島の農業について考えてみた。

tanoshimasan

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その1.島野菜の価値

(2012.10.01更新) 島の野菜を食したことはあるだろうか。いわゆる「島野菜」である。

 島の野菜については、僕も以前より興味があった。何せ、美味いのだ。興味があるだけでその分野の専門ではない。何がどう美味いかと言えば、「人それぞれ」というのが結論だ。しかしそれでも、仮にスーパーで流通している農産物や輸入品などと食べ比べをして人気投票を行えば、上位入賞は間違いないだろう。それほど味が格別なのだ。 たとえば、どこでもいいので実際に島へ行くとしよう。そうするとぜひ農協やスーパー(商店)にも注目してほしい。島産野菜が並んでいたならば要注目である。おそらくそのほとんどがブランド化すらされていない、島の農家の無名野菜のはずだ。それでもそんな野菜を「島野菜」と呼び、例えば、島にんじん、島だいこんといったように、頭に島を付けて「島○○」と呼ぶ。なんだかそれだけでありがたい気分になるのである。

 想像してみてほしい。たとえばランチに出かけたとして、『茄子とひき肉のトマトソースパスタ 650円』『島トマトを使った 茄子とひき肉のトマトソースパスタ 750円』100円高かったとしても、後者を選びたいと思う人も多いのではないだろうか。事実、飲食業界には「島ブランド」という概念があるらしい。他店との差別化を図るため、こだわり食材を追求するなか、島へと目線が向かうこともあるようだ。 ところが、その味や品質がにわかに注目されるなか、課題もある。多くの農家が儲かっていないのだ。

その2.適正価格ってなんだろう

(2012.10.02更新)

 都内の青空市で、愛媛県のとある離島で作られたレモンを食べる機会があったのだが、その美味さに驚愕してしまった。印象的だったのはみずみずしさ。僕が知るレモンの2倍は果汁が詰まっていたのではないだろうか。スーパーに並ぶ輸入品よりもまるく、緑色。何より香りが爽やかで、これを楽しむだけでも価値があると感じた。「防腐剤やワックスは当然不使用。皮も十分使えるし美味しいよ」と、店主も胸を張る。 値段は3個で500円。スーパーで見かける輸入品のレモンなら、6個入って300円前後、国産品でも1個100円はする印象があった。そう考えると決して安くはない。しかし、飛ぶように売れていたのだ。この値段設定で一定の収益は確保できているという。

 とは言え、こういったケースはまれだろう。先日「沖縄のとある離島の農家の平均年収は100万円前後」というニュースを見た。極端な例ではあるが、そういった貧しさの現実もある。そして、これに代表されるように、多くの離島農家は収入面での課題を抱えているのだ。 問題点は3つある。1つは「島外からの安い野菜の流入」だ。最初に断わっておくと、島外から野菜が入ることを否定したいのではない。だが、島内の野菜以上に売れてしまっては、成す術がないのだ。結果的に、どれだけ優れた野菜をつくっていようと「野菜の値段はこういうものなのか」と、自ら値段を下げて対抗する。これでは利益の確保は難しくなってしまう。

 次に「複雑な流通過程」があげられる。これは、農家からスーパーの店頭に並ぶまでに、JA、卸売市場、仲卸業者を介することで、ムラのある需要に応え、供給の不安定さも解消しているのだ。たとえば、仮に農家が飲食店と直接的な取引をする。その場合、農家が品切れを起こしてしまえばそれまでだが、複雑な流通過程の中で、そういった問題は解消されていく。しかし、業者を介せば介すほど、そこに手数料が発生する。 そして何より「売るノウハウがない」。それまで島内の流通だけで足りていたところに、販売方法や経路の多様化しても付いていけない農家も多い。中にはネット通販や、移動販売など、自力で開拓する農家もあるようだが、それは少数。

 全国的に流通する野菜と比較すると、離島農家においての栽培にかかる手間暇や努力はまた違う種類のものである。それでも、同じような低価格帯で販売することに無理が生じるのは至極当然のことだろう。

その3.ブランド構築のために

(2012.10.03更新)

 さて、前述の青空市だが、スーパーの相場より100~500円は高いものでも、よく売れていたのが全体的な印象だ。僕は800円の島レモンドレッシングほか数点を購入した。やはり決して安くはない。 そんななか、何が購入の決め手になったかと言えば、試食と対面販売だった。自信があってのことだろう。まずは試食のジャブを放ってくる。僕が「美味しい!」と感嘆の声をあげているところに、商品の魅力を熱弁するというフックを入れる。すっかり惚れ込んだ僕が購入の意思を示すと、すかさず「違う商品を1個おまけ」というストレートパンチ!言葉にするとこうもあっさりかと思えるが、本当にこれだけでノックアウト。それまで名前も知らなかったような、そんな愛媛の小さな島からやってきたお店のファンとなるのに時間は掛からなかった。欲しい情報はその場に全てあったのだ。

 本来、なかなかこうはいかない。スーパーでは対面販売が衰退し、野菜は規則正しく並ぶようになった。正直な話、我々のような一般の生活者、いわゆる野菜の素人では、よほどの目利きでない限り、見た目で品質の良し悪しを見抜けるはずもないだろう。棚にレモンがあったとして、農薬や防腐剤の有無まで見抜けるだろうか。せいぜい得られる情報は産地と値段。それすら、時折偽装問題のニュースを見かけるくらいだ。ひねくれた言い方をすれば、表記された情報すらどこまで信じて良いか怪しいものである。中には産直コーナーが用意され、生産者の顔が見える仕組みを整えているスーパーも存在する。存在はするが稀である。 効率化の図られた現在のスーパーのような販売形態を批判したいわけではない。それが低コスト化を実現し、我々に野菜が安く供給される。それはそれで素晴らしいことである。しかし、島で野菜を生産する離島農家の方々は、野菜の販売方法に応じた住み分けが必要ではないだろうか。

 前述の島レモンを販売する店主は、あくまで対面販売にこだわる。「僕たちは野菜を知っている。生産者を知っている。だから語れる。そうすることで何より欲しいお客さんの反応がその場で見れる。自信を持って価格を決められる。」

と言う。自分たちがつくっている野菜の価値を、知っているのも伝えられるのも自分たち自身。裏を返せば、農家たちが平等に持っている強力な武器だとすら思えてくる。 青空市出店のたび、愛媛から都内までの1000km近い距離を車で移動するという店主。対面販売から、口コミで徐々に知ってもらえることが一番の理想だそうだ。こんなエピソードもある。とある日、商品が日経新聞に掲載されたことで、爆発的な注文が起こった。電話が鳴りやまず、着信だけでバッテリーが切れそうなほどで、結果的に売り上げは大幅に伸びた。出荷が間に合わず、対応に追われるだけで精一杯だったという。だからこそ、広く認知されるにしてもその姿勢には十分な注意を払う。

「身の丈に合った範囲から行動して着実に知ってもらう。やっぱり対面販売が一番だし、ブランドの構築になる。何より楽しい。」

 最近は農家も情報発信に積極的だ。たとえばtwitterやブログはもちろん、facebookのコミュニティなどを開設したり、独自のブランド構築に余念のない農家も実は何気に多く、島からの発信も探せばたくさん見つかる。ここではあえて紹介しない。ただ、島を訪れた際は、ぜひそういう部分にも目を向けて頂きたい。食事やお土産が充実し、旅が少し楽しくなることは間違いないと断言する。

 日刊楽島コラム
potaru.com

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