息子へ。被災地からのメール(2012年10月21日)

iRyota25

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2012年10月21日◆久之浜(福島県いわき市)~石巻(宮城県)

今日は福島県いわき市久之浜から宮城県石巻への移動日でした。移動日とはいえ、途中、南相馬の雑草が生えた瓦礫の山や、踏切の部分以外、線路が消えてしまった山元町や亘理町の津波被害の跡など、いろいろなものを目にしてきました。でも、これは写真を見せながらの方がいいと思うので、昨日と一昨日に久之浜の仮設商店街で聞いたお金と仕事の話を、短めにお伝えしようと思います。

原発から約30キロにある久之浜は、震災直後、まるで世の中から忘れ去られたような土地になっていたと云います。行政の支援もボランティアも入ってこず、郵便物まで隣町までしか配達されなかった時期もあったそうです。

しかし、久之浜の仮設商店街「浜風商店街」は日本で最初にオープンした仮設商店街です。

震災直後、世間から忘れ去られた状況だった3月末には、仮設商店街を作る!という計画が立ち上がっていたのだそうです。

9月3日にオープンした浜風商店街には、食堂、電器店、洋品店、魚屋さん、駄菓子屋さん、床屋さん、酒屋さん、食品スーパーなど12の店舗が入居しています。

「仮設商店街に入るに当たっては、お金のことは度外視だった」と、話を聞いたお店の方は皆さんそうおっしゃっていました。

お金は度外視。この言葉をそのまま受け取ってはいけません。商売をするためにはお金は不可欠です。毎月毎月お金は出て行きます。従業員の人件費、仕入れ、設備費などの運転資金、さらに建物などのローン返済中だったお店もあるでしょう。お店の規模によっては、運転資金を銀行や信用金庫から毎月借りて、売上から毎月返済するという形でお金を回していたところもあったはずです。

そんなお金の流れが、震災によって断ち切られたのです。借りたお金が返せなければ、一時的にではなく、ずっと商売ができなくなることもあります。支払の猶予などの政策もありましたが、ずっと返さないままでいられるものではありません。

そんな追いつめられた状況の中での「お金は度外視」という言葉なのです。

それでも――、

食品スーパーの方は、震災直後の3月末に仮設商店の話をもらって目標ができた。その話がなかったら、どうなったか分からないと言います。魚屋さんは、避難している時からおやじとお袋が「包丁で刺し身を切ってお客さんに届けたい」って言い続けてたんです、と話してくれました。

◆ お金のための仕事と生きるための仕事これは以前聞いた話ですが、原発のすぐ近くで個人タクシーを営業していた人が警戒区域の外側にある電気工事会社に再就職したそうです。国からの援助のほか、東京電力からも補償金が出るので生活する上でお金の苦労はなかったそうです。でも「仕事をしないでいるのが耐えられない」といって、未経験の仕事にチャレンジしたんだそうです。

放射線量が高く仕事を続けることができないことを苦に、自ら命を断ってしまった人の話も新聞などで報道されています。

仕事をする理由は「お金を稼ぐため」だけど、たとえお金があっても「仕事をせずにはいられない」という感情、というよりもっと強い思いが人間の中にはあるのだということを感じることがよくあります。

お金のための仕事なら、お金があれば働かなくてもいいという理屈になるでしょう。でも、どうやらそれは違っているようです。仕事には、お金のためという面だけではなく、生きるため、生かされるためという動機があるということ――。

父さんにとっても難しい話になってしまったけど、将来、仕事を始める時に考えてみてください。ぎりぎりの状況でも、お金度外視と言ってお店を再開した被災地の人たちのこと。いまのうちから時々でいいから、仕事をする意味について考えてもらえたら、もっといいことだと思います。  

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