2015年10月6日から、東京電力の事故原発(福島第一原子力発電所)でのトラブル等の「通報基準・公表方法」が更新された。この更新は、これまでも数次にわたって実施された更新とは異なり、トラブルに関する情報発信基準の「変更」ではないかとの懸念を表明してきたが、「更新」から10日、実際の東京電力の情報発信はどう変わったのか。東京電力が日々発表している「日報」の内容から検証する。
印象では語れないものの
現在の国民、そして将来の国民に重大な影響を及ぼす事故原発の廃炉。その重大事について企業が公式に発表しているものについて、印象で語ることが必ずしも適切ではないことを承知の上でいうならば、情報公開の後退は否めない、との印象を受ける。
本日10月15日付け午後3時現在として発表された「日報」の内容だけをピックアップしたページを作成してみた。東京電力は日報の冒頭に「※下線部が新規事項」との注釈を付して、われわれ一般が通読しただけでも、その日の特異事項が分かりやすいよう考慮してくれた発表をこれまで行なってきた。ぽたるページの場でまとめてきた「今日の東電プレスリリース」は、この東京電力による「新規事項」を中心にピックアップすることで、将来、過去の出来事を振り返った時に、関連する事項の変化がいつ起きていたのかを確認することを主眼にまとめてきた。それだけで足りない情報は適宜、東京電力などが公表する他の情報からも拾ってきたがベースとしてきたのは東京電力の日々の日報だった。
「日報」だけで構成した「今日の東電プレスリリース」がどうなるか、ぜひ見ていただきたい。
新規事項、つまり、前日までとの変化を示す項目として公開されているのが、「サブドレン・地下水ドレンの海洋排水」「地下水バイパスの海洋排水」くらいしかないことが分かる。
ずらずらと書かれた記事では分かりにくいかもしれないので、「今日の東電プレスリリース」の変化を検索するためのまとめページ【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」のページをキャプチャ画像で紹介すると、「新規事項(つまり前日からの変化として報告された内容)」が明らかに少なくなっているのが分かるだろう。
「ここがポイント」としてまとめた行数が多ければ、特記すべき変更点やトラブルが発生していて、少なければ変更・トラブル等も少ないという目星にはなるかもしれない。しかしもちろん、このまとめページの記載方法次第で、行数は変動しうる。しかし、それでも10月6日以降に新規事項として発表された項目は不自然なほど少ない。(初日の10月6日だけは例外だが)
たとえるなら、8月のお盆シーズン、東電社員も関連企業作業員も多くが帰省し、事故原発での作業量が少なくなっていた時期、いわば特異的な期間に匹敵するほどの少なさなのである。
以下の画像は今年のお盆時期の「ここがポイント」からキャプチャ。
ようするにスカスカなのである。東京電力は、10月5日に発表した「通報基準・公表方法」の更新の目的として「福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する迅速・的確な情報発信」を掲げたが、能書きに掲げられた目的が果たされているかどうかには大きな疑問符が付く。とはいえ印象だけでは語れないので、具体的な懸念をいくつか示したい。
1号機タービン建屋地下からの高濃度滞留水移送は?
2号機、3号機のタービン建屋地下に溜まった高濃度滞留水の処理施設への移送は、水位調整(建屋地下の滞留水の水位が建屋周辺の地下水位を上回ると汚染水が地下水に流れ出るため。9月以降実施されているサブドレンからの海洋排水について、きわめてクリティカルな問題である)のため頻繁に運転・停止が繰り返されてきたが、1号機に関しては数日から1週間程度の頻度で、同じ1号機に付随する廃棄物処理建屋への移送が6時間程度行なわれるのが常だった。
ところが、10月6日に「通報基準・公表方法」が変更されて以来、一度も1号機タービン建屋地下からの高濃度汚染滞留水の移送についての発表がない。
移送が行なわれたのか、行なわれていないのか、さらに言うなら、建屋の外の地下水位との差が移送を不可避とする状況だったのかどうかすら、まったく分からない状況が続いている。
汚染水の「出元」である建屋地下の滞留水移送が実施されているかどうかが分からなければ、1日に1回分の測定結果が発表されるだけの滞留水の水位情報だけで、サブドレン計画の安全な運用が確認できるとは思えない。
【注目点】もっとも建屋地下の滞留水の移送実績の公表だけでは、サブドレンと地下水位の管理が適切に行われているかどうかは判断できない。よって、地下水バイパスよりもはるかにリスキーなサブドレン・地下水ドレン計画の実施に当たっては、従来以上にシビアな基準に基づく情報公開が行われてしかるべきだったと考えるが、現実は逆行と言わざるを得ない状況である。
同様に、10月6日以降、情報が更新されていないものとして、水処理設備および貯蔵設備のうち「セシウム吸着装置」の運転の有無が挙げられる。原発事故後にいち早く装填された海外製の処理装置ではあったが、東芝製の第二セシウム吸着装置(サリー)が実用化されてからは、その補完的な運用が行なわれており、頻繁に運転/停止が繰り返されてきたのだが、通報基準・公表方法が変更されてから10日になるが、さらに遡って10月2日に運転再開されて以来、ずっと「運転中」のままとなっている。
ひとつには、陸側遮水壁の凍結が上手くいって、建屋近くの地下水位が低下したので、それに合わせて建屋地下の高濃度汚染水の汲み上げならびに処理が忙しくなっているというシーンも想定される。(だとすれば、廃炉に向けての行程としては非常に好ましい状況が生まれているこということになる)
しかし、そんな情報はないのである。新規事項としての情報がないということは、そこで何が起きているのかが分からないということに等しい。
ここまで、1号機タービン建屋滞留水と、セシウム吸着装置を取り上げたが、細かな不都合はその他にも少なからず生じているので、追記していきたい。
※内容を追加して更新します
最終更新: