岩泉町の台風10号水害被災地、小本川に面した中里の田んぼには、とても田んぼとは思えない土地が広がる。洪水で流入した土砂が堆積して田んぼを埋め尽くし、水害から8カ月の時間の末に大きなひび割れをつくっているのだ。
それでも川から少し離れた場所には、田んぼだった頃の土がまばらに残る。黒くてとてもいい土だったに違いない。そして土の上には倒れたイネ。実をつけたまま倒れ、枯れていったイネ。
水害が発生したのは8月31日。イネはすでに実をつけ収獲の時を待っている段階だった。比較的被害が軽い田んぼ(といってもイネはすべて倒れ、枯死していた)には、スズメやカラス除けの反射テープが残っているところもあった。収獲は目前だった。
枯れたイネが残された場所も、その多くが土砂に埋もれていた。逆に表土がえぐられてしまったように見えるところもあった。そして、イネの残っていない場所はすべてひび割れ。
とても耕作できる状態ではない。
現地で聞いたボランティアさんは、とても個人の手で復旧できるような状況ではないから、いずれは農地復旧の公共工事も始まるのではないかと話していた。いずれ工事が入るだろうということは、今年は稲作できないということだ。
岩泉に支援に入った方にこんな話を教えてもらった。中里の集落の中には、少し高台にあって水害の被害を受けなかった田んぼもあるらしいの。そこは田んぼもできるんだけれど、集落の人たちがみんなこんな状態なんだから、自分ちだけではできないといって、今年は田んぼをやらないんだって。そう言うと彼女は深く深く息を吐いた。
水害さえなければ、収獲されたイネが掛けられていただろう稲木の残骸に風が鳴る。
洪水に襲われた土地に残るイネの嘆きが聞こえる。手塩にかけて育ててきた人たちの土まみれの手が目に浮かぶ。
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