪雨、地震などの災害の避難等に関する情報を一元的に発信できると法律で定められている唯一の専門機関である。天気予報などの気象情報業務を民間へ開放した一方で、災害情報は一元的に取り扱う方向で運用されてきたのだ。今回箱根で起きたことは、そんな国民の生命財産を守るべき災害情報専門機関である気象庁が、自ら規定した噴火の要件を、自ら破棄してしまったということなのである。
早川教授が厳しく指摘しているように、神奈川県、国、そして地元の箱根町からの圧力に屈してしまったのか、あるいは、気象庁の機動観測車両だけではなくて地元住民からも灰のようなものが降っているとの情報を、一夜明けた後になって看過できないと考え直したのか、それは分からない。
しかし、国民を自然災害から守ることに専門化したはずの気象庁が、自ら基準を逸脱した運用を行なった罪は大きい。
東日本大震災の2日前の地震から、いやその前年のチリ地震津波(東京マラソンの開催を巡って紛糾)、さらに遡れば阪神淡路大震災で「地震予知」の看板を下ろさざるを得なくなってから以降続く気象庁の迷走が、そのまま今回も悪い方に出てしまった。
これからは、気象庁や行政が発表する危険情報には、あえて悪い方向に下駄を履かせて判断する知恵を持たなければならないのかもしれない。お上が大丈夫と言おうが言うまいが、それを丸ごと信じて死んでしまったのでは元も子もないのだから。
火山の恵みをプールすることを
小学校でも教わった通り日本は火山国だ。そして、火山があるからこそ、美しい自然や風土、文化や生活環境が築き上げられてきた。
日本の山「富士山」はいうまでもなく火山だし、スキーで有名なニセコも、牧場が美しい小岩井農場も清里も軽井沢も草千里の阿蘇山もどこそこも火山だ、といちいち挙げていこうしてその愚かしさに気づかされる。日本国内で風光明媚とされる土地のおそらく3分の2くらいは火山によってかたちづくられている。日本人が大好きな温泉だってもちろん火山からの恵み。もっというならかつて世界一を誇った金鉱山のほとんどは火山の熱水によって作られたもの。サンゴのビーチ以外で日本の白砂の浜辺の多くは火山岩である花崗岩由来だし、さらに火山噴出物による地質はブドウやサツマイモなど多くの農産物を育む大地ともなっている。
日本中、火山だらけ。そして日本の観光地のほとんどが火山の恵みを享受してきた。火山があってこその観光地だったのだ。ところがいま、突然(ということでもないが)噴き上げてきた噴火騒動で箱根町の観光がダメージを受けかねない、まして7・8月の書き入れ時を前に被害が心配されると、地元の自治体のみならず神奈川県もいっしょになって「風評被害」という言葉を打ち出してきた。
これはいったいどうなのだろう。
いままで火山の恩恵で生きてきた人たちが、噴火レベルが上がったからといって言い出す言葉とは思えない。噴火のせいで困っていますといえばいいところなのに、どうして風評という言葉を持ち出すのかが分からない。風評とは実害はないということだ。しかし火山の災害に関して絶対安全なんてありえないし、そのことは気象庁の大チョンボからも明らかだ。風評だから大丈夫、安全ですなんて町や県が言っておいて、ドカンと山体が吹っ飛ぶようなことがあったらどうするのか。4年前と同じく「想定外」を繰り返すのか。
これから夏の繁忙期を前にこんなことになって、地元の人たちが大変なのはもちろん隣の県で、さらに観光業がひーひー喘いでいる静岡に暮らしているからよく分かるつもりだけれど、ここは敢えて、とってもマクロなことを主張させていただく。
火山のおかげで恩恵に与っている観光地である以上、何百年、何千年に一度、火山災害に見舞われることを見越した上でビジネスや安全に関する施策をとっていくべきではないか。(あるいは北海道の有珠山のようにほぼ30年周期というところまである)
噴火はいつ発生するかは分からないが、必ず起きるのだから、それに対する経済的な備え、具体的には積み立てでもいいだろうし、特別に行政がその枠を拡張するというのでもいいだろう。いざという時への備えを万全にして、そして実際に災害の発生するおそれが生じた時には、ビジネスはおいといて、とにかく安全第一に行動する。噴火が収まりさえすれば、その土地はたとえば溶岩台地「鬼押出し園」とか「桜島の溶岩渚」のように新たな名所にもなりうるし、再起はきっとできるだろう。
そんなに難しいことではないだろう。行政はそのための措置を「利権」や「天下り先」といったものからは離れた、クリアかつシンプルな仕組みとして整えればいいだけだ。
今回は準備がなかったというのであれば、噴火災害の収束後に神奈川県が中心になって手厚く保護をしてほしい。そして次の災害に備える文化を育んでほしい。それにあわせて、日本中から募金を募ろう。箱根温泉は全国に名の知られた温泉地。だからこそ、国民的な運動として災害に備える文化を育むキックオフになりうるのではないか。
そしてヘリは飛ぶ
6月30日も午後になると火山性の地震はかなり減ったようだ。ゆらゆら揺れやすい三島のオフィスビルでの体感でも、午前中のような「あれっ!」というような揺れは少なくなった。それでも「なんかまた揺れてる感じがするよね」と話す人もいた。きっと揺れに敏感なんだろう。(鈍感な自分も、オフィスのパソコンモニタの片隅にずっと強震モニタを表示していた)
小規模とはいえ、20kmも離れていない山で噴火が始まったのだから、早めに退社して外に出ると上空にヘリがバタバタとあの独特の轟音を立てて上空を飛び回っていた。
マスコミのヘリが箱根の遠景を撮影しているんだろうと思っていたが、ほぼホバリングした状態で三島駅の上空から少しずつ海の方へと移動していく。その移動速度はほとんど徒歩と一緒。曇りの日だったから少しずつ辺りも暗くなりはじめてくる。
もしかしたら、箱根の上空を撮影しに飛んできたものの、山体が雲に覆われていて撮影できないから、薄暗がりになって火映現象(火口の熱で上空の噴煙や雲などが赤く光る現象)の撮影に切り替えて、その時をホバリングしながら待っていたのかもしれない。しかし、折しも三島では雨が降り出したので、ヘリは西の空へと去っていった。
彼らは噴火を待っているんだろうなあと思った。なんで火口から20kmも離れたところで待機しようとしていたのかっていうと、やっぱり突然の爆発が恐いんだろうな。そんなことも思った。
どこの新聞社、あるいはテレビ局のヘリかは分からなかったけれど、火映や噴火の瞬間を待ち構えているカメラマンが所属する社では、「風評被害」のことを放送ではしゃべっていないとも限らない。「立入り禁止区域はほんの半径1kmに過ぎず、箱根は広いから安全です」という空疎なメッセージを。
東日本大震災で、命がかかった震災後数日の間、低空でホバリングを続けるヘリに地元の人たちが地上から叫んだという話を思い出した。「うるせー、おめら救助に来ねえなら、どっか行け!瓦礫の中で助け求めてる人の声が聞こえねえだろうが!」
その時、その声が聞こえなかったとはいえ、マスコミの映像を通して被災地の地獄絵図を見ていた自分たちが同じ罪から逃れ得ないということを、じわりと災害の足音が近づいてくる町で感じている。
最終更新: