天売島から考える地域振興とエコツーリズム

tanoshimasan

公開:

3 なるほど
2,389 VIEW
1 コメント

「海鳥の楽園」天売島をエコアイランドに!

大満足!でもどこか寂しい

 北海道の日本海側に浮かぶ天売島。お隣の焼尻島と共に北海道苫前郡羽幌町に属す、日本海の小さな島である。絶滅危惧種に指定されているウミガラス(オロロン鳥)をはじめ、多くの貴重な海鳥が飛来し、6月前後の繁殖期には100万羽前後を数えるほどだと言う。まさに「海鳥の楽園」だ。僕は5年ほど前に一度訪れたことがある。 たったの1泊2日であったが、その日の思い出は今も鮮明だ。行きのフェリーからたくさんのウミネコに迎えられた。バードウォッチングの知識はまるで皆無だったが、ほかにも何十種類と海鳥を確認。事前に仕入れていた情報通り、まさにそこは「海鳥の楽園」だと思った。同乗の常連と思しき観光客が「餌をあげてごらん。面白いよ。」と教えてくれた。差し出すお菓子をぱくっと上手にくわえるのだ。その瞬間をシャッターに収めると、なんだかとても良い写真をとった気がした。そして、島内の食堂・炭火焼「番屋」で食した海の幸の炙り焼きには「感動!」の一言。これといった味付けも施さない海の幸がなぜこれほどまでに美味いのか。一緒に行った仲間と共にはしゃいだ記憶も懐かしい。

 当時の印象を率直に述べると、「海鳥たちが飛び交う景色が最高!」、「島の食事(海の幸)が驚くほどうまい!」、「でも賑わっている風ではなく、全体的に少し寂しい」というところだった。とにかく日本海と海鳥たちを見渡せる特有の島景色、その日本海で育まれた魚介類が抜群で訪れて大満足。にも関わらず、満足している自分とは温度差を感じる「活気面での弱さ」を感じたのである。それは今まで自分が訪れてきた観光地と比べ、どこかひと気が少なかったり、8月の半ばながら行く先々で贅沢な景色を独り占めできたところにあるかも知れない。

地域振興を目指す天売島の取り組み

 今になって天売島の思い出を振り返るのには理由がある。天売島では9月、自然環境を保ちながら地域振興を目指す「羽幌町エコアイランド構想実証プロジェクト」がスタートした。海鳥をはじめ、多くの野生動物との共存を図りながら地域振興を図る構想だ。島の産業は漁業と春~夏にかけての観光業が主。ここでの地域振興とは「観光業の活性化」を指すと言っても過言ではない。5年前の当時、僕が感じた「活気面での弱さ」ではないが、やはり天売島としても地域振興の必要性を感じていたようである。(もっとも地域振興が必要なのは天売島に限った話ではないが)

 具体的には、

『島内での小型風力発電設備の試験導入や、電気自動車の普及促進およびエコ体験観光の推進といった、再生可能エネルギーの活用による「エコアイランド構想」の実現』(羽幌町公式HP「羽幌町エコアイランド構想実証プロジェクト」より抜粋)

だそう。 10月7日付の産経新聞において、留萌振興局地域政策課の渡邉氏は構想について以下のように述べていた。

 「来年は春から夏の観光シーズンに電気自動車を導入し、観光客にも乗ってもらおうと思っています。島の漁業関係者はほとんどが軽トラックを使っているので、三菱から新しく出る電気自動車の軽トラックも使用できたらいい。(後略)」と渡邉さん。
 道や町がエコアイランド構想を推進する目的の一つに、地域経済の活性化がある。留萌振興局がお手本にするのがデンマークのサムソ島で、人口は天売島の10倍も多いが、島内すべてを自然エネルギーでまかなっており、それが観光の付加価値にもなっている。
「離島観光はどこも厳しい状況で、天売島も例外ではない。(中略)エコをキーワードに観光とか漁業とかを結びつけることができたらと思う」と渡邉さん。
(産経新聞『“海鳥たちの天国”をエコアイランドに! 北海道・天売島の取り組み』10月7日配信)

 月並みな感想だが、とても素晴らしい取り組みだと思う。ぜひその構想を上手く実現していってほしい。

エコツーリズムとは何か

 さて、タイトルに改めて触れるが、エコツーリズムという言葉をご存知だろうか。環境省の定義によるとエコツーリズムとは、

『地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組み』

である。つまり、先ほどの天売島が目指している仕組みでもある。これもまた、素晴らしい仕組みだと思うのだが、僕はこの言葉を知った時、天売島での思い出を振り返ってなんとも言えない気分になった。僕らはフェリーに同乗していた観光客の方に促され、ウミネコに餌を与えたが、実はその後、天売島を中心とした海鳥の保護・研究などを行う北海道海鳥センターが、「ウミネコに餌を与えないで!」と呼びかけていることを知ったのである。すっかり楽しい思い出として残っていたシーンだ。しかし、炭水化物を消化できないウミネコにとって、人間の食べ物は毒にもなりうるのだ。「誰が悪い」と言うことではないかも知れないが、あえて言うなら、フェリーに乗って餌を与えた我々だと思う。 そしてまた、天売島以外の島々の観光情報を調べていると、同じく海鳥が多く飛来する冒島に関して「ウミネコに餌を与えるのも楽しいですよ」というニュアンスの記述も見た。個人的なブログなどの情報ではなく、公的機関(自治体)のHPでの話だ。

 エコツーリズムの取り組みは、島をはじめ、貴重な自然に恵まれた全国の観光地で見かける。また地域振興に関する取り組みにしても同様だ。ところが、各島は独自の取り組みに終始しているため、統一されたルールは特にない。もっとも島ごとに環境も生態系も違うため、統一しようがないところもあるだろう。 ただ、ウミネコの餌付けの例をあげると、どうも各島、各自治体の取り組みで終始するだけでは物足りないと思われる。島の自然は島だけのものに見えるが、自然は海を越えて繋がっているはずだ。海鳥が良い例ではないだろうか。僕の意見が正しいとまで自信を持つことは出来ないが、各島が良き取り組みをするだけではなく、島の垣根を越えたつながりが求められる気がする。

 地域振興に対しても、エコツーリズムに対しても。

 日刊楽島コラム
potaru.com

最終更新:

コメント(1

あなたもコメントしてみませんか?

すでにアカウントをお持ちの方はログイン

  • I

    iRyota25

    ウミネコ用の餌として売られているのは、松島でも佐渡でも浄土ヶ浜でもかっぱえびせんみたいですね。どうして?