3月11日、陸前高田市の栃ヶ沢公園に灯された「3.11夢あかり」。Tちゃんは灯籠づくりのイベントには参加できなかったが、自宅でつくった灯籠のあかりを芝生の広場に灯した。
ひまわりは亡くなったご主人が大好きだった花。
細かいところまでていねいに、心をこめて彫り上げた。
アンパンマンはひ孫っこが大好きなキャラクター。
「アンパンマンの顔を見てると、ひ孫っこがガンバレーって言ってくれてるように思えるのよね。ハートマークは大バッパの気持ち。いいでしょ」
もう1面に描かれた桜の花は、「だって日本人ですもの」
最後の1面には「絆」の文字と「ガンバロー」
「これはね、これからも団地の仲間たちと一緒に頑張っていこうって気持ち。『ロ』の字がちょっと不思議な感じになっちゃったけどね」
「ガンバレー」はひ孫っこからの応援の声。「ガンバロー」は自分自身と仲間たちへのエール。
いい話だなあと思った。しばらく灯籠のあかりを眺めた後、Tちゃんと、Tちゃんの友だちのMちゃんたちと一緒に、エレベーターで団地の最上階に上がって、空の上から灯りを眺めたら、それがまたよかった。無数の灯りが星のように輝いていた。
日が暮れて風が冷たかった。Tちゃんは「お茶っこしていこう」と自宅に誘ってくれた。Mちゃんたちと一緒にお邪魔した。
灯りがきれいだったこと、団地でのイベントのこと、笑い話に趣味の手芸の話。3月11日の夜をTちゃんの部屋でおしゃべりして過ごした。
楽しい話が多かった。お茶もお菓子も漬け物もおいしかった。これからのこともいろいろ話した。
話が盛り上がり過ぎて、灯りをもう一度見てみようよと、団地の通路に出てみたときには夢あかりはもう終わっていた。暗くなった芝生の広場に向かって「きれいだったよね」とTちゃんは言った。
Tちゃん家をお暇した後、Tちゃんの言葉が胸の中でリフレインした。「こうやって楽しくしているときにはいいんだけど、今日だってきっとそうよ、みんなが帰ってしまって一人になると、ズーンと寂しくなっちゃうのよね」
その言葉は何度も繰り返し聞こえてきた。下りエレベーターの白々しい照明の中で。
最上階から眺めた灯りは無数の星のようだった。だが、ひとつひとつの灯りは決して「無数のもの」なんかではない。ひとつひとつが誰かが灯したあかり。
3月11日に灯されたあかりは、だから、希望のあかり。
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