東京電力「吉田調書」を読む(8)うるさい、黙っていろ

iRyota25

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1号機の海水注入について、テレビ会議で一時停止すると報告した上で、現場では海水注入を継続したという話に続き、その対比として13日に行われた3号機の注水についての質問が行われる。

淡水と海水の切り替えのタイミング、非常用の高圧注水系が停止してから注水までに6時間40分を要したこと、さらに注水用の消防車のラインの引き直しについて質問されていくが、吉田所長の回答は「思い出せない」だった。

○回答者 これは、結構争点になると思って、私も思い出そうとしているんですけれども、基本的に思い出せないんですよ。強く海水がだめだというような指示が本店からあった記憶もないんですね、私自身はね。

吉田調書 2011年7月29日 11ページ

吉田所長の言うように「争点」になる部分だと考えるが、このやり取りは3号機の爆発に関連して改めて紹介することにして、先を進める。

インターナショナル初公開みたいな

話の長い質問者が1号機の海水注入の継続について問う。注水の継続は所長に与えられている権限だと考えているのか、いないのか。所長は責任があるからやらなければならないと考えるのか。ほかが余計なことをいうのはいちいち聞く必要はないというように考えるのか。要は、海水注入を継続したことについての職権を質したいということらしい。それに対して吉田所長はあっさりとした口調で答える。

○回答者 まず、ごく普通の操作であれば、要するにマニュアルだとか、それにしたがって実施しなさいということになりますけれども、海水を注入するなんていうのは、本邦初公開でございますので、インターナショナル初公開みたいな。

○質問者 そうですね、世界中で初めてですね。

○回答者 初めてですから、もうこのゾーンになってくると、マニュアルもありませんから、極端なこと、私の勘といったらおかしいんですけども、判断でやる話だというふうに考えておりました。

吉田調書 2011年7月29日 12ページ

「雑音」と言わせたい質問者

○質問者 そうすると、そこでいろんな思惑があったり、それから判断があったりして、止めろだの、やめろだの、待っていろだの、何かそんなことを言うと、それは雑音だと考える。

○回答者 考えます。

○質問者 そこが聞きたかったんです。

吉田調書 2011年7月29日 12ページ

質問者は何を語らせたいのだろうか。報告義務に反して注水を続けたことについて、止めろという指示そのものが雑音でしかない。所長は原子炉の暴走を止めるために英雄的に行動したとでもいう物語なのか。あらかじめストーリーができていることを疑いたくなるようなやり取りだ。

○回答者 すべてがそうです。私は、水を入れる、要するにシンプルなんですよ。やることは、水を入れるのと、格納容器の圧力を下げる、この2点、どの号機もその2点だけをやるんだと、これだけ言っていましたから。

○質問者 それ以外は、もう雑音なんだ。

○回答者 雑音です。それを止めろだとか、何だかんだいうのは、全部雑音です。私にとってはですね。

吉田調書 2011年7月29日 12ページ

徐々にブレーキが効かなくなっているようにも感じられるが。

○質問者 テレビ会議なんかで、こちらがどうしましょうかというような、お伺いのような形は。

○回答者 ほとんど言っていませんね。

○質問者 本店が勝手に聞いてどんどん言ってくるという形ですか。

吉田調書 2011年7月29日 12ページ

そして飛び出した「うるさい、黙っていろ」

○回答者 ですから、問い合わせが多いんです。今、どんな状況だと、だからサポートではないんですよ。報告のために何か聞くんで、途中で頭にきて、うるさい、黙っていろと、何回も言った覚えがありますけれども。

○質問者 本店の方は、逆に官邸に聞かれるからじゃないかと。

○回答者 そういうことです。

吉田調書 2011年7月29日 12ページ

円卓からは現場の状況は見えていない。だから本当の現場である中央操作室や、そこから出張っている原子炉の状況を吸い上げなければならない。指示を出す円卓にとって、現場からの情報収集が最も重要なことのひとつだったことは間違いないだろう。そんな状況の中で、本店(あるいはその向こうに官邸があるとしても)から報告のための問い合わせが頻繁に行われ、ついには所長が「うるさい、黙っていろ」と発言する。

その発言そのものよりも、責任者がそのような状況に置かれていたということが、そのとき事故原発が置かれていたピンチの大きさを物語っている。

さらに、官邸詰めの東電社員が所長に何と言ったのか、例の言葉も繰り返される。

四の五の言わずに止めろ

○質問者 先ほどの官邸からの指示という話で、根拠については説明なかったんですか。

○回答者 たがら(ママ)、先ほどの電話で、電話を再現しますと、まず、官邸がまだ海水注入を了解していないという話があったので、私は入れているし、もう入ったんだから、このまま注水を継続しますよと言ったら、四の五の言わずに止めろと、そのときに電話だけはいまだに覚えていますけれども、それでやっていられないなと、私からすると、そうなったわけです。だから、論理根拠も何もないですから。

吉田調書 2011年7月29日 12ページ

混乱は現場、円卓、本店のみならず、もっと広い範囲で深刻化していたことが伺える。シビアアクシデントが発生した際にどんなことが起きるのかという想定が甘かったことと、実際に現場で起きている状況が円卓にすらリアルタイムで伝わらないことが事態を深刻化させていたのだろう。

実際に海水注入をめぐっての吉田所長の「独断」は、日本の危機を救う結果につながったと言える行為だったのかもしれない。

しかし、この期に及んでも質問者は「雑音」にこだわり続けて、海水注入の事実を掘り下げようとはしない。

もう雑音だとは思っていませんでした

○質問者 一番大きな雑音だったわけだ。

○回答者 そうです。だけれども、もう雑音だとは思っていませんでしたけれどもね、そのときには、うるさいなと。私はそう決めていましたから、外から見ると、国会で何か騒いだりするものだから、大事件みたいに思っていらっしゃる人がおおいんですけれども、そんな問題じゃなくて、単純に今、止めたらえらいことになるから、ずっと続けるぞと思ってやっていたわけです。

吉田調書 2011年7月29日 12~13ページ

官邸の干渉は現場にとって邪魔だったという筋立てに誘導しているようにみえる質問者に対して、吉田所長の回答は「この時点では雑音とも思っていない。止めるとえらいことになるから続けただけ」と、微妙にニュアンスが異なっている。この一連のやり取りの中で吉田所長が主張したかったことは、これなのかもしれない。

やっていられないよ事件。どこから漏れたか

週刊誌で――と前置きしながら、まるでゴシップ誌的な、テレビ会議の発言がどこから漏れたのかという詮索が行われる。

○質問者 当時、週刊誌で、所長さんの話で、やっていられないと言ったという話がでていたんですけれども、それは、そういう言葉だったんですか。

○回答者 そのときは、やっていられないなんて言わなかったんです。やっていられないよ事件は、もっと後のタイミングだったと思いますけれども、気持ちの中ではずっとそう思っていましたけれどもね。

○質問者 あれは、どこから漏れたのか、割と早い段階で出ていましたね。

○回答者 あれは、どちらかというと、テレビ会議がいろんなところにつながっているじゃないですか、オフサイトセンターとか、結構いろんな人が聞けるんですね。マスコミはカットしていますけれども、そこで言っている発言がメモして流す人が多分いるんだと思うんです。ですから、毎日やっているテレビ会議というのは、半分外に漏れていると、これは本店と第二と柏崎とオフサイトセンターとジェービレッジと、それから福島の支援室ですね。これは最初からつながって、情報を朝晩やっていますから、そこで私がやっていられないというようなことを言った話は、多分、どこかで流しているんでしょう。好きにしてくれと思いますけれども。

吉田調書 2011年7月29日 13ページ

こうしてインタビューのやり取りをたどっていくと、話が前後するのみならず、誘導とも思えるような質問や、好奇心だけの質問の横槍が入ってまだるっこく感じる。話が前後しながら、同じ内容について何度もやり取りをするのは、出来事をより詳しく聞き出す上で重要だと思う。しかし、あまりにバイアスがかかった質問はいったいどのような意図があってのことなのだろうか。

たとえ非常事態であっても、その措置に法律上の問題がなかったかどうかすら追及しようとしないのは異常だ。このような状況で福島第一原発の事故原因が取りまとめられてしまっては、「吉田所長の英雄的行動と邪魔ばかりする官邸」というストーリーの中で責任の所在が曖昧にされたまま、事故の再発防止に関する技術的な課題すら明らかにされずに幕引きとされてしまうのではないか。空恐ろしくなる。

今回とり上げた3月12日は、1号機の爆発があって現場の混乱が深まった時だと考えられるが、原発事故の混乱はそれよりはるか後、このインタビューが行われた7月時点でも別の形で続いていたのかもしれない。事故をどのように解釈するかという取り合いの中で。

そのような状況までも垣間見られる点でも、吉田調書のインタビューは、原発事故が引き起こす事態がいかに深刻なものかを物語る一級資料だと言えそうだ。

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