【後退する情報公開】トラブル発生時の発表基準変更(2016年2月)

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10月に発表された東京電力福島第一原子力発電所での事故・トラブル等に関する「通報基準・公表方法」が改定された。

 福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日
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今回更新した「通報基準・公表方法」は、2016年2月2日より、運用を開始いたします。

○主な更新箇所は以下の通りです。
<廃炉作業の進捗に伴う新たな項目の追加>
・雑固体廃棄物焼却設備を追加

<その他>
・側溝放射線モニタ警報発生時の基準の一部変更
・その他項目の記載の適性化 など

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日

更新箇所の対照表は今回も非常にサイズが大きいので、変更箇所を赤字表記した右側を200%拡大して引用したものを引用する。(それでも文字が小さくて読みにくいので以下に赤字部分を抜粋)

汚染水処理設備の基準変更は「大きな後退」

現時点での最大の懸念事項のひとつ、汚染水を処理する水処理設備の範疇が訂正、下記の設備が通報・公表の対象に追加された。

多核種除去設備(既設/増設/高性能)

モバイル型ストロンチウム除去装置(第二含む)

雨水処理設備

モバイル式処理装置

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日

前回更新された10月時点で、すでに以前から稼働していた設備が対象から外れていたわけだから、この追加は妥当だろう。

トラブル・事故等の分類が変更された。変更箇所を【】で括って引用する。

水処理各設備【/淡水化装置/】多核種除去設備【を不具合対応のために全系統】停止した場合(誤操作含む)

【モバイル型ストロンチウム除去装置/RO濃縮水処理設備/雨水処理設備/モバイル式処理装置が設備の異常やトラブル等により、運用停止期間が長期に至る場合、及び長期に至る可能性がある場合】

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日

従来は「水処理各設備または多核種除去設備(ALPS)が計画外に停止した場合(誤操作含む)」とされていたが、設備対象に淡水化装置を加えた一方、通報・公表の基準は全系統停止した場合に限定された。多核種除去設備のように、複数の系統がある施設・装置では、これまでA系統、B系統など一部の系統でトラブルが発生した際にも発表が行われてきたが、今後は全系統がストップしない限り、トラブルを知り得ない状況になるおそれがある。

また、「系統の運転停止が必要となる機器の故障(試運転中のトラブルおよび本体機器以外の故障を含む」だった基準も、「運用停止期間が長期に至る場合、及び長期に至る可能性がある場合」に基準が緩められている。

通報のタイミングでも基準は緩和されている。

(更新前)
●発生確認後30分以内を目安に通報

(更新後)
●運用停止期間が長期に至るもの(可能性含む)と判断した時点
●復旧時

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日

これまでトラブルが発生すれば30分以内に通報していたものが、今後は設備や機器が停止し、なおかつ停止期間が長期に至るかその可能性があると判断されなければ通報は行われないことになる。

長期に至るかどうかの判断は誰が行うのか? もちろん東京電力だろう。看過することができないのは、通報・発表の基準が発生した事実ではなく、人間の判断に委ねられるということだ。汚染水の処理がある程度進み、水処理施設の重要度が相対的に下がっているという事情もあるかもしれない。しかし、建屋内の滞留水をゼロに近づけていく過程や、地下水ドレンからの汚染された地下水がタンク群へ直送される現状下で、汚染水処理設備の安全確実な運用の重要性は変わらない。ましてや東京電力福島第一原子力発電所は、いったトラブルが発生すれば国民や環境に大きな影響を及ぼす恐れがある危険な施設である。そのような施設で、トラブル対応が緩められることなどあってはならない。もちろん、今回の基準緩和は情報公開の原則に逆行するものだ。

これらは極めて重大な後退と言わざるをえない。

「C排水路モニタの欠測」「雑固体廃棄物焼却設備」の新規項目は妥当

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日
福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成28年2月1日

C排水路下流の側溝に設置されている放射線モニタに関する通報・公表基準に「故障による欠測」が追加された。通報基準や発表方法も妥当と考えられる。また、来月からの稼働が計画されている雑固体廃棄物焼却設備については、通報・公表の基準が全面的に追加された。こちらの内容も妥当と思われる。

懸念されるのは、一旦は妥当性ある基準を設けながらも、運用の過程で徐々に基準を緩和していくかのような動きが今回見られたことだ。問題は基準そのものの後退ばかりではない。基準変更を告知する発表資料からして、疑義を挟まざるをえない。

通報・公表の判断は誰に委ねるべきなのか

もう一度、今回発表された資料の表紙ページを確認してみよう。主な更新箇所として掲げられているのは「雑固体廃棄物焼却設備の追加」だ。その他として 「側溝放射線モニタ警報発生時の基準の一部変更」も明示されているが、汚染水処理設備に関する変更点は「その他項目の記載の適性化」という扱いだ。

長い廃炉への取り組みの中で、情報公開は欠かせない。「適時・適切な情報公開」ではなく、発生した事象はすべて公表するという基本姿勢で取り組んでほしい。適時か適切かといった判断が人類に危害を及ぼすような過酷事故を起こした当事者ではなく、第三者に委ねられるべきなのは論をまたない。

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