ボランティアに駆り出される部員たち【ありがとうマンモス野球部7】

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今からおよそ10年前、僕は西日本にあるA高校の野球部に所属する野球少年でした。全国に数多ある野球部と同じように練習し、同じように甲子園を目指していましたが、少しだけ、他校とは違う特徴がありました。母校は明治時代創部の伝統校、部員数は毎年100人を超すというマンモス野球部だったのです。このシリーズでは、そんな僕のマンモス野球部ライフを紹介していきたいと思います。

審判講習会のモデルチームになるA高校

 120名超と部員が多いA高校野球部では、練習や練習試合の機会に多く恵まれるのは1軍メンバーや上級生のみ。それ以外のメンバーが練習や練習試合に出場する機会は、比較的少なかったと言わざるをえません。そんなメンバーには、時折変わった仕事が舞い降りてきます。僕も入部したての頃はそういった仕事を命じられたことがあり、考えようによれば少しオイシイ思いをすることもありました。

 特に印象的だったのは、各都道府県の高校野球連盟主催の審判講習会。これは、来たる甲子園予選に向け、審判が技術やルールを確認する、言わば審判向けの勉強会でした。

 県内には沢山の学校にも関わらず、何故か毎度この講習会のモデルチームになる我がA高校。部内からは20数名が球場へ派遣され、審判の指示通りに、試合に即したプレーさせられました。

「プロと同じグラウンドで土にまみれた」!

 この講習会の素晴らしいところは、講習会の会場がプロも使用する球場だった点です。我がA高校のレギュラーメンバーともなれば、プロが使用するような球場だったとしても、別段珍しいことはないでしょう。しかし僕らのように、レギュラーメンバーへは箸にも棒にもかからない連中からすれば、プロも使用するような球場で野球ができるなんて大事件です!

 派遣された日、僕らはなるべく身体に土が付くような(無駄に)激しいプレーを心がけました。そうすることで、「プロと同じグラウンドで土にまみれた」というささやかな栄光を手に入れたかったのかも知れません。僕で言えば、スパイクやベルトに溜まった土は大切にとっておき、こっそり学校のロッカーに飾っていました。

鬼気迫る大会前、あまり関係の無い下級生

 夏の甲子園予選が近づくと、我がA高校もいよいよ緊張感が高まっていきます。毎年、ベスト4~8で涙を飲むA高校ですから、この時期ともなると、甲子園常連校やその年の有力校とも積極的に練習試合を組むようになるのです。また、チームを背負うレギュラー陣からは責任感が、1軍当落線上の部員からは並々ならぬ熱意が、ひしひしと伝わってくるのです。

 さて、そんな鬼気迫る夏の大会前ですが、レギュラーとはあまり関係の無い下級生は、なおのこと暇を持て余します。下級生にできることと言えば、相変わらずグラウンド外のランニングや季節外れの筋トレ、また、大会で使う応援歌の練習など、野球以外のことばかりです。

 そんなとき、僕含め6人ほど、顧問に呼ばれました。

 「君たちは明日から●●球場に行って、大会役員の手伝いをして下さい。」

大会運営補佐のお仕事とは!

 夏の甲子園予選は7月、3~4週間にわたって県内各地の球場にて行われます。例えば、チケットの販売は誰が行うのでしょうか。試合後の校旗掲揚は誰が行うのでしょうか。閉場後のゴミ拾いは誰が行うのでしょうか。アルバイト?いえいえ、それが各高校から派遣される大会運営補佐の仕事でした。

 大会運営補佐の朝は早いです。夏の予選大会は多い日で1日3試合もあります。第1試合の2時間前から球場入りしなくてはなりません。僕らは学校の制服を着こなし、朝は7時30分入り、夕方は第3試合終了まで。その球場が使用される日はがっつり働きました。もちろん部内の練習も、仕事の日は休みです。

 挙句の果てには、母校が別の球場で試合をしているのにもかかわらず、僕らは大会運営補佐の仕事で●●球場行くという、残念な日もありました!幸い、母校は勝ちましたが、これで負けていたら、先輩たちの最後の姿を見ることなく、新チームに切り替わるという気持ち悪い状況になっていたかも知れません。

でもちょっと美味しかった

 しかし、そう悪いことばかりでもなかったのがこの仕事です。なにせ、ずっと仕事詰めというわけでもなく、仕事は「チケット販売」「入場管理」「試合記録」「休憩」のローテーション。それほど忙しくも無く、休憩時間はクーラーの効いた部屋でゆっくりできました。練習にならない練習に参加するくらいなら、割り切ってこの環境を楽しむのもアリと言えばアリでした。

 また、夏の予選大会は多くの人が観戦に駆けつけます。なかには高校野球マニアみたいな女子高生がいて、ヒマそうにしている僕らに声を掛けてくるのです。男子校の僕らからすれば、女の子と喋るだけでも貴重な機会でした。とは言え、公の場で仕事を命じられた野球部員が、仕事もそこそこに女の子と喋るなんてことはできません。いちいち喋りかけてくる女の子をなんとかあしらいつつ、「仕事だから」とマジメに振る舞うのですが、なんだかモテていると勘違いできて、それはそれで楽しかったです(笑)。



 そうして、合計7日間の勤務が終わりました。野球部員が野球もせず、大会の運営補佐をさせられたワケで、なんだか「都合よく扱われているなぁ」という気持ちも正直ありました。

 最後の片づけを終え、大会役員に「ありがとうございました!」と頭を下げます。すると、突然封筒を渡されました。開けてみると、なんと21,000円!聞かされていませんでしたが、なんと報酬があったのです!月数千円のお小遣いで生活する僕にとって、21,000円なんてそりゃあもう大金です!

 「・・・まぁ、悪くないね!」

 僕らはその帰り、そのお金でジュースを買って乾杯しました。

 ~【ありがとうマンモス野球部】 全エピソード・リンク集~
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