息子へ。東北からの手紙(2014年8月13日)

iRyota25

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これまでに何度か訪ねたことがある場所で、なつかしい人たちとたくさん話をして、ご飯をいただいて、お酒も飲んで、そしてやっぱり震災のことを話して。夜もだいぶん更けてきた頃、

「これね、ボランティアの人たちとか、久しぶりに訪ねてきてくれた人に見てもらっているんですよ」

と、パネルに貼った何枚もの写真を見せてくれた。

それは、被災する前の町の様子を写した写真。津波で写真を流された人も多いだろうから、きっとボランティアさんたちだけじゃなく、町の人たちとも見ている写真なんだろうなと思いながら、パネルの写真を一枚一枚見せてもらった。

そしたらその中に、びっくりするような一枚があった。それは、震災の前の大漁祭りで撮影された写真。そこには、テントの中からお祭りを見ている人たちの笑顔が写されていた。

笑顔? そう、それは見たこともないくらい素晴らしい笑顔。なんの憂いも一切の曇りもない、素晴らしいとしかいいようのない笑顔。見せてもらったこちらの心まで現れてしまうくらいに素敵な笑顔だった。

そして、本当にバカだったんだけど、ついこんなことを口走ってしまったんだ。

「こんな笑顔、見たことない」

言っちゃった後に、しまったと後悔した。不用意な一言を心底悔やんだ。「本当にそうですね、なかなかこんな風に底抜けに笑えることって、震災の後にはなかったかもしれませんね」と言葉を合わせてくれたけれど。

そうなんだ。笑顔が、最高の笑顔が心をえぐるんだ。

このことを伝えてどうなるのか、よく分からない。だけど、自分のなかにあまりにも鮮明なコントラストをもって、この時のことがずっと残っている。これが何かの物語につながっていくのかどうかも分からない。

そんなことがあったんだということを、書き送っておきます。ではまた。

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