東京電力「吉田調書」を読む(7)中止命令はするけれども、絶対に中止してはだめだ

iRyota25

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3月12日、午後2時53分。1号機の冷却のため消火ラインを利用して行ってきた淡水による注水80トンが「注入完了」となる。原子炉を冷やすためには海水でも何でも注入したい現場。その一方で原子炉の状況は悪化していき、ついには爆発に至ってしまう。

1号機爆発と海水注入。とくに海水注入については、官邸からの停止指示との兼ね合いもあり、注目される部分だ。

今回も7月29日に行われた吉田昌郎所長へのインタビューを抜粋して紹介します。

昼には海水注入の気持ちに「もうなっていました」

事故の推移を記した時系列を見て質問者が問う。14時54分に消防車による原子炉への淡水注入80トンと、注入完了。14時54分に原子炉への海水注入実施を発電所長指示。これが最初の海水注入の指示になるのかと。

○回答者 というか、書いてあるものとしては最初になりますけれども、この日の午後からいずれも淡水がなくなるから海水注入をする準備をしておきなさいということは言っておりましたので、ですから、ラインナップも、この前お話ししたように、水をどこから取るかということは非常に難しい、海から直接取れない、どこの海もポンプがないものですから、この前も最後に申し上げたんですが、3号機の逆洗弁ピットに津波のときの海水が残っていると、かなり量があるというのを聞いて、そこからですと、そんなに要りませんので、そこから取るしかないというようなところを、すでに海水注入を実施するように指示した前に検討して、これでやろうということは決めておって、では、それで注入しようと最終決定したのが、14時54で、もともとの検討は、その前にやっている。

○質問者 要するに、これは、その指示というのは、直近で淡水の水源がなくなってきたので、そこから海水の方にシフトせよというようなことのわけですね。それは、海水ということをお考えになったのは、その日のお昼ごろには、そういう考えになって。

○回答者 もうなっていました。

吉田調書 2011年7月29日 5ページ

冷やしたい。圧力を下げたい。しかし冷やすために無限にあるのは海水だけ

○質問者 これは、それまで、炉の中に海水を入れるというようなことは、所長の経験では、それまでに聞いたことはありましたか。

○回答者 まずないです。世界中でそんなことをしたことは1回もありませんから、ないんだけれども、冷やすのに無限にあるのは海水しかないですから、淡水は、この前もお話ししたように有限で、どこかで尽きるのは決まっていますから、もう海水を入れるしかない、もう有無なしの話ですね。ですから冷やすと、ですから、私がこのとき考えたのは、格納容器の圧力を何とかして下げたい。それから、原子炉に水を入れ続けないといけない。この2点だけなんですよ。メインで考えてたのは、それ以外の細かいことは、枝葉末節で、この2点をどうするんだということしか考えていませんから、でも海水なんか当たり前だと、ここの暴れているものをどうにかするには海水しかない。

吉田調書 2011年7月29日 5~6ページ

インタビューが行われた7月時点では、海水を注入すると原子炉が再利用できなくなるという話はとうに知れ渡っていた。質問者は、海水注入の判断が誰によって行われたのか、本店は、もっというなら経営トップ層は了解していたのかを繰り返し問う。

本店や円卓のメンバーと「淡水がなくなったら海水だ」という話をしていたのか? いつ頃からなのか? 反対はなかったのか。

○回答者 ここに記載はないですけれども、淡水がなくなったら、海水に行くように検討をやっているというような話は、午後にはしていたと思います。

○質問者 それは、テレビ会議かなんかで。

○回答者 それは、電話でしたか、ちょっと記憶にないんですけれども、少なくとも私はそう決めているよという話はした記憶はあるんです。

○質問者 それは、最初の1号機の海水注入ですね。

○回答者 勿論、一番クリティカルでしたからね。

○質問者 その際に、何か反対意見とか、そういうものというのは。

○回答者 なかったですよ。

○質問者 当初なかったですか。

○回答者 ですから、要するに冷やすのに水がないんだから海水を入れるしかないですから、海水を入れるようにしますよというようなことでお話をした。

吉田調書 2011年7月29日 6ページ

水を入れてどぶ漬けにして、冷やすしかない

水を入れて冷やす。圧力を下げる。それが当然の対処としてインタビューは進んでいくが、原子炉の水位や圧力についてのデータが信じられないという状況があったことは、7月22日のインタビューでも繰り返し述べられていた。質問者は水位計の信頼性も含めてさらに問う。

○質問者 どんどん入れないといけないという判断は、圧力容器の水位計を見て、温度ですか、水位。

○回答者 水位です。

○質問者 水位が足りていないということで、どんどん入れると。

○回答者 そうです。要するに、その後であれでしたけれども、どれだけ格納容器、圧力容器が損傷しているかわかりませんので、燃料は損傷しているのであれば、水入れてどぶ漬けにして、冷やすしかないと、これが一番シンプルな考えなんです。

○質問者 すると、水位計はもうかなり信頼できそうな感じだったんですか。

○回答者 いや、そのときもほとんど信頼できないだろうと、ですから、一回スティック、わからないですけれども、あるレベルを示したのが、だっと下がっていったわけですね。では。これが本当に水を入れたから信用できるかというのはわからない。もう入れるしかないと。

○質問者 入れ過ぎてまずいということないと。

○回答者 ないです。

吉田調書 2011年7月29日 6ページ

さらに、「すけべったらしい」という言葉まで使って、質問者は一番聞きたかったことに言及する。

○質問者 もう一つ、よけいな質問なんですけれども、海水を入れると、あと、こういう機器が全部使えなくなってしまうから、すごくお金がかかるというか、もうあと使えなくなってしまうということをやると、まだ何とか真水でやれるところまでやり切らないといけないんじゃないかとか、そんな、少しどちらかというと、すけべったらしいというか。

○回答者 全くなかったです。もう燃料が損傷している段階で、この炉はもうだめだと、だから、あとはなだめるということが最優先課題で、再使用なんて一切考えていないですね。

吉田調書 2011年7月29日 6ページ

このやり取りでは、海水注入で再使用できなくなるという考えはなかったと、吉田所長は一貫して主張し通した。

爆発。人員の退避と、原子炉を鎮めるためにやらなければならないことの間で

海水を注入することに迷いはなかった。暴れる原子炉を鎮めるためには海水でも何でも注入して冷やすしかない。そのラインも整った。しかし注入より早く、爆発が起こる。

冷やせるかもしれないという明るい兆候は、爆発によってしぼんだ。

○質問者 それで、海水注入のための準備をされて、この時点では、この時点というのは、その爆発の時点ですね。これから海水を入れようかと、そういう段階だったということですか。

○回答者 そうです。それで、ラインナップもできたという話を聞いて、海水もラインナップできたら入れようと、それからホウ酸水もラインナップができつつあると、やって水が入る手段ができて、これから冷やせるなと、ちょっと明るい兆しをもっていたところでぼんと来てしまったと、そういう感じです。

○質問者 まず、爆発が発生して、けが人なんかもでたということで、そのような安否確認なんかもあると思うんですが、その後、1号機の現場周辺、要するにその当時作業していた、これはSLC(注:ホウ酸水注入系。ホウ酸水には核物質の臨界・再臨界を抑制する役割がある)の電源なんかを確保して、ケーブルを敷設してという作業と、それから海水注入のラインなんかについて、これがどのような被害になっているのか、損傷状況はどうか、そういう確認なんかをされているわけですね。

○回答者 しました。まず、現場で、その作業をしていた人間が上がってきたわけですから、その連中から状況を聞いて、どうなんだというと、要は爆発して、それで上の方が吹っ飛んで、いろんなものが破片といいますか、瓦礫といいますか、それが飛び散ってきていますと。

それから、電源車の方、表現がどうだったから(ママ)覚えていませんが、要するに使えなくなったという話は、次々に現場から上がってきた人間から入ってきて、

もう一回確認してくれということで、安否確認した後、もう一度現場の最終確認をしてくれということはして、それで現場を見回りに行ってもらったと思います。

その結果が、今みたいな状況で、注水そのものも、消防車そのものも注水が一時的にできないような状態になっていると。

ですから、今までSLCも入る、海水注入も何とかできそうだというのが、一気に希望がしぼんでしまったというか、瞬間的にどうにかしないといかぬということなんですけれども。

吉田調書 2011年7月29日 7ページ

骨折したスタッフが伝えた爆発現場

現場への退避指示について聞かれて吉田所長が語った言葉に、爆風で骨折したスタッフの話が登場する。

○回答者 そうです。1回退避をかけています。1回退避をかけて、だから時間的な話でいうと、それが何分だったかというのは、思い出せませんが、まずは退避なんです。安否確認です。安否確認している間、一番近くにいたうちの保全担当が腕を折って帰ってきたんですね。それは一番近くにいた人間で爆風で腕の骨を折って帰ってきた。そいつにどうなっているんだという話を聞いたら、もう大変ですよという話が入ってきて、ですから、そこでそういう話を聞いている間というのは、現場に出していないわけです。

吉田調書 2011年7月29日 7ページ

しかし、現場に出していないのは「そういう話を聞いている間」。吉田所長の頭の中には、やるべき作業と安全確保という葛藤があったようだ。

一気に爆発したので、可燃源はもうなくなっているという判断

葛藤の中でも、何とかして現場に人を出して、作業を進めたいという相当に追いつめられた発言が続く。

(つづいて)

次のステップとして一番怖いのは格納容器が爆発するんじゃないかということになりますけれども、データを見ていますと、格納容器圧力は爆発前後で大きく変わっていないわけです。格納容器が爆発すれば、要するに格納容器圧力はゼロになるか、要するに瞬間的に変わるわけですけれども、それが維持していますから、格納容器はけんぜんだったということで、

少なくとも、何かが爆発したということは、一気に爆発したので、要するに可燃源はもうなくなっている可能性がたかいというふうに判断して、これも判断というよりも、何せ水を入れに行かないと、どうしようもないので、この判断も、次の2号も3号ずっと続きます。

人をどうするかという判断、これは私もこの一連の操作の中で一番悩ましかったんですけれども、退避かけさせるのと、ただ、何か作業しないと次のステップに行けないということの折り合いの中で判断していったと、こういう状況だから、注水をもういっぺんラインナップしてきてくとか、そういうことを指示していく。

吉田調書 2011年7月29日 7~8ページ

何とか始まった海水注入、官邸詰めの社員からの停止指示、すでに行った海水注入を「試験」と位置付けようという社内のやり取り

さらなる爆発の危険がまったくないわけではない状況の中、海水注入に向けての現場での作業が再開される。注水するためのラインを再びつくって、注水が始まったのは19時04分のことだった。しかし、法律に定められた報告では海水注入の開始は20時20分となっている。質問者はその理由を質す。吉田所長が行った長い説明を、文意で区切りながら引用する。

○回答者 これは、もう既に課題になっていますけれども、私どもとしては、この前にも海水注入することについても了解がとれていると。本店にも報告してやってくれていますので、19時4分に海水注入を開始しましたという話はしております。

した段階で、いろいろ取りざたされていますが、正直に言いますけれども、注水した直後ですかね、官邸にいる武黒から私のところに電話がありまして、その電話で、要するに官邸では海水注入は、5月二十何日にプレスした内容とちょっと違うかもわかりませんけれども、

私が電話で聞いた内容だけをはっきり言いますと、官邸では、まだ海水注入は了解していないと。だから海水注入は停止しろという指示でした。武黒からですね、雰囲気とか、そんな話は何にもないです。中止しろという話しか来なかったです。

それで、それを本店の方に、今、官邸にいる武黒からこういう話が来たけれども、本店は効いているのかという話をして、そのときに、本店で小森は多分いなくて、プレスから何かで(ママ)いなくて、高橋というのがいて、高橋と話をして、やむを得ないというような判断をして、では止めるかと、ただし、

入れたことについてどういう位置づけにするかということを、試験注入と、要するにラインが生きているか、生きていないかを確認したということにしようじゃないかということを相談の上、

どちらかというと、試験注入という言葉を本店が挙げてきたと思うんですけれども、うちはそんなことは全く思っていなくて、試験注入をしようということで、19時04分は、ある意味では試験注入の開始という位置づけです。

吉田調書 2011年7月29日 9ページ

非常事態とはいえ、法律に定められた報告義務に関して、幹部社員が相談して「試験注入という位置づけにしようじゃないか」と相談する場面には、いろいろなことを考えさせられる。

とにかく冷やすために海水を注入したことが妥当な選択であったとしても、「それじゃあ」と行為を正当化するための相談が自然に行われるとは、どういう企業風土なのだろうか。

福島の円卓のメンバーにも内緒で続けた海水注入

官邸からの停止指示に対して、吉田所長の独断で海水注入が続けられたことは、これまで繰り返し報道されてきた。英雄的な勇気ある行為として取り上げられるこの出来事に該当するのが、ここから続く部分だ。

報道では官邸にいる首相と班目氏によって海水注入の中止が指示されたとされることが多いが、この場面での吉田所長の発言は、あくまでも「官邸にいた東京電力の武黒氏」から吉田所長への電話による直接の指示となっている。

では、試験注入が完了したので停止をするということにしましょう、というか、停止ということで決定したんです。ただ、私は、もうこの時点で水をなくすなんていうこと、注水を停止するなんて毛頭考えていませんでしたから、

なおかつ中止だったら、どれくらいの期間を中止するのかという指示もない中止なんて聞けませんから、30分中止というのならまだあれですけれども、注意と、いつ再開できるんだと担保のないような指示には従えないので、私の判断でやると。

ですから、円卓にいた連中には中止すると言いましたが、それの担当をしている防災班長、■■といいますけれども、彼には、ここで中止をすると言うけれども、ちょっと寄っていって、中止命令はするけれども、絶対に注視してはだまだという指示をして、それで本店には中止したという報告したということです。

吉田調書 2011年7月29日 9ページ

その後、官邸から海水注入していいという話がいつ来たかについて、吉田所長は「忘れましたけれども、では、多分、27報の直前だと思う」としている。それが20時20分に海水注入を開始したという「オフィシャル」な報告なのだという。

四の五の言わずに止めろと言われ

官邸や本店はおろか、現地の対策室の円卓のメンバーにも内密に続けられた海水注入。世間の注目を集めた出来事だっただけに質問は続く。そのやり取りから3月12日19時過ぎから20時過ぎまでの状況が、ある程度具体的に見えてくる。少し長いがそのまま引用する。

○質問者 そうすると、まず、最初に19時04分の後、それほど間がないときに、武黒さんの方から、官邸の方の意向というものを電話で聞いて、その意向というのは、海水はちょっと待てと、まだ了解が出ていないということだったので、その後、本店におられる高橋さんのところへ連絡を取られたということになるんですね。

○回答者 連絡もテレビ会議がつながっていますからね。

○質問者 それは、テレビ会議を通じてのお話。

○回答者 武黒からのやつは官邸なので、官邸はテレビ会議入っていませんので、電話で私のところに来たので、できませんよ、そんなことと、注水をやっと開始したばかりじゃないですかと、もっとはっきり言いますと、四の五の言わずに止めろと言われました。何だこれはと思って、とりあえず切って、本店にこういうことを言ってくるけれども、どうなんだ、そっち側に指示が言っているのかという話を聞いて、指示がまた言っていたような、言っていないようなあいまいなことを言っていましたけれどもね、高橋はね、彼は聞いていて握りつぶそうとしたのかなという気もしますけれども、そこは高橋さんに聞いてください。

○質問者 では、そこの高橋さんとのやりとりというのは、テレビ会議を通じてのやりとりになるわけですね。

○回答者 はい。

○質問者 結局、これはやむを得ないということで、本店側の方としても、こうやって止めるしかないということだったので、一応テレビ会議の表向きでは、所長としてもとめるという形を取ったうえで、それで円卓のメンバーにもその旨言った上で、■■さんの方には止めるなよということを、その円卓から離れたところで言って、そのまま継続をさせたということなんですね。

○回答者 はい。

○質問者 その後で、今度は官邸の方から了解が出たということになった段階で、この円卓のメンバーたちには。

○回答者 それは、官邸からというより、テレビ会議から本店からの指示が来た、OK、了解のお話はね。

○質問者 それで、そこからはもう開始ということで、その円卓のメンバーにも情報共有を図っているということになるわけですか。

○回答者 はい。

○質問者 そうすると、円卓の皆さんは、一時止めていたという認識の方もおられるわけですね。

○回答者 ほとんどが止めていたという認識を持っておるんじゃないでしょうか。

吉田調書 2011年7月29日 9~10ページ

海水注入の準備が整った時に起きた爆発。生命の危険がある中で再び海水注入の準備を行い、夜になってようやく始まった注水。そこに飛び込んでくる中止指示。相手のみならず円卓のスタッフにまで伏せて継続された海水による冷却。インタビューから想起される現地の出来事は、まるで映画のようだ。

インタビューはさらに続きますが、今回はここまで。次回は、同じ場面についての別の質問者によるインタビューと、事故の焦点が別の原子炉にも移っていく状況についてお届けします。

(つづく)

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