プロ入りも夢じゃない男・I君【ありがとうマンモス野球部9】

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今からおよそ10年前、僕は西日本にあるA高校の野球部に所属する野球少年でした。全国に数多ある野球部と同じように練習し、同じように甲子園を目指していましたが、少しだけ、他校とは違う特徴がありました。母校は明治時代創部の伝統校、部員数は毎年100人を超すというマンモス野球部だったのです。このシリーズでは、そんな僕のマンモス野球部ライフを紹介していきたいと思います。

1年生夏からベンチ入り

 120人超の部員が集まるA高校野球部。こんな大所帯ですから、毎年「逸材」と呼ばれる生徒が入部します。ちょうど僕の同級生には、中学時代、硬式野球の「ヤングリーグ」で全国大会準優勝をしたチームの主将で4番というとんでもない逸材がいました。本来、こういった逸材は甲子園常連校に流れていくのが普通ですが、彼は何を思ったのか、毎年甲子園にはあと一歩という我がA高校に進学してきたのです。

 彼はI君と言いました。身長は175cmと普通でしたが、太い腕と引き締まった身体がホームランバッターの資質を感じさせます。もちろん、入部直後から彼一人特別扱いを受け、バッティング練習では100m~110mは飛ばしているであろうホームランを連発しました。

 中学野球で細々と取り組んできた僕なんかは、体格は小柄。ホームランと言えば、小学校4年生時に打ったランニングホームランの1本だけです。ただ、僕の周りで言えば、僕に限らず、柵を越えるような大飛球を放つ奴なんて見たことがありませんでした。「これが甲子園を目指す野球部なのか」と思うと、僕なんかは一気にビビってしまったのです。

 I君は1年生にして夏の大会にベンチ入り。それどころか4番でピッチャーを任されていました。まさに運動能力のカタマリだったのです。

「わんぱく」「やんちゃ」手の抜き方も一流のI君

 I君は性格も豪快な方で、彼を表現する言葉があるとすれば、「わんぱく」「やんちゃ」。野球が取り柄のガキんちょが、そのまま太くたくましくなったような奴でした。特にパワーが凄まじく、打てば大砲、投げれば鉄砲、まさに桁外れという言葉が似合います。

 自主練習も積極的で、僕も「見習わなきゃ」と思ったものですが、彼の場合、練習の好き嫌いが問題でした。自分の得意なバッティング練習は人の何倍も努力する一方で、基礎体力を養うトレーニングは少々苦手なご様子。特に冬場の長距離走など、スタミナ勝負のトレーニングなら僕でも勝てるほどで、こればっかりはどうもパッとしませんでした。

 実はI君に限らず、レギュラーメンバーの多くに言えたことですが、みんな体力面だけは今ひとつなのです。サボりこそしないものの、みんな鮮やかに手を抜いていました。そういったトレーニングで頑張らなくても、レギュラーは不動のものだっただけに、手の抜き方を分かっていたのかもしれません。

 ただ、I君の場合はその手の抜き方すら鮮やかです!特に中距離走ではコーチの視線が向くたびにダッシュを繰り返し、コーチがいなくなればジョギングになっていました。もはやそれは「大掛かりなだるまさんが転んだ」!ここまで徹底していると清々しいなと、逆にうらやましく思ったものです。

ヒーローになり続けた男が戦犯に

 結果から言えば、I君は3年間、A高校の4番に座り続けます。常にその打棒でチームをけん引し、要所では豪快なホームランも放っていました。

 僕はI君と同じクラスでもありました。印象的だったのは入学早々のホームルーム。担任の先生がクラスメートを簡単に紹介する際も「こいつは覚えとけよ、将来プロに行くぞ。」と紹介していました。

 ところが、1年生の秋、事件は起こります。県大会の3位決定戦。これに勝てば春のセンバツ甲子園出場に望みをつなぐという試合でした。延長15回裏、2アウト満塁、母校A高校は一打サヨナラという劇的な場面を迎えていました。そして、最後のバッターがレフト前にヒットを放ちます!これで3塁ランナーがかえってサヨナラ勝ち!僕を含めた大人数の応援団が勝利を確信して湧きました!

 ・・・が、3塁ランナーのI君は、勝利が決定的と思われた場面で安心しきったのか、ゆったりした走塁。一方レフトからは矢のような送球がキャッチャーに送られました!なんとこれがアウト!I君がちゃんと走っていれば100%勝利という場面、まさかの無得点に終わってしまったのです。この日はそこでゲームセットの引き分け。翌日の再試合では前日の熱戦が嘘のように消沈してあっさりと負け、甲子園への希望を逃してしまったのです。怠慢プレーが生んだ悲劇でしたが、当のI君が一番泣きじゃくっていたのが印象的でした。

キャプテンに指名され、アマチュア野球雑誌に載る

 それでも主力選手としてチームを支えてきたI君は、最上級生になると同時にキャプテンに指名されました。「やんちゃ」で好き嫌いが激しい彼に責任を背負わせることで、選手として一皮剥ける期待を込めていたのかもしれません。

 その指名に効果があったのかどうかはわかりませんが、I君は輪をかけて打ち始め、ある日の試合では他県の甲子園出場校を相手に4打席連続ホームランをやってのけました!スコアラーだった僕としても、長らく記録を付けてきた中で一番印象に残っている試合です。元々有名だったI君をさらに有名にさせた試合でした。

 そうすると、どこから誰が見ていたのかわかりませんが、アマチュア野球雑誌のプロ候補リストに名前が載るようになりました。その雑誌は季刊誌でしたが、毎度名前が載るだけに、僕らの中でも「実はこの前某プロ野球チームがIをスカウトに来たらしい」「この試合はスカウトが見に来ている」などと憶測が飛び交うようになりました。

しかし、プロには及ばず・・・

 ところが、陰で散々騒いでおきながら、進学先の大学で伸び悩んだI君は、プロになれることなく野球から足を洗いました。大学以降のことはよくわかりませんが、大学でも主戦として活躍し、副主将という役割も担っていたようです。僕が初めて埋めようのないレベルの違いを感じただけに、プロになれなかったという結果には今でも少々残念に思っていたりします。

 その一方、A高校時代を無名のまま終えた同級生のK君が、大学、社会人を経て現在プロ野球の某チームで活躍しています。僕自身、中学時代はK君が所属する中学に勝ち、地区大会で優勝した経験があるほどで、その当時はそれほど力の差を感じなかったと思います。A高校でも、K君はレギュラーメンバーとしては地味な存在でしたが、練習で言えば、I君やその他の部員と違い、片時も手を抜くことがなかったのが印象的でした。こうしていつの間にか力を付け、今やプロ野球選手です。案外、プロに進むのはK君のようなタイプだったのかも知れません。

 ただ、僕がA高校に入って感動したのは、I君の人並み外れたバッティングやその豪快な性格でした。大人になった今もなお、高校野球では彼のような選手を密かに応援しています。

 ~【ありがとうマンモス野球部】 全エピソード・リンク集~
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