国内には6,000を越す島々が存在します。それだけたくさん島があれば、中には一風変わった面白い島もちらほら見かけたりします。このシリーズでは、そんな島々の中でも「日本で唯一、●●な島」だけを取り上げて紹介していきたいと思います!話のネタに、島旅の参考にどうぞ!
鹿児島県、トカラ列島の口之島(くちのしま)には、日本で唯一の「野生の牛」が存在します。口之島は人口116人(2008年時点)、面積13.3㎢の小さな島です。その小さな島に、人間とほぼ同数のおよそ100頭の純血種の野生牛が生息していると言われています。
そもそも「野生の牛」という言葉が馴染まないかもしれません。実は、日本に限らず、世界中を見渡しても、「野生の牛」というのはほとんど存在しないと言われています。つまり、我々が知るところの乳牛や肉牛といった牛たちは、すべて誰かに飼われている畜産牛と見て良いのです。
だからこそ、口之島の牛たち「口之島牛」は、世界的に見てもかなり特異な存在。注目したいポイントをいくつか紹介いたします。
ココに注目!~日本で唯一たるポイント~
■1.島を歩けば牛に出会う?
口之島について、「下手をすると、人よりも牛とすれ違うことの方が多い」なんて聞いたことがあります。行動範囲は300㎡とそう広くないようですが、島内の歩道を親子連れで横切る姿など、島を訪れた人たちの目撃例はよく聞きます。
また、野生牛と言えど、基本的には飼われている牛たちとさほど変わらないのんびり屋だそうで、人間や車を見かけたところで動じることもないそうです。写真を撮るくらいには近づくこともできそうですね!牧場以外の場所で牛を見る機会なんて、そうそう無いのではないでしょうか。
特に、前岳山麓の原生林からセランマ温泉にかけての範囲が牛と出会うポイントだとか。
■2.学術的にも貴重な日本在来牛!
ただ「野生の牛」というわけではなく、【純血の日本在来牛】というのも、口之島牛が注目を集める要素です。特徴的なのはその体つきで、体重はわずか300~400kg程度。普通の牛がおよそ600~700kgと言われていますので、単純に比較した場合、3分の2から2分の1程度と見て良さそうです。牛としてはかなり小さな類のようです。そのほか、腹の部分に白斑が見られるのも特徴のひとつ。掛け合わせを繰り返した混血種などには見られませんし、白斑が無い方が見慣れた牛の姿ではないでしょうか。
例えば、身近なところで言えば、私たちが日ごろ口にするような「和牛」も、厳密には西洋種などの輸入種と交配を重ねた混血です。食べやすく美味しい肉質を求めた結果なのですが、別の観点から見れば、遺伝的多様性はかなり失われていると言わざるをえないようです。(つまり、種の絶滅を招きやすくなる)そういう意味でも、純血種として貴重な存在であることが伺えます。
絶滅危惧種でもあり、1928年には国の天然記念物に指定されています。島内では口之島牛のほか、管理下のもとで黒毛和牛も育てられているため、互いが触れ合うことの無いよう、柵がいくつか設けられています。種の保存のための取り組みのひとつだそうです。そこまでの存在でありながら、口之島の牛たちは、写真や動画を見る限り、かなりのんびりしたご様子。自分たちがそこまで貴重な存在と知ることなく、島に溶け込んで暮らしているようです。
■3.食用でなく闘牛用としてやってきた
そんな口之島牛のルーツは大正時代に遡ります。元々は闘牛用として徳之島などに出荷するための牛だったそう。もちろん、この時点では牧場があり、管理もされていたとの記録がありました。ただ、その管理そのものがうまくいかず、牛たちは野に放たれ、次第に野性化してしまったそうです。つまり、管理しきれなかった結果やむを得ず・・・というのが、事の発端とされています。
ところが、島に育つ豊富な植物は牛たちにとって何ひとつ不都合はなかったようです。特に変わった出来事も無く、牛たちは順調に生き続け、野生化して100年近い歴史を持つまでになりました。
しかし、牛の管理を止めても立派に生きていける牛たちを思えば、日本にはもっと野生の牛がたくさんいて良い気がしちゃいます。この島で見られる野生牛こそ、牛の本来の姿なのかも知れませんね。
口之島
日本で唯一の野生牛が暮らす島!
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