2016年のクリスマスに寄せて

iRyota25

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ごく内輪で開いたクリスマス会に、こんな一品が登場した。

赤や緑のクリスマスカラーが映えるこの料理は柿なます。岩手県産の赤かぶに宮城県産の雪菜の緑、そして柿酢の柿は福島県産。

ぱっと見た目はクリスマスらしい色鮮やかな料理に見えるが、実は地元の食材を使った普段ながらの一皿だ。他には阿武隈川の恵みでもある亘理町名産のホッキを使ったホッキ飯(こちらもホッキ貝の赤がクリスマスっぽい雰囲気を盛り上げてはくれたが)、ケーキの代わりは前の日のサンマチで買ってきたクレープ。クリスマス会そのものもどちらかというと地味目な、ちょっとした忘年会みたいな会だった。

ぼそぼそっと地味なクリスマスで話題に上った話をいくつか紹介する。

福島や宮城、岩手での最近の出来事などの情報交換もさることながら、車移動が多いことからラジオから流れていたクリスマスソングの話になった。

毎年のことながらワム!の「ラストクリスマス」がやたら掛かっていたこと。(そんな話をした翌日にジョージ・マイケル死去のニュース。ご冥福をお祈りします)

クリスマスソングではどんなのが好きかという話。

そんな中で、FM岩手の夕方の番組Posh! (ポッシュ)月曜日で、MCの阿部沙織が「遥かなるクリスマス」(さだまさし)をフルコーラスで掛けたこと。さらにリスナーからの「8歳の子がラジオにしがみついて最後まで聞いていた」メッセージが話題に上った。

さだまさしの「遥かなるクリスマス」は、にぎやかな町にあふれるクリスマスを祝う人たちの様子から、クリスマスに感じる「ずれ」へと踏み込んでいく歌。

僕はぬくぬくと君への愛だけで
本当は十分なんだけど
メリークリスマス
本当は気づいている今この時も
誰かがどこかで静かに命を奪われている

『遥かなるクリスマス』歌:さだまさし 作詞:さだまさし 作曲:さだまさし

ラスト近くの歌詞が突き刺さる。

僕は胸に抱えた小さな君への贈り物について
深く深く考えている
メリークリスマス
僕は君の子供を戦場へ送るために
この贈り物を抱えているのだろうか
メリークリスマス

『遥かなるクリスマス』歌:さだまさし 作詞:さだまさし 作曲:さだまさし

クリスマスソングではないけれど、SEKAI NO OWARIの「Hey Ho」の歌詞の話もあった。

そしてエーリヒ・ケストナーの児童文学「飛ぶ教室」の話題も出た。

空を飛んで実地で地理の授業をするというアイデアにとても惹かれながら、前書きを読んだだけでその先を読むのを止めてしまったという話をわたしはした。

前書きだけで読むのをやめたのは、つまらなかったからではなくて、前書きを読んだだけでそこにすべてが凝縮されているように思ったからだ。そこから先の物語は、読者である1人ひとりがつくり出していくものだと思ったからだ。「飛ぶ教室」の前書きにはこんな文章がある。

しかたがないので、ある作家から贈られた子どもむけの本を読み始めた。けれど、すぐに放り出してしまった。腹が立ったからだ。なぜかと言うと、この人は、この本を読む子どもたちに、子どもというものはのべつまくなしに楽しくて、どうしていいかわからないくらいしあわせなのだと信じ込ませようとしていたからだ。このうそつきの作家は、子ども時代はとびっきり上等のケーキみたいなものだと言おうとしていたのだ。

エーリヒ・ケストナー「飛ぶ教室」池田香代子訳 岩波少年文庫

「前書き」は不幸なジョニーの物語を紹介した後、こう続く。

みんなに人生を深刻に考えてほしいと思っているからではない。そんなことは、ぜったいにない! みんなを不安がらせようと思っているのではないんだ。ちがうんだ。みんなには、できるだけしあわせになってほしい。ちいさなおなかが痛くなるほど、笑ってほしい。

ただ、ごまかさないでほしい、そして、ごまかされないでほしいのだ。不運はしっかり目をひらいて見つめることを、学んでほしい。うまくいかないことがあっても、おたおたしないでほしい。しくじっても、しゅんとならないでほしい。へこたれないでくれ! くじけない心をもってくれ!

エーリヒ・ケストナー「飛ぶ教室」池田香代子訳 岩波少年文庫

ナチスドイツが台頭する時代に書かれた子どもむけの小説は、その前書きの部分で「勇気」と「かしこさ」について書き上げていた。これは100年近くも前の物語であると同時に、わたしたちの物語でもある。そして被災した町で少年時代を過ごしている子どもたちにとっては、ひときわ大切な意味を持っている言葉だと思う。

そんなことを力説したりした。本編はいまだに読んでいないくせに。

ぼそぼそっと地味なクリスマス会がおひらきになって、その帰り道、気の早い連中は初詣の作法について話し始めていた。鈴を鳴らすのとお賽銭を入れるのはどちらが先だろうか?

そんなちょっとした疑問の話から、神社でお祈りする内容はいつも同じことだって話になり、神様に何をお願いしているのかの探り合いみたいなことにもなった。東北で長く活動している人のお願いごとは、「被災した人たちがどうか幸せになりますように」ということではないらしい。といって、自分のこととか、お金持ちになりますようになんてことでもない。お互いに最後まで聞き出すことはしなかったが、どうやらその人の願いごとはこういうことらしい。

「どうか世界が平和でありますように」

照れくさいけれど、すべてはそこにたどり着く。ぼそぼそと地味なクリスマス会ではあったが、いいクリスマス会だった。メリークリスマス。ほんの少しだけでもいいから、世界中の人たちがちょっとずついい方に向かいますように。メリークリスマス。それができるのは、私たち1人ひとりなのだということをけっして忘れないように。

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