免震どころか激震 東洋ゴム工業株式会社(5)

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不祥事が投資家に与える影響

2007年の防火断熱パネルの不正が株価に与えた影響を分かりやすくするように、株価チャートにしました。

東洋ゴム2007年断熱パネル不正発覚の前後の株価チャート(日足)
東洋ゴム2007年断熱パネル不正発覚の前後の株価チャート(日足)

不正発覚の謝罪記者会見が行われた日を中心に、2ヶ月間の日足のチャートです。
株価の詳細(4本値)は以下です。 

東洋ゴム2007年断熱パネル不正発覚の前後の株価(4本値)
東洋ゴム2007年断熱パネル不正発覚の前後の株価(4本値)

会社が行った不正により、謝罪会見の日の高値639円から計算すると、その後3週間での安値385円まで、株価は40%近く下落しました。同社を信用して投資していた投資家に損失を与えています。

同社は、15年簡にわたり、不正を行ってきました。投資家はそんなこととはつゆ知らず、同社を信用して株式を購入しているのです。投資対象会社が行った不正と隠蔽による株価下落で、善良な(事情を知らない)投資家を損失を被ってしまいます。

今回も株価は下落しました。謝罪会見の日の高値が2,798円から本日(3月20日)までの1週間の安値2,264円までは、今のところ19%の下落率です。

リスク情報の開示義務違反の可能性大

東洋ゴムは上場企業ですから、「有価証券報告書(有報)の提出義務」があります(金融商品取引法第24条1項1号)。さらに有報の記載事項に、リスク情報を記載することが明示されています(企業内容等の開示に関する内閣府令)。経営者が感じている「事業のリスク」を投資家に知らせなければなりません。どういうリスクを開示すべきかは、詳細があるわけではなく、「法令の趣旨を踏まえ、投資者が投資判断を行うに当たり必要な情報が、投資者に理解しやすく、誤解を生じさせない形で、適切に開示されること」(金融庁:企業内容等開示ガイドライン)とされています。

法令関係の文章は相変わらず読みにくいので、砕きます。

投資家保護のために、経営者が感じている「事業のリスク」を投資家に知らせるために、有報に記載しなければならないと法律で決まっているのです。

この有報はいつ作成・提出されるかというと、決算から3ヶ月以内となっています。
つまり、東洋ゴムの場合では12月末日決算から3ヶ月以内の3月末日になります。

2014年12月期の決算からは、まだ3ヶ月が過ぎていませんので、2014年12月期決算内容に基づく有報は、2015年3月末日が提出期限となりますので、まだ提出されていません。

3月27日の株主総会で決算承認がなされて、初めて税務申告書と有報が作成(実際はほとんど出来上がってます)、提出されます。

問題は、昨年提出された有報です。不正が社内で発覚したのは、2014年2月です。良く3月には、第98回定時株主総会が開催され、3月中に2013年12月期の決算に基づく有報が提出されています。

この有報に記載される「事業のリスク」は、第一部企業情報/第2.事業の状況/4.
事業等のリスクの欄に記載されます。前回提出されている同社の有報の中のリスクの記載で該当する箇所を紹介します。

4【事業等のリスク】
(8)製品の品質による影響について
  当社グループは、品質管理を経営の最重要課題とし、品質管理体制の万全を 期しておりますが、製品の欠陥や不良を皆無にすることは困難であります。大 規模なリコールや欠陥に起因する多額の損害賠償が起きた場合には、連結業績 に影響を及ぼす可能性があります。
(10)法律・規制について
  当社グループは、経営の基本としてコンプライアンス体制の強化、内部統制 機能の充実に努めております。それにもかかわらず法律・規制を遵守できなか った場合、活動の制限やコストの増加につながり、連結業績に影響を及ぼす可 能性があります。
  また、当社グループは、国内外の事業活動に関連して、訴訟や各国当局によ る捜査・調査の対象となる可能性があり、重要な訴訟が提起された場合や、各 国当局による捜査・調査が開始された場合には、連結業績に影響を及ぼす可能 性があります。  

東洋ゴム工業株式会社 第98期有価証券報告書より

今回の不正による事業のリスクを開示しているように見えますでしょうか?

解説します。

まず(8)の記載です。
「製品の欠陥や不良を皆無にすることは困難」・・・その通りです。製造において、不良はつきものです。消費者からすると「え~っ」と言いたいかもしれませんが、100%の良品は奇跡的です。ですからどこの企業でも出荷検査をしています。代表的な出荷検査は「抜取検査」というものです。一般的には「AQL抜取検査」というものが行われます。数量に応じて抜き取る検査物の数量が決まっています。当然ランダムに抜き取ります。その決められた個数の中で、もし不良が見つかったら、全数検査をするなり、全数検査のコストパフォーマによっては、「ロットアウト」といって同じ製造ロット(製造の単位)を全部廃棄します。納品先や消費者に不良品を流さないという水際の検査です。製造ラインでも、一定の判定基準を設け、不良品をはじいてます。良品だけが残るように工夫しています。

「大規模なリコールや欠陥に起因する多額の損害賠償」・・・今回はその通りの製品の取替えや、工事中物件の工事の延期等による損害賠償は免れません。

ところが、この文章では、今回の不正の情報が開示されたことにはなりません。ここに記載された内容は、何処の企業でも記載している内容と遜色ありません。一般的に使われているひな形通りの文章と言えます。

製造現場の量産工程において製品の欠陥や不良は必ず出るものといえます。さまざまな不良品を検出する装置や人間の目などで、外観不良はかなりの確率で検出されていますが、それでも良品の中に不良品は混ざることがあります。見た目では判定できない「寸法」であったり、「強度などの性能品質」については、製造中の抜取りも行う場合もありますが、測定に時間や手間がかかりますので、出荷検査で計測します。

この(8)に記載されているリスクは、「そうした検査工程や品質管理をルール通りにこなしていても、不良品や欠陥品が出荷されてしまう場合」「出荷当時には、気づいていなかった欠陥が後から確認された場合」を謳ってるもので、「不慮の事故」による損害の可能性(リスク)を表します。

今回の免震ゴムや8年目の断熱パネルは「不良と知りつつ」出荷しており、(8)で記載している内容とは根本的に違います。

次に(10)です。
「経営の基本としてコンプライアンス体制の強化、内部統制機能の充実に努めております。それにもかかわらず法律・規制を遵守できなかった場合」とありますが、法律・規制を「遵守できなかった」と「遵守しなかった」は全く意味が違います。

「遵守できなかった」は、国による法令や規制も改正などや商習慣などにより、気をつけてはいたけれども、不本意ながらも規制に触れてしまったようなことを言うのであり、最初から法令を守ろうとしていない免震ゴムの不正については、「遵守しなかった」のであって、「できなかった」とは全く違います。コンプライアンス体制の強化と内部統制機能の充実すらできていなかっただけです。

他に該当しそうな事業リスクの記載はされていません。よって、第98期決算の有報を見る限り、今回の不正による事実は、最低でも「懸念」は発生していたのに、情報が開示されていないことが判明です。

あるべき姿は、「データ改ざんにより、不正に大臣認定を取得した製品がある可能性があることが判明した。現在調査中であるが、もし不正の事実が発覚し、それらの製品が出荷されていて建築物に使用されていた場合に、・・・大規模なリコールや欠陥に起因する多額の損害賠償、・・・」といった情報を開示する必要があります。

明らかにリスク情報の開示義務違反だと私は思っています。

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