ホストクラブとは男性従業員が女性客の隣に座って接待をする飲食店。主役はあくまでもお客様である女性です。ホストは女性を良い気分にさせて喜ばせるのがお仕事です。「イケメン！色恋トーク！枕営業！自分の持つ武器を駆使して女性を満足させてみろ！」という成果主義の特殊な世界。そんなファンタジーワールドに迷い込んだ僕のホスト体験記を告白します。 

B'zの歌マネを売りにするホストとして『イナバ』という源氏名を与えられた自分。体験入店3日間のテストもクリアしてホストの道を歩むことになりました。「よっしゃ！これからガンガン稼いだるでぇ！」と気合の入る新人もいるでしょうが、僕はまったく気合が入りませんでした。最初の1ヶ月間は店に入ることさえ怖かったのです。。。

『酒が飲めず、タバコも吸えず、女性も苦手』という3重苦を背負っており、ホストクラブは僕にとって超アウェーの舞台です。サッカー日本代表がソウルで韓国代表と対戦するくらい分が悪いわけです。緊張するわ、足はガクガク震えるわでパニック状態です。

出勤は午前5時からの日の出営業。体力を温存するために早寝早起きを実践するのが普通でしょう。しかしこれが・・・午前0時を過ぎてもまったく寝れなーい！『酒⇒タバコ⇒女⇒酒⇒タバコ⇒女』という文字が頭の中でグルグル回ってプレッシャーで潰されそうになっちゃいます。

元来、接客業が苦手でコンビニのバイトもろくに続かなかった自分が、見ず知らずの女性を相手に酒の接待するなんて無茶苦茶ハードルが高いんです。だが、しかーし！ハードルが高いのが原因ならば、徐々にハードルを上げていけばいいじゃないか？ということで思いついた作戦はガールズバーに通うことです。

ガールズバーはカウンター越しに女性にお酒を作ってもらうショットバーみたいな場所で、女の子と手軽に会話を楽しむことができるお店です。酒が苦手なら酒を飲んで体を慣らそう！接客が苦手なら女性と話して心を慣らそう！試合前のウォーミングアップみたいなもんです。出勤前の午前2時～4時までガールズバーに通うことに決めました。「金はかかる！でも俺はホストなんだ！金はいつでも取り戻せるさ！」という持論を展開しました。

ガールズバーの料金体系は飲み放題で1時間3000円、プラス女の子のドリンク代が1杯1000円でした。つまり、最低でも1時間4000円の料金を取られます。店内はAKB48みたいなアイドル系の制服を着た女の子が4～5人いて、かわいい系、美人系、ツンデレ系、ロリ系など、それぞれの長所を生かした個性的なスタッフを揃えています。

お客も個性的な人が多くて、風俗店でもないのに女の子の体を触る50代の男性が印象的でした。隙あらば女性の体に手を伸ばし、「おっぱい触んな！」と本気で怒られてるのが笑えました。キャバクラみたいな高級な接客ではなく、友達感覚でフランクに話してくれるのがいいところです。

下ネタばかりのセクハラトークをすると嫌われるし、「今日の髪型かわいいね」と誉めると素直に喜んでくれます。芝居のない素のトークを楽しめるので仕事前のウォーミングアップには最適の環境でした。ミナちゃんというかわいい系のスタッフは本音で話してくれる人で、「その服はダサいなぁ」とか「その発言は女の子に嫌われますよ」など、男を磨くためのアドバイスをしてくれるので勉強になりました。

僕がガールズバーに通っていた深夜帯は人の出入りが少なくて、客がいても1～2人です。そうなると暇な女の子が仕事を求めて集まってきてハーレム状態でウハウハなのですが、その分お金もかかります。1杯1000円のドリンクを4人に頼まれて4000円。「お腹すいた～」と料理をねだられてウインナーを2人前注文して2000円。カラオケ代が1曲200円で4曲歌って800円。女と話して、酒も飲んで、B'zの歌も練習してウォーミングアップ完了！

これでようやく度胸がついて、ホストクラブに出勤できます！

さて、お会計は・・・？

チャージ料　：2時間 6000円ドリンク代　  ：4杯   4000円

料理代　      ：2皿   2000円カラオケ代   ：4曲   800円

計 12800円

ホストクラブの日給は7000円。出勤する度に7000円－12800円＝‐5800円の赤字になります。

週4日の勤務で4×5800円＝‐23200円となり、1ヶ月17日勤務で17×‐5800円＝‐98600円となり・・・

ホストを始めてから1ヶ月足らずで10万円近くの赤字を出してしまったのです！赤字を現金で補てんすることもできず、クレジットカードのリボ払いで精算することに・・・

「これはあくまでも投資だぜ！売れたら返せる！売れたら全額返せるんじゃ～～！」

売れない若手芸人のような妄想を抱くようになり、ホストを盾にした借金生活が始まりました。