9月9日に行った「サブドレン他水処理施設の排水開始は9月14日の予定」との発表どおり、今週月曜日、9月14日から建屋周辺のサブドレンのうち、山側から汲み上げられた井戸水を処理した水の港湾内への排水が始まった。
どうしても進めたかった計画
サブドレン他水処理施設と呼ばれる仕組みは、東京電力にとって汚染水を減らすための極めて有効手段とされてきた。その理由はこうだ。原子炉建屋やタービン建屋などの建屋内部は放射性物質で汚染されている。そこに毎日400トンもの地下水が流れ込み、新たな「汚染水」になっていた。そこで東京電力は、流れこむ地下水を減らすため、高台に掘った井戸から地下水を海に流す「地下水バイパス」を昨年以来これまでに約80回実施してきた。しかし建屋から離れた井戸からの汲み上げなので効果は薄く、今日でも建屋内には毎日300トンの地下水が流入している。それならば、もっと建屋の近くから汲み上げて海に流そう。そうすれば、汚染水が毎日増えていくのを抑えられるのではないか。しかし建屋周辺の地下水には汚染が流入するリスクが大きいので、処理した上で港湾内に排出しようと計画したわけだ。
汚染水を減らさなければ、原発構内のタンクをどんどん増設していかなければならないが、場所はすでに限られている。だから東京電力にとってサブドレン計画は焦眉の課題だった。実は半年前、サブドレンからの水の排出は実施寸前まで漕ぎ着けていたが、ある出来事をきっかけに白紙に戻っている。その出来事とは「K排水路」という排水溝から高濃度汚染水が太平洋に流れ出ていたことを、東京電力が把握していたにもかかわらず10カ月も発表しなかったこと。これに対して、地元の漁業者が反発し、サブドレン計画の実施を拒み続けていたからだ。
強硬姿勢だった漁業関係者が妥協したのは、ひとえに事故原発の廃炉を速やかに、安全に進めてほしいからだ。廃炉に向けての行程が進捗してくれないかぎり、福島の漁業や地元のさまざまな産業の再興はありえない。事故原発の廃炉に向けての動きがもたついている限り「風評被害」はなくならないし、風評とはいえない現実的な被害もある。さらに今後、事故原発で深刻なトラブルが発生しない保証もない。漁業者にとってサブドレン計画を呑んだのは、地元の復興のためという思いからの苦渋の選択だったと言えるだろう。
東京電力からすれば、漁業関係者の容認を得られたからには、できるだけ速やかに、かつ安全に作業を進めて実施に漕ぎ着けたい。そう、前回のような失敗は許されない。
目立たないように進めたかのような印象も
2014年5月21日に地下水バイパスの排水が開始された時には、空を報道のヘリが飛び回る中、地下水バイパスとあわせて凍土壁の試験も合わせてメディアの現地取材を行うなど華々しい印象もあった。しかし、2015年9月14日のサブドレン水の排水は、どちらかと言うと静かな船出だった。
サブドレンについてイラストや動画を使って一般向けにPR、情報提供するサイトが公開されたのは8月31日のことだった。
サブドレン計画の実施に向けて、地下水の汲み上げや処理を始めた9月3日の発表は、実に地味なものだった。毎日の変化を報告する「日報」にはまるでベタ記事扱い。「報道関係各位一斉メール」「写真・動画集」でも発表されたが、いずれも具体性に欠いた控えめなものだった。
さらに実際に排水が始まった9月14日も、排水している様子を撮影した動画が発表されたものの、運用はすでにルーチンとして進められている状況だった。
排水開始直後は激しく海面が波立つが、1分ほどで静かになる。排水が終わったのかと思うほど。しかし「10時03分、概ね安定です」の声が聞こえてくることから、海水面を荒立てずに排水することを意図していることが分かる。地下水バイパスの排水口はK排水路の出口付近に設置されて、空中からジャバジャバ水を出していたが、たしかにこの排水のやり方であれば、周辺の作業の邪魔にならないくらい静かにサブドレン水・地下水ドレン水を海に流すことができるだろう。
静かに初めて、どんどん処理したいということか
東京電力のホームページ「廃炉プロジェクト」には、事故原発のさまざまな放射能を測定して発表する「福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の分析結果」というページがある。この中の「サブドレン・地下水ドレンに関するサンプリング」というのが、サブドレンや地下水ドレンから汲み上げた水の排水前検査を公表している場所。そのうち「一時貯水タンクの分析結果」は、汲み上げ後に処理を行った後の水の分析結果だ。一時貯水タンクから先は、長い坂道を下っていくパイプラインが直接港湾内の排水口へと繋がっている。つまり、ここで発表されるデータが運用目標を下回っていれば、海への排水が実施されることになる。そのデータの発表のテンポが速い。
初めての排水が行われた9月14日から遡ること3日、9月11日に最初の「ブドレン・地下水ドレン浄化水の分析結果」が発表されて以来、「一時貯水タンクの分析結果」は14日、16日、17日と急ピッチで公表されている。同じく排水直前に公表される地下水バイパスの「一時貯留タンクの分析結果」が、9月は8日、15日と1週間おきなのに比べても、明らかに早いペースだ。
地下水バイパスの一時貯水タンクが3系統だったのに対して、サブドレン計画の一時貯水タンクは7基設置されている。
建屋付近の井戸水を汲み上げることで、新たな汚染水の発生を抑制するためにスタートしたサブドレン計画。建屋周辺の地下水の水位を下げることで、廃炉に向けての調査の障壁でもある建屋地下に溜まった高濃度汚染水の水位を減らすこともできる。だから必ずや良い成果をあげてほしい。しかし、同時に、拙速は厳に戒めなければならない。なぜなら、サブドレン計画の運用でミスが発生すれば、建屋地下の高濃度汚染水が周辺地下水に流れでてしまう危険がある。また、放射性物質を吸着する装置にトラブルが発生すれば、海へと繋がるタンクや配管が汚染されてしまうこともあり得る。
つまり、サブドレン計画が失敗するようなことがあれば、汚染物質を事故原発の中に閉じ込めるという廃炉の大前提へ向けての工程が停滞してしまいかねないのだ。
現在は汚染度が比較的少ないと見られる建屋山側の井戸から汲み上げた水の処理・排水が進められている。今後、より汚染のリスクが大きい建屋海側の井戸からの揚水・処理・排水が始められることになる。さらには、現在も汚染の過去最高値を更新し続けている場所に近い護岸脇から汲み上げる地下水ドレンの水の処理も加わることになる。私たち市民の注視も不可欠だ。
東京電力には、着実かつ適切な運用で、廃炉に向けての長い道のりの一歩を進めてほしい。安全はすべてに優先するというマインドを持って。
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