スコアラーに指名される部員【ありがとうマンモス野球部4】

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今からおよそ10年前、僕は西日本にあるA高校の野球部に所属する野球少年でした。全国に数多ある野球部と同じように練習し、同じように甲子園を目指していましたが、少しだけ、他校とは違う特徴がありました。母校は明治時代創部の伝統校、部員数は毎年100人を超すというマンモス野球部だったのです。このシリーズでは、そんな僕のマンモス野球部ライフを紹介していきたいと思います。

スコアラーが必要

男子校に女子マネージャーはいません!

男子校に女子マネージャーはいません!

 120超の部員を抱えていた母校・A高校。こんなチームですから、土日に行われる練習試合は、生徒を分散させて挑みます。その場合、例えば、【1軍】、【2軍A】、【2軍B】・・・、【残留練習】など、その時々に応じて約120人を1~5チームに分けていました。つまり、同じ学校ながら、多いときは最大5チームに分かれ、それぞれの場所で練習試合をしていたのです。

 そうすると、必然的に必要となってくるのが、その試合を記録する記録員。いわゆるスコアラーです。従来、こういった雑務はマネージャーが行うものですが、A高校は大所帯にも関わらず、男子校なうえ、専属マネージャーも入部しません。つまり、部員の中からスコアラーが指名されてしまうのです。それこそ、最大5チームに分かれて試合に行くのであれば、その数だけスコアラーが必要になるのです。

 とは言え、スコアラーは試合の片手間にできるものではありません。スコアブックという野球の記録専用のノートに、専門的な記号を使って分かりやすく、正確に記す必要があるのです。試合に出ない人が記録を付けるため、野球の上手い奴ほど、意外とこういったものが書けなかったりもします。

赤紙が届く

記録はすべてこのスコアブックに記入します。

記録はすべてこのスコアブックに記入します。

 入部して最初の夏合宿の練習中、僕は先輩に呼び止められました。その日はレギュラー組が練習試合、その他大勢が練習という日。しんどい坂道ダッシュの途中に球場に連れて行かれるものですから、「ラッキー!出番かな?」と淡い期待を抱きます。ところが、先輩は僕以外にも同級生を4人捕まえ、クーラーの効いた部屋に座らせました。

 「じゃ、お前らには今日からスコアを覚えてもらうことになったから。」

 「――――!」

記録はすべてこのスコアブックに記入します。

 この日から、僕含めた5人は試合のたびに練習を抜け、スコアを付ける練習をさせられました。身体を動かす練習はたしかにきつくてしんどいものでしたが、スコアを付ける練習なら身体も動かしません。一日を終えたとき、大して疲れていない身体、他の部員と比べて明らかに綺麗なままのユニフォームには、何だか虚しくなってしまいました。

 もちろん、バリバリのレギュラー候補が記録員に選ばれるはずもありません。入部して4か月、早くもレギュラー圏外であることを通告されたようなものです。もっとも僕自身、毎年甲子園まであと少しという強さのチームで4か月もやっていれば、まさか自分がレギュラーになれるなんて一切思っていませんでした。 それでも週末になれば、1軍以外のその他大勢はレベルが高すぎず低すぎずの環境で、楽しく試合に出られるはずだったのです。しかし、改めてスコアラーに指名されたとなると、そんなわずかな楽しみでさえ、極端に減ってしまうのでした。

 「赤紙が届いてしまったな(笑)」

 友達は他人事なだけに辛辣です。

スコアラーの中にも格差があった

ユニフォームを制服に着替えて1軍の仲間入りです!

ユニフォームを制服に着替えて1軍の仲間入りです!

 僕の学年からは合計5人のスコアラーが指名されてしまいましたが、もちろん、スコアラーは各学年にいます。僕らが(スコアラーとして)自立したころ、すでに3年生は引退していましたが、それでも1、2年生合わせてスコアラーは10人ほどいました。もちろんスコアラーの全員が常に記録を付けているわけではなく、スコアラーにも評価基準があり、「ルールを理解している」「字が綺麗」「声が出る」「試合についていける」生徒が、「書け」と言われるのでした。

 ところが、僕は

 「長い野球部の歴史の中でも、お前ほど分かりやすくて綺麗なスコアは見たことが無い!」

と、監督に褒められてしまいました。監督はなんだかとても嬉しそうですが、僕は血の気が引いてしまいました。だって、みんなスコアラーで活躍したいわけではありません。スコアラー仲間にまで、

ユニフォームを制服に着替えて1軍の仲間入りです!

 「ご愁傷様(笑)」

 「見てくれている人はおるんやな(笑)」

 と言われる始末です。

 こうして僕は、試合があればいの一番に記録を付けるように命じられ、ついには1軍メンバーの仲間入りを果たしてしまいました。言わば10人の争い(?)に勝った正スコアラー。野球の実力では決して手の届かない1軍メンバーに選ばれたのです。

 神様は必ずしも自分が望む能力を与えてくれるとは限りません。僕の野球部人生はここで決定づけられてしまいました。

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