【ことばはしばしば偽装のために用いられることがある】
粛々とは静かに厳かにという意味らしいのだが
ところで「粛々」がどういう意味なのか。かの新明解国語辞典(第5版)によると次のように解されている。
【粛々】―たる ―と(緊張して)静かに行動する様子。
「新明解国語辞典」第五版 三省堂
(緊張して)の部分を除けば、ずいぶんあっさりした解釈だが、基地や原発問題にこの言葉を使う場合、要するに「ことを静かに進める」ということになりそうだ。
果たして菅官房長官や安倍総理大臣に(緊張して)の趣があるかどうかはよく分からない。もしかしたら当人たちがこの言葉を使うに当たって、実はとっても緊張していないという証拠がある訳ではない。一度使っちゃったらもう一気に緊張感が抜けてしまって、つい口走ってしまってる状態ではないとは、誰にも断言することは出来ない。
でもまあ、この「緊張」に関しては各人の心の中の事象なのでここでは扱わないとして、あっさり過ぎた明解さん以外の辞書に当たっても、静かにとか厳かにといったニュアンスの解説が多い。つまりは、しーんと静まり返った中で、神事がつつがなく執り行われるような、そんな物事の進め方といった意味だと考えておきたい。
沖縄の基地の問題であれ、原発再稼働のことであれ、静かにことが執り行われるような状況か?
つまりはまったく小見出しで書いた通りのことなのだ。進め方であれ、進める方向であれ、誰にも異論がなく、あらかじめ皆が得心したように厳かに事がなされていく様子が「粛々」という言葉のイメージだろう。ところが辺野古移設問題も原発再稼働も、まるっきりその正反対だ。反対意見がある。賛成意見の中にもさまざまな考え方がある。反対意見の中だってそうだ。まだ事が「粛々と」と執り行われるまでに、擦り合わせも議論もなされていない。共同体が皆で、ある程度の合意を示す程度にすら到っていない。
反対の意見がたくさんある中で、三権分立の原則を顧みることなく「最高責任者」を自認する権力者が、自分たちにとっての「粛々」たる進行を宣言するとしたら、それは反対の考えの人たちに対して、「お前らは黙っとれ!」と言うているに等しい。
合意の上で静かに事を進めるのが「粛々」である。合意のないまま押し進めるのは「横暴」に他ならない。沖縄県の翁長知事はそこを突いたということなのだろう。
だから、「粛々」という言葉を軽々に使うことに対しては、しっかり反対しなければならない。実のところ「横暴」なのに「粛々」なんて静かそうに見えるお面を被って事を進めることは止めなければならない。
粛々と再稼働を党方針に復活させた政党
現在、政権側の人が多用する「粛々」という言葉は偽装まがいのものであることが多々あるように見えるが、少々異なるケースもある。最後にそれをいくつかの資料を引きながらご紹介。引用するのはここ3回の国政選挙での自民党のマニフェスト。原発再稼働に関して表明している部分だ。
(2012年)
第46回参議院議員選挙
原子力の安全性に関しては、「安全第一」の原則のもと、独立した規制委員会による専門的判断をいかなる事情よりも優先します。原発の再稼働の可否については、順次判断し、全ての原発について3年以内の結論を目指します。安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。
2012年の衆院選というのは、消費増税での三党合意と引き換えに、民主・野田政権が衆院を解散して、自民公明両党が政権に返り咲いた選挙。ここでは再稼働の「さ」の字すら登場しない。
(2013年)
第23回参議院選挙
●これまでのエネルギー政策をゼロベースで見直し、「電力システム改革」(広域系統運用の拡大・小売参入の全面自由化・発送電分離)を断行します。
●原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねま
す。
その上で、国が責任を持って、安全と判断された原発の再稼働については、地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をいたします。
ついに再稼働の「さ」の字が登場。しかし、安全性判断は政府ではなく、規制委員会に任せる。その上で安全と判断された原発の再稼働については(中略)最大限の努力をする、と主語があいまい。そして、再稼働の項目に先立って、電力業界が抵抗している電力システム改革を「断行する」とまで謳い上げる。
本来なら政権公約は分かりやすくてナンボのものだと思いがちだが、実は何となくぼやかして書いておくというのが王道ということか。馬鹿にされたものである。
そしてこの選挙で与党側が勝ったことで、政権はまるでフリーハンドを得たかのような行動に邁進するわけだ。昨年末の第47回衆議院選挙のマニフェストの原発再稼働関連の部分も引用する。
(2014年)
第47回衆議院選挙
<責任あるエネルギー戦略を>
再エネの導入状況、原発再稼働の状況、地球温暖化に関する国際的議論等を見極めつつ、エネルギーミックスの将来像を速やかに示し、新しい「エネルギー基本計画」に基づいた責任あるエネルギー政策を構築します。
原子力については、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源との位置付けの下、活用してまいります。
いかなる事情よりも安全性を最優先し、原子力規制委員会によって新規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原発の再稼働を進めます。再稼働にあたっては、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の
理解と協力を得るよう取り組みます。
原発事故翌年の衆院選での政権奪取時には、「さ」の字も出さず、しかし段階的かつ大股の早足で再稼働の方向へと進みつつ、それでもカモフラージュだけはちゃんと施しておき、最終段では「原子力については活用してまいります」と宣言までするに至る。
この三段階での原子力政策の見せ方こそが「粛々」という言葉に値するものかもしれない。だとすれば、ここまで粛々と事を運んできたのだから、この期に及んでグダグダ言うなと思っている人間がいるということか。
あゝ「粛々」。いつの間にか返り討ちにあったような実にいやな気分だ。
「粛々」に騙されないばかりでなく、もっと賢くならなければならないと痛感する。
最終更新:
51mister
世耕官房副長官が原発整備会社から個人を装う献金をされましたからね。ずぶずぶ過ぎです。原発の施工官房副長官ですよ。何でも有りがどんどん強くなってきているようで恐ろしいことです。