あの日、双葉町であったこと「実体験的地震対策」

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 ●第3回 あの日、双葉町であったこと「原発は生活の基盤だったが」
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余震ってずっと続くんです。夜中になっったからって余震はとまらない。これが怖いんです。余震が起きる間隔ってのは、5分とか10分おきから30分に1回くらいというふうに少しずつ時間があいていきますが、山鳴り地鳴りがしてグラグラっとくる。これが夜通し続きます。

家の外で寝ないでください。まずは避難所へ

そうすると、外で寝る人たちが出てくるんですね。家の中が怖いから。

で、これ、決してやらないでください。止めてください。なんでかって言うと電柱とかが倒れてくるん可能性があるんですね。電柱とかが斜めになっているようなところで寝てると、いきなり電柱が、音もなく倒れてきて挟まれたら終わりです。

家の中にいて怖いなと思ったら、すぐさま避難所に行ってください。

必ず、外では寝ないでください。何があるか分からないんです。電柱が落っこちてくるかもしれない。もしくは急に車が突っ込んでくる。外で寝てたら車に轢かれるかもしれないんです。ましてや、家の中が怖いって外に出て庭で寝てた時、家が倒壊してきたらどうなります?

外に寝る気もちというのは、経験しないと分からないかもしれません。でも、分かるんですよ、家の中にいるのは怖い。でも家を留守にはしたくない。だから外で寝る。余震も怖いけれど留守にするのも別の意味で怖い。だから家の側で寝る。

でも金と命、どっちが大事だか天秤に載せてはかってみてください。

外で寝るって話は突き詰めると金と命とどっちが大切ですかって話になるんです。当たり前ですが、命はお金で買えるようなものではありません。

火事場泥棒は出ます。それでも一番大切なのは命

それに、お金は少々盗まれたとしても、働いたりいろいろして後からきっと戻ってきます! そういうものなんです。でも、みんな火事場泥棒に遭うんじゃないかと不安になってしまう。

考えてみてください。命をなくしてしまったら、火事場泥棒は大喜びです。主がいない家に喜んで入ってきますよ。命とお金を天秤ではかれば一目瞭然。お金の方が大事だっていう人がいたら、よっぽどだ大した人だと思います。その人は命をお金で買えるくらいなんだなって。

私の自宅も火事場泥棒っていうのに遭っています。いろいろな物持っていかれました。テレビとかパソコン、バイクも持っていかれているんですけど。それでもやはり、命には代えられません。べつにバイクだテレビだパソコンだって、お金を出せば買えるんです。さらに、いままで使って中古になってたものより、いいヤツ買えるんです。生きているからこそ、持っていかれたって後でいいものが買える。

まあね、悪い輩はいるものなんです。それでも一番大切なのは命。これを忘れないことです。繰り返して強調しますが、もう、家にいるのが怖いってなったら、必ず避難所! このことは徹底してください。

避難所へ行くルート

ところで、皆さんにここで質問しますけど、避難所がどこか分かってます? 自分の地域の避難所は分かりますか。分からない人は再度確認してください。

で、避難所へ行くルートっていうのも頭に入れておいた方がいい。一本のルートだけ覚えていて、そのルートが地割れや事故で使えなくなっていたら避難所に辿り着くことができない。だから何本もルートを考えていた方がいい。これも大事なことです。

でね、地震はいつやって来るか分からないんです。これが分かればいくらでも対策はできるんですが、分からないんです。たとえば地元を離れて違う場所に行った先でも地震はやって来ます。もし避難所がどこにあるか分かれば、そこに行ってください。

で、そこでね、離れている家族が心配だから無理くりでも帰ろうって無茶をすると、けっこう危険な目に遭います。大きな地震とかでは最終的に連絡取れなくなるのは仕方がないんです。だけども何とかして地元に帰って家族の安否を確かめようて帰る途中でまた何が起こるか分からないんです。

生きてればね。ある程度時間が経てば通信手段も回復します。それまでじっと我慢。我慢することも大事だと思います。

車に乗ってる時に地震がきたらどうする?

で、ここからはね。地震対策の話です。関東地方の人だったら当たり前のことでしょうけど、福島県ではね、地震の訓練ってないんです。火災訓練というのはあります。山火事訓練とかもある。でも地震訓練はないんです。私の中で記憶にあるのもたった一回です。小学校3年生の時に一回だけやっただけ。だから分からないんです。

で、とくに今日、考えてみてほしいのは車のこと。皆さん車に乗ってますよね。今から私が言うことと実際はけっこう矛盾してたりするんですけど、車の運転中に地震が来たらどうするかってことです。こういう風に言われますね。運転中に地震に遭ったら……

ハンドルをしっかり握って徐々に速度を落としてください、って――。

絶対無理です。ムリムリ。でもなんでできないことを言うかというと、これを心がけてくださいってことなんです。

なぜ無理かと言うと、急ブレーキをかけると、必ず後ろから突っ込まれます。トラックとかが突っ込んできます。実際にこれはありました。私んところの国道でも、地震だっていってワッと急ブレーキ踏んで、そこにトラックが突っ込んでたのがありました。いろんな場所で見てきました。

自分が突っ込む側にだってなるかもしれないんです。「ハンドルをしっかり握って徐々に速度を落とす」。たしかに前に車がなければできますよ。でも前の車が急ブレーキ掛けたらこっちは突っ込むだけ。そういうことになっちゃうんですけど、これは心がけてください。

難しいですけどね。後ろから大型トラックに突っ込まれて来たらおしまいですからね。自分の命、終わっちゃいます。後ろの大型も急ブレーキ踏むだろうけど、重たい車がすぐに止まらないのは当たり前のことで。だから車間距離が大事だよっていうのは、そういうこともあります。

災害時には救急車は来ない

で、災害時に後ろから突っ込まれても、救急車は来ないです。重大事故の場合、死ぬのを待つだけになってしまいます。そういうことも考えた上で、車の運転はよろしくお願いします。

浜松にいるとね、危険だなってこといろいろあります。田舎だと信号のない交差点なんかで、ちょっと頭出すと止まってくれたりするんですが、浜松だとみんなぶーんぶーんって走り過ぎていくだけ。なかなか入れてくれねえなあって言ってたら、そのうち後ろからクラクションを鳴らされる。なんなんだよって感じですね。田舎と都会の違いですかね。普段からなるたけ安全運転を心がけてください。言いたいのはそういうことなんですけどね。

車を置いて逃げる時になぜ車検証を持ち出すか

で、車を置いて避難する時にはキーはつけてドアはロックしないでくださいね。これは前に話した通りです。ここで追加しておきたいのは、車検証とか大切なものは持って行ってくださいねってこと。カギを付けていくのはいいとして、だからって財布とかまで車に置いていく必要はありません。貴重品は持って行きましょうね。

車から逃げる時に持ち出すのが貴重品だけじゃなくて、なんで車検証まで必要なんだってことです。なぜかというと、津波に車を持っていかれてしまうと、ほとんど原形ないです。原形を留めない。ナンバープレートまで引きちぎられてしまう。そんな時に自分の車だって断言できるのは、車に付いてる車体番号っていうものなんです。それってのは車検証に必ず載ってるんです。自分の車かどうかを照らし合わせて確認できます。だからこれも心がけてください。

津波の避難は「より遠く」から「より高く」

緊急の避難は、「遠く」よりも「高く」を優先してください。海のそばに高い山とかあれば、そちらに逃げてください。でも浜松とか磐田とかだと「より高い方へ避難」といっても全然通用しないんです。高い所なんにもないんで。

だからこれで矛盾しちゃうんです。高い所がない時どうするんですかって訊かれたら、遠くに逃げてくださいってなってしまう。伊豆のように海の近くに山があるような場所だったら、この原則は適応できると思うんです。遠くより高く。

車に乗っている時だったら、もう車なんか乗り捨てて諦めてください。先ほど言った通りで、命とお金のどっちが大事ですかって話です。車なんて言うのは後から買えます。そういうことも含めて、車なんてものは乗り捨ててください。

津波避難ビル、津波避難タワーは緊急の場合だけ

で、次は津波避難ビルや津波避難タワーのことです。伊豆の方にも造られていますね。これ、緊急だったら致し方ない。でも、地震の時に「あそこに津波避難タワーがあるから」って言って行かないでください。

で、次は津波避難ビルや津波避難タワーのことです。伊豆の方にも造られていますね。これ、緊急だったら致し方ない。でも、地震の時に「あそこに津波避難タワーがあるから」って言ってわざわざ避難しに行かないでください。

あれは緊急の時に使う物。鉄骨だけで組んだようなあのタワーなんか見てると、あんなので津波を食い止められるかって考えてしまう。流されるのがオチじゃないかと思います。津波の威力を知らないからああいう物を造るのかなと考えざるをえない。我々、津波を目の当たりにして、津波の威力ってのを見せつけられているんで。

高い所が他にないとか、緊急の場合は致し方ありません。ただ、生きるか死ぬかは自分自身の運次第ということになってしまいます。だから、好き好んで逃げる施設ではありません。なるたけ遠い所、高い所、山の上とかを目指してください。

あそこに避難タワーがあるからってみんなが駆け込んだとしても、あそこに登れるのは多寡が知れている。せいぜい100人200人だと思います。そこに500人が集まったら残り300人はただ流されるのをただ見るだけです。苦しいですよ、人が流されていくのを何もできずに見るというのは。一生のトラウマになるでしょう。

自分が後者、タワーに登れない300人の側だったら、ただ流されるのを待つだけということになります。流されるのを待つ時間があったら、山とかを目指しましょう。

津波から逃げるかどうかが生死の境

津波は波が高いのではなく【水のかたまり】です。これを覚えておいてください。

大きい地震があったら、必ず津波が来るって考えてください。そう思ってください。もう迷わず、高い所に行ってください。そして、決して戻らないでください。

今回の津波の被害に遭った人の中には「どんな津波が来るんだろう」って、海に見に行った人がみんな亡くなっています。
(会場に笑い声のようなざわつき。しかし、とくに福島では津波を見に行って巻き込まれた人の話をたくさん聞く。宮城や岩手では、家族を探しに海辺に戻ってという話がきわめて多い)

これっていうのが、実は恐ろしいことに習慣になっていたんです。津波が来ますよって津波警報とか注意報が出る。我々消防団も水門を閉めにとかで集まるんです。やがて津波が到達しましたという連絡も入る。「え、来たの?」って見ても10センチとか。ニュースでやってる津波の高さよりぜんぜん低いんです。ニュースで1メートルって言ってるとき、来るのは10センチ。そういうことが頻発していたんで、10メートルが来ますって言われた時に、

「なんだ、じゃあ1メートルか」

ってことになっちゃうわけです。それを見てみようって人が海に行って、実際に10メートルクラスの津波に呑まれていった。そういうことがあったのです。

大きな地震があったら、とにかく津波が来るものと思って逃げてください。それで津波が来なかったら、「来なくて良かったね」で済むわけです。逆に来るはずねえだろって見にいって来たら、終わりです。

こんな地震で津波なんか来ないよ、っていうような地震であっても「備えあれば憂いなし」って言葉があるように、逃げればいいじゃないの。人から笑われてもいいじゃないの。もしも実際に津波が来たら、逃げずにいたら呑まれて死んでしまってるよ、ってことなんです。

海沿いにいる方は山の方に登ったりして、そしてある程度の時間を山の上で過ごしてください。で、一発行ったからもう終わりってことではないのです。だいたい4発以上くると思って下さい。

ただこれは自分が経験した地震と津波であって、地震なんて同じものがまた来るものではないんで、東海地震だったらどうかは分からないです。東北の震災の時と違って第一波からデカいのが来るかもしれない。

だから大きな地震があったら、津波に備えて高い所を目指してください。山ならできるだけ高くへ。津波避難ビルなら5階以上。それが自分は一番の大事かなと思います。

ハザードマップや避難計画を鵜呑みにしないで!

今日持ってきたこれは浜松市のものなんですが、東日本大震災と同じ規模の地震が発生したと想定した場合、15メートルクラスの津波が来るでしょうと。学者さんが机上の理論で書いた想定です。しかし、自然というのは計算しきれない部分が必ずあります。だから、これを鵜呑みにしないでくださいってことです。このことをいつも強調しています。

もしかしたら20メートルクラスが来るかもしれない。30メートルクラスが来ない保証はない。机上の理論で計算された何メートルとかいうことよりも、大地震があったら大津波が来ると思っておくのが間違いないと思います。

たとえば浜松駅はだいたい海抜5メートルらしいんですね。そこに14メートルクラスが来ると、津波は間違いなく遠州灘から浜松駅まで来るなと自分は思っています。ある人は「大丈夫だよ、国道1号線がちょっと高くなっているから、あそこで止まるよ」と言います。「東海道新幹線の高架で何とかなるよ」と言う人もいます。何とかなるところとならないところってのがあると思うんです。隙間から勢いをつけて津波が噴き出すってところもあるでしょうし。

川を遡ると津波の到達距離は3倍近くになる

津波にはこんな特徴もあります。うちの双葉町の場合、津波はだいたい海岸から2.5キロから3キロくらいだっていうんです。だけどこれ、川だと8キロ先まで逆流しています。川の方が上るんです。

だから、大地震が来た後には、必ず川沿いを歩かないでください。津波が押し寄せて川の水位がいきなり高くなって、それも7キロ8キロ先まで遡るような勢いです。

川沿いには絶対に行かないでください。そのことも皆さん覚えておいていただきたいと思います。

(つづく)


書きおこしと編集●井上良太

 あの日、双葉町であったこと
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