息子へ。被災地からの手紙(2013年8月13日)

iRyota25

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岩手県大船渡市→宮城県気仙沼市→宮城県仙台市

東北で過ごした夏休みの帰り道、大船渡から仙台に向かうバスの車中でのこと。

気仙沼バイパスの鹿折地区にあるバス停にバスが停車した。外の景色を見たり、スマホをやったりで、あまり注意していなかったのだが、そのバス停から乗り込んだ数人の乗客があった。バスの外にはおじいさんとおばあさんの2人が立って、バスに乗ったたぶん息子か娘さんの方を、ニコニコ笑いながら見送っていた。もしかしたら小さなお孫さんもバスに乗っていたかもしれない。

2人とも、年の頃は60前くらいかな。
表情は若々しいけど、しわがくっきり刻まれているのは、外での仕事をがんばってきたってことかな。なんてことをちらっと思った。

そんな「ちょっと」のことだけど、バスの乗客を見送っている2人のことが気になったのは、笑顔がとびっきりだったから。

お盆休みに帰省してきたこどもが都会に帰って行くというシチュエーションだ。
これが自分の親だったら、とか自分だったら、あんな風に笑って別れることができるだろうか。俺は保育園の前での毎朝のお前との子別れの場面を思い出したよ。(何年前の話だ!)

それほど、ちょっと考えられないくらいに、だけどとっても柔らかないい笑顔だった。しかも、2人の笑顔がまるっきり同じだったんだ。

バスは時間調整でもしているのか、なかなか発車しない。
外の2人は笑顔のまま、バスの後ろの方の席を見詰めている。と、おばあさんがふと目を外した。なかなか発車しないバスに間が持たなくて、たぶん息子さんか娘さんが目をそらしたんだろう。おじいさんも目をそらした。その時、2人と目が合った。

3人で目を合わせて、小さくニコッと笑った。
「そういうもんなんだよね」
状況を分かり合ってお互い苦笑したような、そんな笑いだった。

切なくてつい目をそらしちゃう。
間が持たなくってそらしちゃったのかもしれない。
でも、本当はもっと違った風に別れたかったはずなんだ。

バスは何分停まっていたのか、たぶんほんの1分か2分くらいなもんだろう。プシューッとようやくドアが閉まって、バスはゆっくり動き出した。

2人はバスの後ろの方に座っているご家族に手を振る「おまけ」に、父さんにもちらっとバイバイしてくれたんだ。

俺も小さく手を振った。ことばひとつも交わさなくても、なんか通じた。父さんの想像とはまったく違うシチュエーションだったかもしれないけれど、見ず知らずの人が「気を付けて行ってらっしゃい」と手を振ってくれた。

気仙沼の鹿折は、津波で大きな被害を受けた。バイパス沿いから山の方にかけては、ちょうど津波の最先端で、壊された建物と残った家がまばらに存在する。たぶん――、といろいろ想像することはできるけれど、

あの笑顔の明るさに出会えたことを大切にしたい。
手を振り合って別れたこの経験そのものが宝物だ。

 【ぽたるページ】息子へ。被災地からの手紙
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最終更新:

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  • H

    habihabi64

    そのときのシーンを想像して、みなさんの笑顔や、目と目で通じ合うその瞬間や思いに、込み上げてくるものがありました。素敵な記事をありがとうございました。