息子へ。被災地からのメール(2012年10月20日)

iRyota25

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2012年10月20日◆久之浜(福島県いわき市)

今日は久之浜・大久復興祭、奉奠祭(ほうてんさい)花火大会の当日。

お祭りを運営する地元の若者たち、サポートに入ったボランティアの人たちと一緒に、舞台の裏方をお手伝いしながら祭りを楽しみました。

奉奠というのは「玉串奉奠」の奉奠なんだ。神社で本式にお参りする時、榊を神前にお供えするだろう。あの榊を捧げる行為が奉奠。ただお供えするだけじゃなくて、感謝の気持ちや未来への決意を心の中で神様にお伝えして、その印として榊を捧げる。奉奠祭も、ただ花火を打ち上げるだけではなく、被災地で生き残ったみんなが、感謝と決意を込めて打ち上げる特別な花火大会なんだ。

昨年の第一回目(久之浜地域での花火大会としては約50年ぶりだったそうだ)は、子どもたちがステージの上で決意表明して、花火がドーン。というスタイルでした。

今年は3組の小中学生がステージで未来に向けての決意表明をした後、地元小学校とそのOB、OGによる「黒潮流みつもり太鼓」の演奏に合わせて、ドーン、ドーン、とたくさんの花火が打ち上げられました。

この時期に花火大会というのも不思議に思うかもしれないね。今回の経緯をざっとお話しましょう。

本当は昨年と同様に8月に開催する予定だったのだけど、“諸般の事情”により延期が決定。それも開催予定日の直前になって延期がアナウンスされるという異例の事態になった。聞いた話では、中止という案も出たけれど、復興のための花火大会を中止にしたくないという声もあっての“延期”だったのだとか。

昨年、地域の復活を目指してスタートした祭りを何とか継続させたいという熱が、地元のたくさんの人たちを動かして、8月30日には10月20日の開催を発表。協賛の募集など作業を一からリスタートして、ようやく今日の開催にこぎつけたんだ。

◆ 昨晩、祭りの準備で父さんがお手伝いしたこと。・大会本部テントに入れるテーブルの搬出

・荷物運びの軽トラック運転(マニュアルを運転できる人が不足していた!)・祭りのプログラムのホッチキス留め

・大会本部前掲示板の作成(久しぶりにトンカチを使ったよ)・出演者用駐車場のサインボード設置

まわりでは、他のスタッフやボランティアの人たちが、キャンドルサービス用のカラーキャンドル制作や、ワークショップの展示パネル制作、復興グッズ販売のPOP制作など、「ホントに前日の夜にこんなことしていていいの?」というような作業を、知恵と工夫と人海戦術で繰り広げていた。

そんな手作り感あふれる祭りになったのは、“延期”という事件があったことも影響していると思うけど、こんな手作り感あふれる祭りの準備に参加できて楽しかったよ。

準備会場で飛び交う言葉がまたいいんだな。地元福島の言葉と、そうじゃない言葉が混じり合って会話して、ひとつひとつ形が出来上がって行く。他ではなかなか経験できない、いい雰囲気だったよ。

◆ いい花火だった。やれて良かった。みんなと握手ばかりしていた

当日の任務は、音響さんのセッティングのサポートと、ステージ周りのお手伝い、そして取材。花火前の決意表明をする子どもたちの「本番直前の緊張の表情」を間近にして「ファイト!」と声をかけたり、ステージ(トラック)に上がるためのステップ代わりに積み上げたビール箱(これが不安定なんだ)を支えたり、あとはスタッフのみんなと一緒にガッツポーズしたりして、舞台裏から奉奠祭を体験しました。

太鼓の演奏に合わせて打ち上げられる花火も良かったけど、もっと感動的だったのは花火大会の終了後。

久之浜を何度か往復する中で知り合いになった町内会長さんや地域づくり協議会の方など「おじいちゃん」たちと再開できたこと。向こうも探してくれていたそうで、「久しぶり。会えて良かった」と握手。そして「いい花火だった」「やれて本当に良かった」と言いながらまた握手。「来年も続けられるようにがんばらないとね」とさらにまた握手。

「一時は中止かとやきもきしたけれど、花火をやれたおかげで、娘にも孫にも会うことができた。本当に良かったよ」

「年寄り連中だけでも花火大会をやるべしって話もあったんだよ。ようやく前に動き出して、こんないい花火大会になって、良かったー」

若い人たちと、おじいちゃんおばあちゃんたち、もちろん町の人々、そして震災以来ずっと駆けつけ続けてきたボランティアの人たち、今回はじめて参加した人たち。

いろいろな考えや思いがある中で、奉奠祭花火大会を挙行できたこと。この祭りで多くの人たちが再会し、言葉を交わし、握手しあい、未来を(部分的にでも)共有できたこと。

原発から30キロの町、久之浜でお祭りに参加できたことは、父さんにとって貴重な経験になりました。  

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