陸前高田での遺留品返還会場で、知り合いの男性と修復された写真データが入ったパソコンを覗き込んであれこれ話していると、数メートル離れたところで「あっ!」という大きな声がした。その声が自分の方に向けて発せられたものだと分かった。
パソコンの画面から顔を上げて見ると、そこには知り合いの女性の姿。挨拶しても、驚いたような彼女の表情は変わらない。「どうしてここにあなたがいるの?」彼女の顔にはそう書かれていた。
彼女とはボランティアでご一緒することも多く、それまでは道で出会っても長い立ち話をするのが常だったのだが、その日以来、変わった。
どんなに親しくしていても、立ち入ってはならない領域がある。遺留品が並べられているその場所は、このまちの人間ではない者がいてはならない場所。あの日の苦しみを共有した者しか立ち入ってはいけない場所。彼女からはっきりそう言われたわけではないが、私がそこにいたことが、彼女にとっては許せない(あるいは考えられない)ことだったのは間違いないだろう。
あの日以来、道で出会っても、会釈こそすれ、立ち話はおろか、目も合わさないくらいなのだから。
このまちの昔のことを知ってほしいからと、笑顔をで手招きして、一緒に写真を見せてくれる人がいる。一方、外から来た人が図々しくしているのが許せないという人もいる。悪気はないといいながら、嫌な思いをさせてしまう自分のような人間がいる。
こんなことを言うと逆なでするばかりかもしれないが、「震災からもうすぐ7年となるいまの、これがひとつの現実」。
最終更新: