七夕豪雨を学ぶ

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静岡駅から南下して久能街道を進んでいくと「かわなび」という看板があります。看板の通り、細い道から住宅街に入ると見えてきたのが茶色の建物。

ここは、静岡市治水交流資料館という施設で、過去の水害(七夕豪雨)を教訓を後世に伝え続けています。「かわなび」というのはこの施設の愛称であり、「河川(かわ)」と「学び(なび)」という二つの言葉を組み合わせているそうです。

この施設の題材としている七夕豪雨とはどのような出来事だったのかというと、

1974年(昭和49年)7月7日(日)に台風8号の影響により静岡県全域で浸水害をもたらした集中豪雨。

七夕豪雨 - Wikipedia

台風の影響を受けたのは静岡県全域であり、中でも静岡市、旧清水市は甚大な被害を受けた地域です。

1974年7月7日午前9時から8日午前9時までの静岡市の24時間連続雨量は508mmを記録し、これは静岡地方気象台観測史上最高記録となった。

この雨により特に被害が大きかったのが静岡市内を流れる安倍川流域と、下流域が当時の清水市である巴川流域で、各所で決壊・氾濫が発生するとともに崖崩れ・土砂崩れが発生し、死者27名、全壊・流出家屋数32戸、床上浸水11,981戸、床下浸水14,143戸もの被害が発生した。それ以外の市町村では浜松市で死者8名、沼津市で死者5名、森町と富士市と三島市でそれぞれ死者1名の被害も発生した。

七夕豪雨 - Wikipedia

これまで静岡県東部で生活をしてきた自分は、過去の水害として1958年の狩野川台風には触れたことがありましたが、七夕豪雨のことは今回はじめて知りました。

広範囲に被害が及び静岡市、旧清水市の各所で洪水が発生した災害ですが、なぜこのようなことが起こったのか、そして、今後も起こり得る大雨に備えて、現在どのような対策がなされているのか。について知るために見学したいと思います。

館内で伝えていること

館内に入ると職員の方に、七夕災害の概要、展示している資料の説明していただきました。

「巴川って知ってますか?」

という質問に対して、

・主に静岡市清水区を流れている川
・河童の伝説がある
・水害が起きているイメージがある

といったとてもざっくりとものしか挙げられませんでした。
その中でも最後に挙げた、巴川は水害のイメージがあるのはなぜか?

これは今に始まったことではなく、昔から洪水が起こりやすいのですが、原因はいくつもあるのだと言います。

少しわかりづらいですが、川(水色)の形を強調した巴川流域の地図
少しわかりづらいですが、川(水色)の形を強調した巴川流域の地図

その一つに「九十九曲がり」と呼ばれるほど、くねくねと続く川の形状があります。そのため水の流れが悪く、溜まった土砂で水がせき止められやすい状態だったのです。

これに対して、初めて対策を講じたのが明治40年のこと。土砂が溜まりやすいポイントを起点として、屈曲部を減らし川をまっすぐの状態にする工事が人力で行われました。この工事を皮切りに治水対策は現在までに何度も行われています。

もう一つはこの比較表がわかりやすいのですが、近隣の河川と比べて巴川は傾斜がないため、流れが緩やか。一方で、同じ静岡市内に流れている安倍川は傾斜が巴川の約20倍もあり、広い川幅を持ちます。

静岡の市街地ではやはり駿府城公園が最も高いところになるので、避難先として有効
静岡の市街地ではやはり駿府城公園が最も高いところになるので、避難先として有効

また巴川は低地を流れているため、水の逃げ道がないとも言われています。断面図で見ると谷のような場所にあることがわかります。

地形を立体的に表す模型に七夕豪雨の洪水地点や川の変遷の様子などを投影
地形を立体的に表す模型に七夕豪雨の洪水地点や川の変遷の様子などを投影

他の河川と比べて洪水が起きやすい巴川ですが、どのような治水対策をしているのかと言うと、要点を絞って主に以下ポイントをお話しいただきました。

・川の水を海に流す放水路

静岡市の駿河区南部を流れていた大谷川(おおやがわ)を6.3km延長して放水路を建設。分流地点にはゴム製のチューブによって水をせき止められているのですが、雨によって水位が上がるとチューブ内の空気が抜けて放水路に水を逃がすような形になっています。

・一時的に水を溜める場

5つの工区に分けて整備されている上流の麻機(あさばた)遊水池、清水区の大内遊水池によって川の水を溜めることができる。麻機遊水池はすべて合わせると200ヘクタールととても大きい池。

また、これ以外にも学校のグラウンド、公園、駐車場、溜池など約800ヶ所の敷地を雨水貯留施設としてあてている。

・河道を改修する

下流部の川幅を広げたり、川底を掘るといった水位を下げるための工事や、流水の妨げになる橋脚をなくし、強度を持った橋の架け替えを行う。

見学を終えて

時間帯等、都合によって不可の場合もあるのかもしれませんが、今回は職員の方に館内の資料を一つずつ丁寧に説明していただき、貴重なお話しを聴くことができました。

説明の中で繰り返しおっしゃっていたのが、「これだけ細かく対策をしても万全ではない」ということです。長い年月をかけて広範囲に着々と治水の安全度が上がっていることは間違いありませんが、近年でも浸水被害は起こっていますし、今後これまでに経験したことのないような豪雨が発生する可能性もあります。

台風、豪雨、洪水…。時期的には関心が薄れがちになりますが、この時期だからこそしっかりと過去の教訓を学べる機会を持てるのかもしれません。

また、静岡市内の小学4年生の児童が毎年ここで見学授業を行っているそうで、視覚的な表現や漢字にふりがなが振られている説明文など、幅広い年齢層が学べる工夫が施されています。家族で楽しみながら学べる施設だと思います。

上の蛇口から子どもたちが実際に水を流して洪水の仕組みを学ぶのだそうです
上の蛇口から子どもたちが実際に水を流して洪水の仕組みを学ぶのだそうです

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