女川入りした私たちを待ち受けていたもの
やっとの想いで女川へ帰れたのは
3/13(日)午前のことだった
女川は消えていた
至る所に”そこに有るはずの無いもの”がある
ビルの屋上にはひっくり返った乗用車
電信柱のてっぺんにぶら下がる家庭用プロパンガスボンベ
山の斜面に突き刺さってる漁船は素人目には何十トンあるのか見当もつかない
ありとあらゆるものがぐちゃぐちゃに折り重なり合いうず高く積まれ黒い壁となり
重機でかき分け造られたばかりの道筋だけが町内へ導くようにスーッと一本通っていた
「なにこれ…?なにこれ…?」
目の前の惨状が理解できないまま
切り開かれた道をふらふらと歩いた
始めて顔見知りの人と出会った!
前から歩いてくる男性とふと目が合った
疲れ切ったその男性は娘の友達のお父さん、海鮮問屋の青木さんだった
「あっ・・・那須野さん!」
「あ~!青木ぱぱ・・・!」
知ってる人に会えた途端に張りつめてた糸がプツリと切れた
「なにこれ…?女川…ねぐなって(無くなって)しまったっちゃ…」
スタートボタンを押されたかのように涙が次から次へとあふれて止まらない
「小学生はみんな無事だがら!大丈夫だがら!早ぐ行ってあげで!」
子供たちは無事!
バッと目の前が白く明るくなった
一番知りたかった子供の安否をようやく確認できた
青木さんと会い、話して、泣いたら
少し落ち着いて自分を取り戻すことが出来た
「子供たち待ってっぺね?」
「先ずは学校だ」
さっきよりもしっかりとした足取りでダンナと歩き出した
「どご探してもいねぇんだ」
女川第二小学校と総合体育館は人でごった返していた
皆一様に険しい顔をして、右往左往している
行政区ごとに安否を確認するため名前を記入する場所が設けられていた
石浜東と書かれた列へ並び夫婦の名前と住所を記入した
そこでダンナの弟とバッタリ出会う!
わたしの2歳の次男とダンナの母、祖父母と共に高台の崎山公園へ逃げて今は第三小学校へ避難しているとの事
祖母が体調を崩しヘリコプター救助の要請をしにガレキ中を何キロも歩いてきたところだった
家族9名の全員の無事がようやく確認できた!
「いがった…!」
本当は叫びたいくらいに嬉しかった
でもそこは既に、そんな事できる空気では無かった
近くで何人か固まって話をしていたおばちゃんが突然大声で泣き出した
「オライの母ちゃんダメだったの~」と知人を見つけ駆け寄る若い女性
そのまま人目もはばからず抱き合い号泣している
なんてことが起きてしまったんだろう…
そこに息子の同級生のお父さんを見つけた
「ああ良がった!無事だったんだね…奥さんは?」
私は駆け寄りなんのためらいも無く質問していた
するとそのお父さんの顔がみるみる赤くなって…顔をゆがめて声を絞り出した
「どご探してもいねぇんだ…」
「…は?」
「避難所探し回ってんだげっと、どごさもいねぇ…」
「…なんで?…なんでぇ?…」
頭を殴られたような衝撃が走った
ようやく念願だった二人目を身ごもった彼女は
こないだの授業参観で「つわりよりも便秘がひどくってさ~」って
笑いながら話してた
女の子だって
とっても嬉しそうに話してた
お義母さんとお義父さんが地震のあと真っ先に会社へ迎えに行ったのに
「会社のみんなと残るから小学校に行ってて」って
清水地区にある水産加工会社は
ガレキだらけで立ち入る事すらままならない
お父さんにかける言葉がみつからない
お父さんの太い腕を強くにぎって泣くことしかできなかった
助かったことに感じる罪悪感
涙を拭きながら歩いていると今度は娘のママ友の姿
「あ~!あっこちゃん無事で良がった!」
「公美ちゃんも無事で良かった!ゴメンちょっと急いでるから…!」
走り去る姿を眺めてると別のママ友が駆け寄ってきた
「あっこちゃんのご主人が行方不明なんだって、下の子と一緒に…」
「…え!?」
たまたま単身赴任先から車検のためにその日女川へ帰省していたご主人
あっこちゃんは下の子と郵便局で地震に遭い、心配して迎えに来たご主人に下の子を預け、自分は上の子がいる小学校へ走った
自宅は高台に建つ役場のとなり
「津波で避難なんて今まで一度もしたこと無いから絶対逃げてるわけ無いんだ」って言ってたよ
嘘だ、そんなの嘘だ
行方不明のその子は我が家の3番目と同い年
一緒にマタニティ期間を過ごし、この前は自宅にお邪魔して一緒に遊んだんだ
声を掛ける人かける人、それぞれ行方を探す誰かがいる
「もう誰に会っても話しかけんな、な?」
見かねたダンナが私を諭すように言ってきた
助かって良かった!と話しかけると
無事では無い、誰かの話を聞くことになる
そうかもしれない
もう話しかけない方がいいのかもしれない
ひたすら親の迎えを待つ子供
娘たちを二日ぶりにようやく迎えに行くことが出来た
よくよく話を聞くと自分のお迎えは最後から2番目だと言う
「いちばん最後に残った子は?」
「○○ちゃん、二人で誰も迎えに来なかったらどうしようって話してたの」
信じられなかった
だってその子のお母さんとは日曜日に会ったばかり
イオンのフードコートが激混みで、二つの家族で合席をしてマックを食べたんだ
数日後そのお母さんがダメだったと聞かされた
玄関の割れたお雛様のケースを片付けていたのを最後にご主人が見たって
フォークリフトを高台に上げてるうちに津波が家もろともかっさらっていった
なんてことが起きてしまったんだろう
亡くなった知人の数はいくつまで数えればいいの?
町全体が悲しみにつつまれ、暗く深い海の底に沈んでしまったかのよう
そしてその海の底には
家族の安否を尋ねられて
「全員無事でした」と言うことに
強烈な罪悪感を抱く
自分がいた
文●那須野公美
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