東京電力「吉田調書」を読む(3)外のことは分かりません

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津波到達直後、地震発生から1時間ほどで、全電源喪失という絶望的状況に追い込まれた東京電力福島第一原子力発電所。次に打つ手をどう考えたかという質問に対して、吉田所長は「絶望していました」と答えた。

現場の機転

○質問者 炉心溶融などを防ぐという意味で、RCICとか、IC(注:いずれも炉心からタービンへの流れを止めた直後に炉心を冷却する装置)が、8時間だとか、何日だとか、どのぐらいもつという判断だったんですか。

○回答者 私などは、8時間で死ぬと。

○質問者 8時間ぐらいしかないと思っていた。

○回答者 はい。

○質問者 実際は結構長く動いていたんですね。

○回答者 これは運転員が賢くてと言ったらおかしいですけれども、バッテリーの負荷をどんどん切っていって、普通、いろんなものに供給しているバッテリーなんですけれども、その負荷をだーっと切っていって、RCICだけに絞ってくれてからもったんです。

吉田調書 2011年7月22日 24ページ

運転員の機転によって、猶予の時間は結果的に伸びた。しかしその時点では8時間以上持ってくれるかどうかは分からない。緊急対策本部の円卓と中央操作室では、限られた時間の中でいかに炉心を冷やすか、どうやって水を入れるか、ぎりぎりの検討が続けられた。

消火系を利用した注水を検討する中で、水源に問題があることが分かってきた。そこで代替措置としてマニュアルにも書かれていなかった消防車による注水の検討へと話が移っていく。タービン建屋の外にある消火系につながる送水口は後付けだった。水を取ったのも消火栓ではなく防火水槽だった。

前々回取り上げた「NHKが御丁寧に報道していただいたんで」とのくだりが、ここで展開されるが、いずれにしろ中越沖地震で起きた柏崎原発の火災をきっかけに増設された消防施設と消防車を利用することで、対応が進められていく。ところが水を入れようとしても入らない。入らないということは炉内の圧力が高すぎるからだろうという話になっていく。

僥倖? あるいは…

○質問者 では、認識としては、3月11日の夜ころの認識として、所長は、この1号機に関して言うと、IC(注:非常用復水器)が動いていますと。それで、DD(注*ディーゼル駆動の消防用ポンプ)については待機状態で、水がまだ入るには、圧力がちょっと高いのかなと。

○回答者 入らない、入らないんだけれども入れられるようにしておいて。

○質問者 それでICが動いているんだろうと。

○回答者 これはほかの号機と違うのは、ほかの号機は無理やりSR弁(注:主蒸気逃し安全弁。圧力容器の蒸気をサプレッションチャンバに逃す安全弁)が開けて、原子炉圧力を下げて、いじっていないですよ、1号機は、あるとき見たら、20時07分、時間は記憶ないですけれども、ようするに夕方は70キロ炉圧があったわけです。それが、あるときぽんと見たら、もう8キロに下がっていたという、この中で、何があったんだろうと、今となってもわからない。

吉田調書 2011年7月22日 33ページ

炉心に水が入っていかないのは、ポンプのパワーよりも炉心の圧力が高いから。何とならないかとおそらく気を揉んでいたことだろう。そしたらある時、急に圧力が下がっていた。「いじってないですよ」というのは圧力を下げるような操作、たとえばSR弁を開けるとか、まさかベントとか、そのようなことはしていませんよ、と念押したという意味だろう。

○質問者 何があったかわからないけれども、具合のいいことがおこっていると。

○回答者 そうですね、ある意味ではですね。でも、具合の悪いことも起こっていて、要するにSR弁を開いて減圧するというのは、同時に水位がさがるということなんです。中の保有水量が外に出ていってしまうわけです。だから、水位が下がっているんだけれども、結局、この水位計はその間ある一定値を示しているわけですね。もしくはちょっと上がったり。

○質問者 スティックしているかもしれないと。

○回答者 そうです。だから、ここの水位計の状況と、原子炉の中の状況が、全然この時点で、私らのイメージの中にどうなっているのかわからない状態。

 それと、今、言ったみたいに、ICの運転状況だとか、それからDDポンプの運転状況についての情報が1、2号中操から円卓へ流れてきていないので、そこの話からいうと、全部飛んでしまっている時系列、何でこんなに下がっているのと、逆にいうと、0.8キロを確認したときに、何でこんなに下がっているのということですし、格納容器の圧力が最初、640kPaか何か、何で格納容器の圧力がこんなに高いのと、最初に格納容器圧力がわかったとき、そういう状態で、あるところが全然わけのわからない、われわれの頭では想像がつなかいような状態で、いきなり計器を見たらすごいことになっていると、そういう飛びなんですね。

吉田調書 2011年7月22日 34ページ

「スティック」が装置が引っかかって動かくなるという意味ならば、計器故障の可能性もこの時点で頭に浮かんでいたということか。「全然わけのわからない、われわれの頭では想像がつなかいような状態」で「すごいことになっている」というのが地震が発生した日の20時過ぎから翌日未明2時45分の状況だった。

○質問者 確認ですけれども、20時07分の6.9MPaという数字と、2時45分、翌日12日の2時45分の0.8MPaというこの間に、逃がし安全弁で減圧操作というのはされていないということなんですね。

○回答者 はい。していれば、逆にそれと注水のバランスを取れとか、そういう操作面の話になるんですけれども、私の方は、その指示をしていなくて、ある意味では、プラントの方が勝手に下がってどうなっているんだと、こういう感じだったですね。

出典元:吉田調書 2011年7月22日 34ページ

計器を読むことすら過酷な最前線へ征く作業員

○質問者 6.9MPaという数値は、中に入って確認した数値だと思うんですけれども、これは所長から指示されて。

○回答者 要するに、どこでどう見るかは、当直に任せるんですけれども、要するに見えるところで監視できなければ、何も状況がわからないので、すべて監視できるように、監視できるものは全部確認しろという趣旨ですから、それで圧力計が中にあるものは、実際に見るということも含めて、そういう指示です。

 ただ、非常に状況が悪いので、長時間いられませんから、見に行って一発で終わるんですけれども、基本的には中操の計器で連続監視するのが一番いいわけですけれども、できなければ、確認してという話。

吉田調書 2011年7月22日 34ページ

最前線が中央操作室から、さらに危険な原子炉建屋内部まで広がっていく。「一発で終わる」とは、一回計器を見に行っただけで被曝の許容限度を超えてしまうということだろうか。そんな現場で計器を確認するのは、圧力とともに炉心の水位だった。

○質問者 水位については、こちらのパラメータでも書いてありますけれども、21時30分現在で、これはA系統の方ですね、燃料域で450ミリ、22時で550ミリという、こういう水位が見えて来たということですね。このころ、この程度の水位があることを見た時に、どのように思いましたか。

○回答者 ほっとしました。

○質問者 そうすると、見えていないときも、炉心が露出しているかもしれないというのは。

○回答者 要するに、最終的には、その状況はわからないんですけれども、水位が確保されているかどうかというのが、一番大きいポイントですから、炉心が溶ける、溶けない、水位がある値よりも上にいってくれているということは、要するに安心材料なんです。

吉田調書 2011年7月22日 34ページ

水位計への信頼が揺らぐ。ICは動いているのか

○質問者 その後は、ずっと1号機の方が水位が見えるという状況なわけですね。

○回答者 だけど、見えているんですけれども、やはりおかしいぞというのは、格納容器の圧力が上がっていたり、水位の値は全然変わらなくて、何で格納容器のドライウェル圧力がこんなに上がっているんだとか、その後で、原子炉圧が何でこんなに下がっているんだというところと絡めて言えば、この水位は信用できないなというのは、やっとそのころ。

吉田調書 2011年7月22日 34ページ

ドライウェル、つまり格納容器の中心のフラスコ型をした部分、水が入っていない部分の圧力が、0時06分に800キロ、少し前の11時50分過ぎには600キロという情報は入って来ていたという。

○回答者 入ってきていますね。ですから、そこで、えっとまずありました。それから、何かおかしいというのは、もう一つ言うと、この21時51分で書いてありますけれども、この線量ですね。何でこんなに線量が上がるのと、現場に行った人間が計ってきたら、二重扉の南側か、西側か、北側か忘れましたけれども、どっちかが非常に高いというデータを聞いて、おかしいということなんです。

○質問者 そのおかしいということは、入域を禁止されている。

○回答者 まず、これは線量が高いですから、これで過剰被曝をしないようにしなければいけないので、まずは、入域禁止にしたわけですけれども、それとプラントの共同(ママ 注:挙動か)とが頭の中で結び付いていないんです。というのは、データがないですから、私はそのころ、ICは動いているね、水位は一応プラスあるねということからいって、そこと線量が上がっていることと、だけれでも何かおかしいと、水位がおかしいのか、何かおかしいだろうという中で、12時前後にドライウェル圧力が高そうだということから、中はひどい状態になっている可能性が高いと、そこから思い始めたわけです。

吉田調書 2011年7月22日 35ページ

話が緊迫の度を増していく。圧力、水位の話だったところに、高線量という致命的な情報が飛び込んできたのだ。質問者は、11時台のサーベイの結果、「タービン建屋1階、北側二重扉前で1.2mSv、あと0.5mSvというのが南側の方で、あと、ご記憶にあるかどうかということなんですが、1号機の原子炉建屋の方の当直員がAPD(注:ポケット線量計)で継続すると、10秒程度で0.8mSv」という情報を確認しているか吉田所長に尋ねる。

○回答者 そこは記憶にないです。その後も高いという話が入ってきているので、中央操作室の運転員の線量が高いという情報については、私の記憶の中に入っていたかもわからないけれども、記憶から抜けている。

吉田調書 2011年7月22日 35ページ

リーク、放射性物質漏えいを巡る緊迫のやり取り

○質問者 それと、そのころICはまだ動いているという認識ですか。

○回答者 だから、そこら辺が疑心暗鬼になり始めている。ですから、水位だけ見ているとあるんだけれども、これは何か変なことが起こっていると、ICが止まっているのか、要するに冷却源がなくなっている状態かなというふうに思い始めている。

吉田調書 2011年7月22日 35ページ

炉心の水位に余裕があれば、格納容器の高い気圧が説明できない。どの計器のデータを信じていいのか分からない状況の中、空間線量が極めて高いという情報は大きな衝撃だっただろう。吉田所長は、ここではまだ淡々と答えているように見える。

○質問者 その変なことなんですけれども、要するに圧力容器や格納容器のどかかから、こういった線量が上昇するということは、何かリークがあるんじゃないかというような発想は、その時点ではあるんですか。

○回答者 あります。

○質問者 それは、線量が上昇しているころは、そういう認識はあったんですか。

○回答者 あります。ですから、何だろうと、まず、なにせ監視計器が全然生きていないですから、何の想像もできないんです。例えば通常であれば、エリアモニターとかいって、いろんな場所の放射線量を連続的に測定しているモニターがあるわけです、建屋の中の、それが死んでいますから、そのエリアモニターがあれば、どこのエリアの線量が高くなって、そこの近くの配管か何かから漏れがあればわかるわけですね。そのためにエリアモニターがあるんですが、全然生きていないですから、わかりません。何せ判断するものが何もない状態です。

吉田調書 2011年7月22日 35~36ページ

「わかりません。何せ判断するものが何もない状態です」とはどういうことだろう。次のやりとりは、吉田所長が追い詰められていくかのようにも見える。文字を負っているだけで、質問者と回答者のチェースが目に浮かんでくる。

○質問者 今にして思うと、どういう。

○回答者 今にして思うと、この水位計をある程度信用していたのが間違いで。

○質問者 もう水位が下がっていたと。

○回答者 下がっているということは間違いない。ですから、本来であれば、そのICの話になりますけれども、もう少ししっかりとICの運転の状況を早めに確認をして、中操の状況があれば、ICが動いていないと、これはひどいぞということで、ただし、やることは、結局、DDポンプで、消火ポンプで入れるということと、最後に消防車でいれることぐらいしかできなかったので、気づいていたら、それが早くできたかというと、物理的にはできなかったということが、結論から言うと同じなんですけれども、そこに対する認識が早く持てたか、持てなかったかというと、今から思えば。

吉田調書 2011年7月22日 35~36ページ

そして、質問者が回答者に追いつく。

○質問者 水位計の水位がおかしかったと。

○回答者 間違いなくおかしかった。そこを信用し過ぎていたというところについては、大反省です。

吉田調書 2011年7月22日 36ページ

「大反省です」

ここで吉田所長が語った言葉の意味は非常に大きい。続いてその時点で考えられた状況について吉田所長が語り出す。図を示しながら話しているのか、こころに波風が立っているのか、理由は不明だがカタカナが多用される。

○回答者 水位計そのものの体制よりも、さっき言いましたように、線量が上がっているとおかしいと、普通に冷却が効いていれば、原子炉の各号は効いているわけですから、水位はあって、ここから漏れることはまずないわけですから、線量が上がることはないわけですね。線量が上がるということは、結局、ここに放射能が全部閉じ込められていますから、結局、これが外に出るということは、圧力容器から漏れて、その漏れてものが格納容器から漏れているようにしか考えられない。そのときに、炉の状況がどうなんだってわからないです。炉圧がわからないし、水位はあれですから、想像すると、要するに燃料損傷に至っている可能性はあるなと、燃料損傷するということは何かというと、圧力容器の圧力がホールドできなくなって、中の放射線物質が格納容器の中で噴出するためには、圧力容器のバウンダリ―がどこかでブレークしていなと出ていきませんから、そういう状態を1つ想像する。それからその出ていったものが、格納容器の中でホールドできなくて出ていっているということしか考えられない。

○質問者 それは、線量が通常ありえないような数値を示すには、そのような可能性は考慮されていたということですか。

○回答者 はい。

吉田調書 2011年7月22日 36ページ

そして、要するに、「はい」。

ベントの話題で、インタビューに乱れ

線量が高いということから、燃料損傷の可能性を判断したと吉田所長は述べている。損傷するとしたらその原因は言うまでもなく、燃料そのものが発する崩壊熱。事態を収拾するためには冷やすための注水が不可欠だ。しかし、事態はさらに進展してた。この高い圧力に格納容器が耐えられるかどうかという問題だ。

○質問者 実際に、それを追いかけるようにということなんでしょうけれども、日が変わるころですね、ドライウェル圧力が600ということで、やはりこれは格納容器の方に圧力容器から漏れているんではないかという懸念という物を考えられた。

○回答者 考えて、この圧力が600キロだとすると、圧力容器から格納容器の中に漏れているとしか考えられない。

吉田調書 2011年7月22日 37ページ

圧力容器から格納容器に漏れている状態で、格納容器が高い圧力に耐えられなければ、極めて高濃度の放射性物質が外に放出されることになってしまう。

そこでベントの問題が質疑のテーマになっていくが、前々回に指摘したように質問者サイドから横槍的な、誘導的な、なんとも理解できない質問が出されて、質疑の流れが二度ほどストップしてしまう。

その後、質問の流れが変わる。水素爆発の危険をどう考えたかということだ。ここでも横槍が入る。

○質問者 先ほど水素爆発は全く考えなかったというお話ですけれども、我々素人から考えますと、放射性物質は漏れるのに水素は漏れないというのは論理的におかしいですね。それから高温で炉心が傷むような時に水素がでるというのも常識だと、それなのに、水素爆発は全く意外だったと、テレビで班目委員長なんかそういうふうにおっしゃっている。それは何か変なんじゃないかのと。

○質問者 我々は思い込みが強いんですけれども、格納容器の爆発をすごく気にしたわけです。今から思えばあほなんですけれども、格納容器が爆発するぐらいの水素、酸素が発生しているのに、それがバイパスフローで、リークフローで建屋にたまるという発想が、もう一つはSGTS(注:非常用ガス処理装置)というのが生きていれば、普通は非常用で換気空調でそこから外に出している。極端にいうと、SGTSが死んでいるにもかかわらず、(後略)

○質問者 すかすかだというイメージなんですね。

○回答者 そうなんです。事故想定の中に入っていなかったというのは、ほかの国、アメリカでもそうですけれども、そう言っていますからね。だから、そこは、先生おっしゃるように、原子力屋の盲点、物凄い大きな盲点。所長としては、何とも言えないんですけれども。

吉田調書 2011年7月22日 42~43ページ

聞くに堪えないやり取りだが、続きも引用する。

○質問者 これは、結局、まだ技術が若いんだという感じがするんですね。だから、逆のことを言うと、今回、授業料を払ったんだから、この手の考え方のところは、普通に考えるのとは違うレベルで徹底的に考えないともったいないですね。

○回答者 本当は、今回のものを設計にどう生かすかというところが一番重要だと思って、これからこの国が原子力を続けられるかどうか知りませんけれども、続けられるとするのであればですね。

○質問者 本当にそう思うな。

吉田調書 2011年7月22日 43ページ

「授業料」という言葉は、何かで失敗した時に、それを次に生かそうという文脈で語られる言葉だ。このインタビューの目的が何なのか、疑いたくなる。事故の原因に迫ることが目的ではなく、事故報告を出すまでもなくこの国が原子力を続けることが前提のような印象だ。この辺り、仮に雑談としてもひど過ぎる。

注水が炉心に届いているかどうか分からない現実

格納容器の圧力上昇でベントの必要性についてやり取りが行われた後、おそらくは漏れたおかげで圧力が低下した圧力容器の炉心への、消防車による注水作業に話は移る。

○質問者 それで、5時46分の時点では、これは、圧力が書いていないですけれども、パラメーターではね、このとき淡水注入開始とあるんですけれども、水がこれは入って。

○回答者 これは、非常に我々もそこをどいういふうに判断するのか難しくて、水が本当に入っているかどうかなんですけれども、要するに、もう流れているかどうかくらいしかないです。流量計もないもないですから、ホースのところを持ってですね、水が流れているかと、流れているということぐらいで入っているという判断しかないんです。さっき言ったように、圧力バランスの話ですから、チェッキ弁でこっちの押し込む圧力と向うの圧力の差分ですから、流量計も何もないところ、何か流れているよということで。

○質問者 脈動するというか、流れているような気がすると。

○回答者 そんな感じなんですよ。何の景気もないので、手探り状態です。あとは、水が減っているということしか確認できていない。

吉田調書 2011年7月22日 48ページ

チェッキ弁、チェック弁とは逆止弁のこと。圧力次第で一方通行で開閉する。それにしても、この時点で最後に残された注水の手段だったが、しっかり炉心まで水が入っているのかを確認するすべもないという現実。

東京電力の取締役で、発電所の責任者である吉田所長をして「手探り状態」といわしめる、この原発施設の現実は重たい。

原発の外、近隣住民の動向は「わからない」

今回の部分を締めくくるにあたって、もうひとつ「わからない」と吉田所長が発言した内容を伝えなければならない。

○質問者 それから、この時系列に沿っていきますと、その後、ベントの話がずっと続いて行っているんですが、ここに、6時33分のところで、地域の避難状況として、大熊町から都路方面に移動を検討中であることを確認とあるんですけれども、こういった地域の方々の避難状況がどうなのかということについては、これは、情報としては、こちらのプラント内、これは本部の方に入ってくるんですか。

○回答者 これは、本店から。

(中略)

○質問者 いろいろと向うの自治体との間での、今、こちらはどういう状況で、自治体の方はどういう状況でというところで、お互いに連携を取らなければいけないと思うんですが、それはオフサイトセンターなんかで取られているんですか。

○回答者 基本的にはオフサイトセンターです。それが取られていたかどうかは、私はわかりません。一義的にやるのがオフサイトセンターになっているはずですから、原災法上はですね。

吉田調書 2011年7月22日 49ページ

事故対応で大変だったのだろう。しかし、放射能が漏れないようにすることが事故対応の最大の目的である以上、原発内部で進む緊迫した状況が、免震重要棟の緊急対策本部から数キロ外側の住民にどのように知らされているのかわからない、また、住民の動向がどうであるかといった情報を、事故対応する上で取ろうとした気配がまったくないのがどういうことなのか、まったく理解できない。

質問者は、ここで深追いしようとせず、質問を畳もうとする。

○質問者 では、ここは余り。

○回答者 外の話は、私全然わかりません。結果として、こういう状況ですということが入ってきているのが、本店を通じて入ってきているということしかないんです。

吉田調書 2011年7月22日 49ページ

もう結構ですと質問を終わろうとする質問者に、吉田所長は「外の話は、私全然わかりません」と当然のことのように言う。

東京電力には、事故は絶対起こさない、万一事故が起きた時には被害を最小限に食い止めるという思想があったはずだ。当然膨大なマニュアルもあっただろう。訓練だってもちろんだ。しかし、なぜ事故を起こしてはならないのかという根本的な理念があったのかどうか、疑問に思わざるを得ない。

(つづく)
次回は、事故直後から報道などで大きく扱われてきた、菅総理の原発入りの箇所を読み進めます。

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