スコアラーを務める部員【ありがとうマンモス野球部5】

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今からおよそ10年前、僕は西日本にあるA高校の野球部に所属する野球少年でした。全国に数多ある野球部と同じように練習し、同じように甲子園を目指していましたが、少しだけ、他校とは違う特徴がありました。母校は明治時代創部の伝統校、部員数は毎年100人を超すというマンモス野球部だったのです。このシリーズでは、そんな僕のマンモス野球部ライフを紹介していきたいと思います。

マンモス野球部の練習試合

 120人超の部員を抱えていたA高校。多ければチームを5つにも分け、それぞれの場所で練習試合をしていましたが、そう毎度毎度5つ分の試合相手が見つかることはありません。平均すれば3チームに分けることがもっとも多く、少ないときは1チーム、つまり、120超の部員全員で練習試合に臨むこともありました。

 そういった試合の場合、最初は1軍のレギュラーメンバーが出場することがほとんど。もちろん記録は1軍でスコアラーを務めている僕が行いました。

 A高校は、毎年甲子園にあと少しというレベルの学校です。そのレギュラーメンバーが試合に出れば、だいたいの高校には負けることはありません。

 そうなると、試合が5回を終えるころには、大差をつけて勝っている場合が多いのです。勝利が決定的になると、レギュラーメンバーはお役御免。ついにレギュラー外のメンバーにも出番が回ってくるのです!そして、スコアラーにとっては一番忙しい時間がやってきます。

1試合で40人超が出場することも

 大量リードにご機嫌な監督は、「全員野球!」と騒ぎ出してノリノリです。派手な時はレギュラー全員に代打を送って交代させ、補欠にも出番を与えます。部員が多い野球部ほど、補欠も2軍も一体なんだと主張するために「全員野球!」を合言葉にしがちですが、A高校の監督は本当に全員野球を体現しようとする人でした。

 そのまま「レギュラー>1軍補欠>1軍候補>それ以外」と選手を交代していき、相手校が互角に戦えるメンバーまでレベルを落とします。大所帯の野球部ですから、2軍レベルの選手でも、そこそこの実力者です。相手校が弱ければ、さらに点差が広がることもしばしばありました。

 そうこうしているうちに、上級生の全員が試合に出ることもザラにあるのです。数で言えば40人以上にのぼりました。公式戦であれば、最大で18人までしか出場できませんが、練習試合は無制限。酷い時はスコアブックに用意されたマスだけでは足りないこともあったほどです。

出場して結果を残す!その間1分

 とある日の試合。次から次へと選手交代が行われるなか、監督はついに僕の方に顔を向けます。

 「よし、お前もバット振ってこい!」

 試合開始から1時間。野球というスポーツの中で筆記用具を握りしめていた僕にもついに出番がやってきました。

 気分はまさに、キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

 高校でこそレギュラー圏外の僕だって、中学野球ではレギュラーとして地区大会で優勝した経験とプライドもあるんです。ここで気合が入らないわけがありません。

 突然の代打。満足に素振りをする間もなく、打席に立ちます。それでも、久々の打席にワクワクするもんです。ピッチャー、振りかぶって・・・投げた!

―――――初球・・・!

 打球は鋭くショートの頭を越え、3塁ランナーが帰りました!1点追加!僕は久々の出番で結果を残しました!

 「ナイスバッティング!」

 「よおし!よくやった!」

 仲間や監督からも声援が飛びます。やっぱり野球は試合に出てナンボです。この瞬間がたまりません。・・・と、チームメイトが僕の方へやってきます。

 「ナイスバッティング!お疲れ!代走や!」

 イケイケの監督はヒットを打った僕に代え、新たなランナーを送り出していました。僕がベンチに戻ると、スコアラー用の机が、席を空けて僕を待っています。この間、実に1分!まさか自分のヒットを自分で記録するとは思ってもいませんでした。

 代打を告げられる → 初球をヒット → すぐに代走 → ふたたび机へ → この間1分

 実はこの経験、4度もあります。途中からは最短記録を目指して初球打ちを意識している自分がいました。

相手校の女子マネージャーのフォローをするスコアラー

もはやスコアブックもワケがわからないことに。。

もはやスコアブックもワケがわからないことに。。

 ご覧の通り、こんな試合をすべて記録するスコアラーの僕は悲惨です。監督は思いつき次第、選手を交代していくものですから、戦略も何もありません。試合を記録する立場からすると、選手が代われば代わるほど作業量だけが増えていきます。

 選手の交代は、その都度審判に告げに行かなくてはなりません。これもスコアラーである僕の仕事でした。正直、「それくらい、手の空いている他の部員にやらせろよ。」と思うのですが、監督をはじめ、部員も次から次へと代わっていく選手をいちいち覚えていないのです。つまり、記録をつけている僕の情報だけが頼り!それなら「選手交代を審判に告げる」という作業も、僕がやった方が速いのです。

 本来、練習試合における選手交代の情報は、「まず審判に告げ、選手交代を認めた審判が相手校に伝える」というのが普通です。ところが審判だって、口頭で何人もの選手交代を覚えられるわけがありません。ですので、そのまま相手校のベンチに伝えに行くのも僕の役目になります。

 するとまず間違いなく、相手校のベンチでは混乱が生じています。次から次へと選手交代をする我がA高校に対し、相手校の記録員がついていけないのです。僕は相手校の記録員にまで、懇切丁寧に教えます。自分で言うのもなんですが、こんなスコアラー、他に見たことがありません。

 この怒涛の選手交代劇が終わると、仲間から

 「あの子どう?可愛かった?」

 とかよく聞かれました。A高校は男子校ですが、相手校のスコアラーは女子マネージャーが務めていることが多く、青臭い男子校生にとっては、女子を見るのも貴重な機会。スコアラーの僕は、そんな女子マネージャーとわずかなやりとりを行うワケですから、やはり気になるのでしょうか。

 しかし、そんなことに注目している余裕なんて、スコアラーにはありません!

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