都知事選の最中は原発問題に触れないで、ってナニ?

iRyota25

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東京新聞朝刊(1月30日)の記事に驚いた。まさかと思った。

出演者に強要して放送内容を操作しようとした?

と受け取れる驚きの文章が、記事にずらっとつづられていた。何がそんなにびっくりなのか、東京新聞「TOKYO Web」からの引用をご覧ください。

NHK、脱原発論に難色 「都知事選中はやめて」

 NHKラジオ第一放送で三十日朝に放送する番組で、中北徹東洋大教授(62)が「経済学の視点からリスクをゼロにできるのは原発を止めること」などとコメントする予定だったことにNHK側が難色を示し、中北教授が出演を拒否したことが二十九日、分かった。NHK側は中北教授に「東京都知事選の最中は、原発問題はやめてほしい」と求めたという。

 この番組は平日午前五時から八時までの「ラジオあさいちばん」で、中北教授は「ビジネス展望」のコーナーでコメントする予定だった。

 中北教授の予定原稿はNHK側に二十九日午後に提出。原稿では「安全確保の対策や保険の費用など、原発再稼働コストの世界的上昇や損害が巨額になること、事前に積み上げるべき廃炉費用が、電力会社の貸借対照表に計上されていないこと」を指摘。「廃炉費用が将来の国民が負担する、見えない大きな費用になる可能性がある」として、「即時脱原発か穏やかに原発依存を減らしていくのか」との費用の選択になると総括している。

 中北教授によると、NHKの担当ディレクターは「絶対にやめてほしい」と言い、中北教授は「趣旨を変えることはできない」などと拒否したという。

東京新聞:NHK、脱原発論に難色 「都知事選中はやめて」:社会(TOKYO Web)

番組に出演する個人に対する「強要」とも受け取れる。
記事はさらに続ける。

 中北教授は外務省を経て研究者となり、第一次安倍政権で「アジア・ゲートウェイ戦略会議」の座長代理を務めた。NHKでは「ビジネス展望」だけでなく、二〇一二年三月二十一日の「視点・論点」(総合テレビ)で「電力料金 引き上げの前に改革を」と論じたこともある。

 中北教授は「特定の立場に立っていない内容だ。NHKの対応が誠実でなく、問題意識が感じられない」として、約二十年間出演してきた「ビジネス展望」をこの日から降板することを明らかにした。

◆詳細は答え控える

<NHK広報局の話> 中北さんに番組に出演していただけなかったのは事実です。詳細は番組制作の過程に関わることなのでお答えを控えます。

東京新聞:NHK、脱原発論に難色 「都知事選中はやめて」:社会(TOKYO Web)

「東京都知事選の最中は、原発問題はやめてほしい」「絶対にやめてほしい」――

そうNHKが求めたとするならば、その根拠をNHKは示すべきだろう。

「日本放送協会としての考えはかくかくしかじかで、それに基づいて中北教授にコメントの内容について再考するようお願いしたが受け入れてもらえなかった」と。

公共放送を自称するのであれば、まずは自らのポリシーやスタンスを明確にすべきだ。まして選挙戦のさなかであればなおのことだろう。

そうでなければ視聴者は、公共放送であるNHKの放送内容は公正であると勘違いしかねない。勘違いしたまま投票場に行った有権者が、公正でないのに公正だと勘違いした情報に基づいて投票してしまうおそれは大いにある。勘違いが元で投じられた一票で選出された当選者は、国民や市民によって選ばれた代表と言えるのかどうか。

内部告発ではなかったことの重さ

都知事選がスタートして以来、テレビや新聞の報道姿勢に対する疑問の声は、ネットを中心に広がりを見せていた。特定の候補の紹介に偏っている。具体的な数字をあげることなく特定の候補の優勢を繰り返し伝える。報道に対する圧力がかかっているのではないか、などなど。

福島原発の廃炉に向けた作業や汚染された地域の除染についてのニュースも極端に減ったように感じる(これは印象である)。原発に対して批判的なスタンスで報道してきたとあるニュース番組でさえ都知事選の扱いが弱いように感じる(これも印象である)。

もしかしたら、内部で圧力がかけられているという場合もあるかもしれない。しかし、本当にそんな状況ならば、必ず誰か尻尾を掴んでいる人が、なんらかの方法で外部にリークするに違いないと思っていた(あるいは信じていた)。

それが内部からではなく、出演者の降板という形で明るみになった。しかも伝えたのはNHK自身ではなく外部である東京新聞だった。この一事のみで判断することはできないが、このニュースでもうひとつ明らかにされたのは、メディア企業の内部浄化はあまり期待できないということだ。

さて――。

NHKはさまざまな問題はあったにせよ、都知事選の選挙期間中も原発関連の記事を伝えてきた。統計をとっている訳ではないが、NHKの「NEWS Web」の社会ニュースの1ページに原発関連のニュースが1本から2本紹介されるという割合は大きく変わってはいない(漠然とした印象よりは多少確からしさは高い)。

で、番組の内容について圧力がかけられる可能性があることとを、掛け算して考えあわせるなら、別の疑念も生じてくる。ことはさらに深刻だ。

結論は、NHKはひどい! とか、メディアは信じられない! といった直線的に導き出されるものではない。

もしかしたら故意に公正さを印象付けようとしている大きな組織に対して、どう向き合っていくかが問題なのだと思う。残念ながら、一般の私たちがニュースソースに直接ふれる機会は、メディア企業の構成員に比較してかなり低いから、メディア経由の情報をいっさい排除するという選択肢は現実的ではない。ではどうするか。

最近では多くの人たちが、テレビや新聞などが伝えるニュースに対して、眉に唾を2、3回つけてから接しているらしいが、今後はさらに慎重に見たり読んだり判断したりする必要があるだろう。新聞の名前やテレビの局名だけで判断することはできない。それぞれの記事や番組、さらにその中のコメントひとつひとつやパラグラフごとに、「ホントかな?」「デマじゃないか?」「これってお手軽に作られた埋め草だろ?」などと考えながら接するようにしよう。

「スカも多いが、まともな情報がまれに紛れ込んでいる」という心づもりで接する某2ちゃんねると付き合う場合と同様のスタンスということだ(これは私見である)。

問題をスクープした東京新聞は、ことの顛末を紹介した上記の部分に続けて解説も行っている。記事はもちろん署名記事。以下に解説部分を引用します。

<解説>公平公正 裏切る行為

 中北徹東洋大教授のNHK降板問題で、中北教授はNHK側に「都知事選期間中は原発の話はやめてほしい」と迫られたという。再稼働を進める安倍晋三政権の意向をくんで放送内容を変えようとした可能性は否定できない。

 選挙期間中であっても、報道の自由は保障されている。中北教授は予定原稿で「現状では原発稼働がゼロでもアベノミクスが成果を上げている。原発ゼロでも経済成長が実現できることを実証した」「経済学の観点から、巨大事故が起きた際の損害額のリスクをゼロにできるのは、原発を止めることだ」と指摘した。

 NHK側が問題視した中北教授の原稿は、都知事選で特定の候補者を支援する内容でもないし、特定の立場を擁護してもいない。

 NHKの籾井(もみい)勝人新会長は就任会見で「国際放送で日本政府の意向を伝える」としている。原発再稼働を強く打ち出している安倍政権の意向を忖度(そんたく)し、中北教授のコメントは不適切だと判断したとも推測できる。

 原発政策の是非にかかわらず受信料を払って、政府広報ではない公平公正な報道や番組を期待している国民・視聴者の信頼を裏切る行為と言えるのではないか。
 (中村信也)

東京新聞:NHK、脱原発論に難色 「都知事選中はやめて」:社会(TOKYO Web)

※引用部分をつなげると、東京新聞「TOKYO Web」掲載記事の全文になります。一部抜粋も検討しましたが、問題の重要さを考え、読者に全文を確認してもらえる形で掲載させていただきました。

文・構成●井上良太

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